忍者が出てきて活気づく大河ドラマ『どうする家康』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)は、戦で親を亡くした子供たちの物語である。まず、主人公・徳川家康(松本潤)が父・松平広忠(飯田基祐)を亡くしている。母・於大(松嶋菜々子)とは再会したが、彼女には、家康が期待していた母らしいあたたかな、包むような情愛はなく、生きるためには家族の絆を断ち切っても構わないというような振る舞いをし、家康に瀬名(有村架純)と子供たちを見放すように進言して、失望させる。

  • 『どうする家康』氏真役の溝端淳平(右)と瀬名役の有村架純

家臣の本多平八郎(山田裕貴)は父が死に、叔父・忠真(波岡一喜)が父代わりである。服部半蔵(山田孝之)も父をとうに亡くしている。

第6回「続・瀬名奪還作戦」(演出:川上剛)では瀬名が父母・氏純(渡部篤郎)と巴(真矢ミキ)を失う。2人は瀬名や竹千代を救うため、自らの生命を氏真(溝端淳平)に差し出すのだ。

さらに半蔵がしぶしぶ率いている服部党の新たなメンバーのひとり・女大鼠(松本まりか)の父である先代・大鼠(千葉哲也)は第5回、殉職している。それで娘が名前を引き継いだ。第6回で大鼠が任務の途中、半蔵のピンチを助けたとき、父の敵(かたき)のようなものである鵜殿長照(野間口徹)と一瞬にらみ合うシーンが印象的で、彼女が父の意思(半蔵を守る)を継いでいることを感じさせた。それにしても、半蔵は助けられてばかりである。

大鼠のみならず、服部党は前回でかなりの者たちが殉職し、その子供たちが後を継いだ。親たちの世代と比べて頼りなさそうだが、彼らも彼らなりに任務を全うする。

長照も氏長(寄川歌太)、氏次(石田星空)という2人の息子の父である。だが長照は、家康軍の人質になるなら自決するように息子たちに言い含め、自ら真っ先に自決する。だが、長照の願いはかなわず、残された子供たちは生け捕りにされる。彼らのこれからが『どうする家康』で描かれるかわからないが、史実では兄弟の人生は続いていく。

現時点で、父を亡くして最も落胆しているのは氏真であろう。「海道一の弓取り」と称されるほどイケイケだった父・今川義元(野村萬斎)が桶狭間でまさかの討ち死にをし、自分が家を守らないといけなくなったとき、頼りにしていた家康が裏切って織田信長(岡田准一)についた。今川家をなんとかしないといけないときに頼れる人がいない。これからますます活躍する予定だった父を急に失って、どうしていいかわからない状態の氏真の気持ちはいかばかりか。人質にしていた瀬名たちを殺そうとすると、氏純と巴が身をもって娘と孫を守ろうとして、巴には「すぐ喚き散らす」「みっともない」とたしなめられる。目下、ドラマのなかで、最も視聴者に同情されているのは氏真ではないだろうか。同情されるのも悔しいとは思うけれど。

氏真は、瀬名と竹千代たちと、氏長と氏純を引き換えにする瞬間、ぎりぎりまで家康を襲うか迷っていたように見える。闘うことをやめたのは、竹千代が「父上、父上」と声をあげた瞬間。子供の声にためらったように描かれていた。そのあと、ひとり城に戻って、父の残した甲冑と鎧と陣羽織を見ながら「父上」とポツリ……。瀬名と氏純、巴の情、竹千代と家康の情が氏真を苦しめ、ますます孤独にし、心を弱らせる。でもその弱さは優しさでもあり、その感情が残っているからこそ救われる。溝端淳平の瞳が澄んでいて、どんなに残酷な顔をしても、心底悪く見えない。上品な御曹子感がよく出ている。

ところで、義元の兜は信長が長槍でついてどこかに放り投げていた(第1回)はずだが、どこで見つけてきたのだろうか。別の兜なのだろうか。という疑問はさておく。

かつて家康が今川家の人質になったとき、義元によって申し分ない教育が施され、不遇ではなかったものの、父母には恵まれなかった。だがいまや、瀬名や子供たちがいて、個性的な家臣たちが集って来ている。親はいなくても、自分たちで新しい道を切り開いていくように見えるのだ。

次回・第7回のサブタイトルは「わしの家」、予告では、家康は「三河をひとつの家と考えている」と言っている。親がなく、家を失くしたような若い世代の者たちが、肩を寄せ合いながら、ひとつの家を作っていく。家康、氏真、氏長、氏次、女大鼠、服部党……、親を亡くして哀しいけれど、どうしていいのかわからなくなるけれど、残された者たちが自分たちの生き方をそれぞれ考えていく。『どうする家康』はそんな未来を考えるドラマなのではないだろうか。いろんなことをしたり顔で語りながら見るよりも、先の見えない世界に向かっていく冒険の旅のような物語を楽しみたい。

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