芸人が平安貴族にこんなにもハマるとは。素敵な発見をさせてもらったのが、NHK大河ドラマ『光る君へ』(総合 毎週日曜20:00~ほか)である。

  • 『光る君へ』藤原実資役のロバート・秋山竜次

可笑しさだけでなく、キャラクターや芸風に趣も

世紀の大作家・紫式部(ドラマではまひろ)の少女期から『源氏物語』を生み出すまでの人生をベテラン脚本家・大石静氏が、歴史をもとに想像力を思いきり広げて描くオリジナルストーリー『光る君へ』。雅な平安文化の世界が、芸人たちによって親しみやすくなっている。

当時を知る貴重な資料である『小右記』を記した藤原実資を演じるロバート・秋山竜次を筆頭に、エリート4人組である“一条朝の四納言”のひとり藤原斉信を演じるはんにゃ.・金田哲。貴族ではないが、まひろの従者・乙丸役の矢部太郎。さらに、第5回では、お金持ちの侍従宰相という“お顔の四角いお方”としてザブングル加藤が出演し、その顔のアップだけで瞬間芸のごとく盛り上げた。

ロバート秋山、はんにゃ.金田、矢部太郎、ザブングル加藤。平安時代と芸人の因果関係とは何であろうか。演技の巧さは大前提で、それをさらに深掘ってみると、平安文学でよく使用される「いとおかし」(いとをかし)の概念にたどりつくのである。

「いとおかし」とは、「趣(おもむき)がある」「味わいがある」「興味深い」という意味で、『光る君へ』の主人公・まひろ(吉高由里子)こと紫式部や、これから登場する清少納言(ファーストサマーウイカ)の作品にもこの言葉は登場してくる。

「おかし」で、「可笑しい」「おもしろい」という意味もあるが、お笑い芸人だから、ただ面白おかしい、笑える、というだけでない。「趣」という独特なものが重要で、ロバート秋山、はんにゃ.金田、矢部太郎、サブングル加藤のキャラクターや芸風に、その「趣」がある。「じわじわくる」とか「くすりとなる」みたいな微妙なニュアンスが加わるということと理解していただきたい。

芸人たちの“いとおかし”ポイント

芸人たちの「いとおかし」ポイントを挙げてみよう。まず、ロバート秋山。彼が演じる実資は、とても知的で、理性的な人物である。鋭い洞察力をもった眼差し、貴族社会に染まりきらない、何事にも動じない個性、でも、女房たちにチクチク攻められ困惑するときの、ちょっと抜けたようなかわいげ。秋山は、丸い目とすこし尖った唇で、小鳥のような顔をして、なかなか得難いキャラクターに見事に作り込んでいる。

藤原道兼(玉置玲央)が父・兼家(段田安則)に命じられ、円融天皇(坂東巳之助)の食事に死なない程度の毒を入れることで体調を悪くして引退を決意するように仕向けた件で、実資は冷静に状況を推理し、女房たちが食事に何か入れているのではないかと調べようとした。だが、兼家・道兼父子のほうが上手で、女房に手を回し、実資の立場が悪くなってしまうエピソード(第3回)は最高だった。

藤原斉信を演じるはんにゃ.金田はすまし顔。いまのところ、端正な平安貴族顔キャラ然と、書を書いている。イケメンの誉れ高い町田啓太(藤原公任役)と並んで遜色なく見えるのだから、その美男ぶりたるや、感心するやら、可笑しいやら。

また、乙丸役の矢部太郎も、セリフも出番も多くはないが、常にちょこんとまひろに従っている小柄な姿に味わいがある。まひろが出かけないように見張っていて、思わず居眠りしてしまうところにも可笑しみがあった。背の高い民衆たちのなかをぴょんぴょん飛び跳ねている健気さも応援したくなる。

そして、ザブングル加藤。平安貴族は瓜実顔という先入観がなんとなくあるなかで、加藤の場合、四角い顔という意外性。だからこそ、姫たちにはお金はあるけど顔は……と思わせるキャラクターにふさわしかった。顔のアップだけで、この侍従宰相という人物に存在感や可笑しみを与えることを可能にしているのは、やっぱり芸人の力であろう。つくづくいいキャスティングだったと思う。紫式部や清少納言がこの4人を日記に書いたら、きっと「いとおかし」と評したに違いない。それぞれの表情に「いとおかし」とテロップを入れてもハマると思う。

芸人の出演で平安貴族が身近に感じられ、独特の異物感も

今回の大河ドラマは、これまで多く制作された戦国ものと比べて、あまり制作されていない平安もの。そのため、登場人物たちに馴染みが薄く、しかも“藤原”という名字の人物ばかりやけに出てきて、名前も覚えにくい。その不利な点を、芸人たちの出演によって、カバーしている。

わかりやすさや親しみやすさが増し、遠い存在の平安貴族たちが、至極身近に感じられる。また、身近に思える一方で、独特の平安貴族の異物感みたいなものも、芸人によって表現されている。

芸人たちには、コントによって、キャラクターの特性を、短時間に最適解で表現できる力がある。コントの場合、いかに、状況をわかりやすく伝えるかが重要で、そのキャラクターの輪郭をくっきり作りあげ、適切に演じることでコントの精度が上がる。『光る君へ』ではその能力が大いに生かされている。

とりわけロバート秋山は、「クリエイターズ・ファイル」をはじめとしたキャラクター芸に定評がある。2月3日に放送された『IPPONグランプリ』(フジテレビ系)で久しぶりに優勝したが、この決め手も、彼の芝居っ気であった。キャラを作るのがうまいこと、いかにもおもしろい言い方を長く続け(粘りと言われていた)お題を回答する。それによって、おもしろいのだということを観衆、視聴者に強烈にアピールするのである。

大石静氏は、ドラマがはじまる前のインタビューで、秋山の出演が「念願だった」と語っている。実資は、おそらく重要な役になっていくはずだ。天皇の側近として目を光らせ、のちに、このドラマのメインキャラである道長(柄本佑)が出世してえらくなったとき、『小右記』に批判的な文章を記すことになる。いまのところ道長も、胡散臭い貴族たちのなかで、数少ない好感度の高い善人ふうなのだが、実資はそんな道長に何を見るのだろう。今後の展開がとても楽しみだ。

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