10月11日から政府の観光促進策「全国旅行支援」が始まり、コロナの水際対策も緩和され、観光需要の急速な回復が見込まれている。コロナ禍ではアウトドアレジャーの人気も高まり、世界的に拡大しているアドベンチャーツーリズム・自然体験型観光が、ポストコロナの観光復興で注目されている。

  • アウトドア観光で注目される北海道・十勝エリア

ニュージーランドやスイスなどがその本場とされているようだが、世界的にアウトドア観光の熱い視線を集めるエリアが日本にもあるという。羽田空港から1時間30分の北海道・十勝エリアだ。

今回は9月下旬に実施された1泊2日のプレスツアーに参加。後編となる本稿ではサウナの聖地・十勝の魅力を紹介する(前編)。

サウナ共和国=「サ国」としても注目される十勝

19の市町村からなる広大な自然を有する十勝エリア。大雪山系日高山脈の麓に広がる十勝平野の夏は日中でも涼しくドライな気候で、さまざまアクティビティを楽しめる。冬には青空が続く「とかち晴れ」のもと、一面に広がる雪景色やダイヤモンドダストなど美しい自然を体感できる土地だ。

十勝にはそんな自然環境を生かしたアクティビティも生まれており、特にここ数年はサウナの本場フィンランドに近しい気候や自然環境を有することから、ユニークなサウナ施設が続々オープン。新しいフィンランドサウナの聖地「サ国」としても注目を集めている。

  • 十勝には白樺の木が多数生育しており、十勝産ヴィヒタで本格的なフィンランドサウナ体験も可能。写真は「スノーピーク十勝ポロシリキャンプフィールド」のサウナ。この9月に完成したばかりで、"熊の巣"をコンセプトに今後さらにつくり込みしていくとか

北海道十勝・中札内村にある森に囲まれた「グランピングリゾート フェーリエンドルフ」には、天然モール温泉と本格的なフィンランドサウナの設備を完備したスパ施設「十勝エアポートスパ そら」が今年7月に開業した。

  • 今年7月に開業したスパ施設「十勝エアポートスパ そら」

女性浴場にはスペースにゆとりのあるサウナが1種類、男性浴場は小ぶりのサウナが2種類あり、自然に囲まれた広々とした外気浴スペースでゆっくりとくつろげる。

  • 地元でも「モールが濃い」と評判の温泉

帯広市内の系列ホテル「ふく井ホテル」から毎日運び込まれるモール温泉は、茶色がかった美肌の湯として知られ、同社の源泉は地元でも「モールが濃い」と評判の温泉らしい。とかち帯広空港から車で15分の立地にある滞在拠点で、タオル付きのため空港から手ぶら直行できる。

  • 「グランピングリゾート フェーリエンドルフ」

"牧場でサウナ"という贅沢

放牧された牛を眺めながらサウナを楽しむこともできる、新しいタイプの牧場として話題となっているのが北海道上士幌町の「十勝しんむら牧場」だ。薪ストーブのサウナと、飲用としても使われる地下150メートルから汲み上げた天然水を使った水風呂を備え、雄大な牧草地を望みながらの外気浴は、唯一無二の体験だろう。

  • 東京で何も整っていない人間も、ここではととのわざるを得ない

1グループでの貸切利用となり、サウナに併設するパノラマテラスではBBQもでき、宿泊も可能だ。現在、宿泊はスノーピークの寝袋とエアマットを提供するかたちだが、2部屋ベッド4台のコンテナホテルが年内に完成予定で、来春の目処で運用開始する。

「十勝しんむら牧場」の4代目・新村浩隆さんは生産物の価格決定権を持てない生産者や工業的な食料生産となっている現状などを踏まえ、牧場を引き継いだ’95年に放牧へシフト。’00年にミルクジャムなどの乳製品加工を開始し、’05年には敷地内にカフェ「クリームテラス」をオープンした。オンライン販売も行う「ミルクジャム」や「放牧牛乳」は、全国にファンが多い。

  • 「十勝しんむら牧場」カフェ・クリームテラス

北海道の酪農・牧場と言えば放牧のイメージもあるが、放牧スタイルの牧場は道内でも6〜7%と決して多くはない。放牧による酪農やその生産物の魅力を消費者が直接体験でき、牧場のファンになってもらうため、こうした施設を運営しているそうだ。

  • 「ミルクジャム」や「放牧牛乳」は全国にファンが多い

牧草を主食とする「十勝しんむら牧場」の乳牛は、一般的な牧場の平均寿命の約2倍。短期的な視点で多くの牛乳を生産するのではなく、自然や動物の力を最大限活用した放牧で、生涯をかけて美味しい牛乳を多く生産してもらうという考えが根底にあるという。動物のライフスタイルに合わせることで、より環境負荷が少なく持続可能な酪農を目指し、子牛も含め現在110頭ほどの牛を飼育。牛が健康で腸内環境が良いと排泄物の強いニオイなどもしないらしい。

  • 本当は人間も放牧スタイルが一番いいんだけどね……

東京ドーム2個半の森林に柵を張り、同じく放飼いで7〜8年前から飼育を始めた豚は、現在約70頭。無投薬・無添加にこだわったハンバーグやベーコン、ソーセージなどの加工品を販売しており、宿泊客にはBBQのかたちで提供する。

  • 宿泊客はBBQで豚の加工品も楽しめる

サウナのお供に。まだまだある十勝グルメ

チーズ作りが盛んなヨーロッパ地方とほぼ同じ緯度にある十勝は、言わずと知れた酪農王国。乳牛・肉牛ともに畜産加工品は全国トップクラスの品質を誇り、その乳製品から生まれる菓子も絶品だ。

全国的にも有名な六花亭や久月などの菓子店が創業した地であり、近年は手作りにこだわった小さな菓子店も生まれている「スイーツ王国」でもある。

中札内村を流れる清流札内川のおいしい水で育った牛の乳で作ったチーズを販売する2000年創業の「十勝野フロマージュ」は、コンテストで数々の受賞歴を持つチーズを生み出してきたチーズ工房だ。

  • チーズ工房「十勝野フロマージュ」

カマンベールなど白カビタイプのチーズづくりから始まったチーズ工房だが、ここ数年は多品種化を進め、フレッシュチーズやブルーチーズ、ラクレットチーズ、バターなどの商品も販売。フレッシュチーズはJAL国際線の機内食でも採用され、契約酪農家の搾りたて牛乳で作ったカマンベールを丸ごと練り込んだジェラートが人気となっている。

  • カマンベールを丸ごと練り込んだジェラートが人気

生乳に生クリームを加え、なめらかな口溶けや味わいを実現した「ベルネージュ」や「Banba」などはコンテストでの評価も高く、チーズ表面を磨く工程に十勝川温泉の「モール温泉水」を用いたラクレットも代表商品。香り高いラクレットは、芳醇でまろやかな味わいを特徴とする。

  • なめらかな口溶けや味わいを実現した「ベルネージュ」

食糧自給率1300%を誇る日本有数の食料生産基地として、じゃがいもやスイートコーンなども有名な十勝だが、近年はピーナッツやハーブの生産にも力を注ぎ、日本一の蕎麦生産地・新得町も所在する同地には蕎麦屋も多い。

道内でおそらく唯一のにじます専門店「蕎麦とにじます料理 松久園」では、大正6年に建てられた古民家で蕎麦と一緒にニジマス料理に舌鼓を打てる。

  • 蕎麦と一緒にニジマス料理が楽しめる「蕎麦とにじます料理 松久園」

釣り堀の運営とニジマス養殖が祖業だが、現在は旭川の当麻町から仕入れたニジマスを生け簀に入れ、調理の直前に締めることで、あらい、塩焼き、から揚げなど自慢のニジマス料理を最高の鮮度で味わえる。道内にはニジマス料理を提供する釣り堀が何軒かあるそうだが、ニジマス料理の専門店は珍しいようだ。

  • 餌を管理できる養殖のニジマスは、天然よりも川魚らしい泥臭さやクセが少なく食べやすい

10月15日と16日には食・文化資源・自然をキーワードに、十勝の魅力と価値を発信するイベント「かちフェス ALL TOKACHI NO KACHI FES IN 芽室」が、芽室町の芽室公園で初開催される。

  • 十勝のほぼ中心に位置する芽室町

開催地となる芽室町は十勝のほぼ中心に位置し、肥沃な大地と日本有数の晴天率を誇る土地。スイートコーンの町として知られる同町だが、本イベントでは十勝全域から野菜、肉、チーズやワインなどの十勝グルメが集結する。

スノーピークの贅沢ギアで優雅なオールインクルーシブキャンプやサウナなどの体験コンテンツも用意。道内外の人たちも十勝の魅力を堪能するのに絶好の機会となりそうだ。