スノーピークでは、アウトドアの知見を活かした地方創生事業を全国で展開している。北海道の知床半島に位置する羅臼町にて2020年より実施している「知床羅臼野遊びフィールド」を体験取材した。

  • スノーピーク「知床羅臼野遊びフィールド」とは? 体験取材してきた

スノーピークのギアが使い放題!

「知床羅臼野遊びフィールド」は、スノーピーク地方創生コンサルティングと羅臼町がコラボした取り組み。旧 羅臼町民スキー場のゲレンデを作り変えた専用キャンプ場にて展開している。今年(2022年)の予約は専用サイトで8月1日~9月30日まで受付中。1サイト1泊3万円で、最大4カ所のテントサイトが利用できる(日帰り利用は1万5,000円)。

  • 「知床羅臼野遊びフィールド」(旧 羅臼町民スキー場、北海道目梨郡羅臼町礼文町31)

野遊びフィールドは羅臼港を見下ろす絶景に位置しており、根室海峡を挟んだ向こうには北方領土の国後島も見える。ここ羅臼町から国後島までは、わずか25kmしか離れていない。

  • 国後島が間近に迫るロケーション

利用者はフィールドに用意されたスノーピークのギア(アウトドア、キャンプ用品)を自由に使える。テントはもちろん、チェア、ランタン、薪、焚き火台、水、コンロなども使い放題。手ぶらで(好きな食材だけ持って)泊まりに行けるのは気楽だ。

  • キャンプに必要なギアはすべて貸してもらえる

宿泊者が寝泊まりするのは「ランドロック」と呼ばれる大型サイズのテント。野遊びフィールドには海側のシーサイドA、シーサイドB、シーサイドC、山側のマウンテンサイドの4箇所にテントサイトがあり、いずれの場所にもこのランドロックが設置されている。ちなみに執筆現在、専用サイトでのランドロックの価格は税込20万200円となっている。

  • 宿泊のテントサイトの様子

  • スキー場を作り変えたキャンプ場とあり、奥にはゲレンデとリフトが確認できる

ランドロックは剛性の高いワークフレームで作られており、強い風が吹いても充分に耐えられる造り。なかに入ってみると、なるほど安心感がある。そして1人で宿泊するには勿体ないくらいの広さ。なおポータブル電源と簡易冷蔵庫も設置されていた。

  • テントからの眺め。控えめに言っても最高な景色

  • インナーテントが張ってあり、ファスナーの向こうに寝室がある

  • 寝心地の良さげな寝袋(シュラフ)もスノーピーク製

  • 寒い夜にはタクード(円筒形ストーブ)も利用できる

ウッドチップの地面に温かみを感じつつ、ローチェアに深く腰をかけてみた。それにしても静かな環境だ。まるで山を独り占めしている気分になる。そもそもフィールドには4サイトしかテントを設置しておらず、そのため見知らぬ人にキャンプを邪魔されることもない。ここで読書をしたら? 仕事をしたら?――とても捗ることだろう。

  • コーヒーを淹れるため、シングルストーブとクラシックケトルで湯を沸かす

ちなみに野遊びフィールドは、宿泊者の安全のために敷地周辺を電気の柵で囲んでいる。野生の動物が近づくと(強めの静電気ほどの)電気が流れるため、動物はビックリして逃げていくそうだ。また旧スキー場にあった小屋を改装したロッジは24時間オープン。どうしても寒くて眠れないときなどに利用できるという。

  • ロッジの内部の様子

日の出も見たい

スノーピークの取り組みに町も期待を寄せている。この日、挨拶に訪れた羅臼町長の湊屋稔氏は「知床羅臼野遊びフィールドでは、綺麗な朝日が見られるのも魅力です。もし早起きできたら、テントのなかから外を御覧ください。真っ赤な太陽が、国後島の向こうから昇るのが見えるでしょう。朝日は神秘的。思わず手を合わせたくなる、そんな羅臼町の日の出を楽しんでもらえたらと思います」と紹介した。

  • 羅臼町長の湊屋稔氏。親子代々、漁師の家系に育った

野遊びフィールドは、地元のたくさんの有志によるボランティア活動で整備されてきた。その多くは、子どもの頃に町民スキー場で遊んだ経験を持っている。「この場所を皆さんに使ってもらえるなら」という思いで、仕事終わりに草刈り、穴掘り、ロッジの改修などを続けてきたという。地元で海鮮問屋を営む佐藤高史氏もそんなひとり。現在、羅臼町からの依頼で、野遊びフィールドを運営管理している。

  • 野遊びフィールドを運営管理する佐藤高史氏。地元の多くのボランティアの力により環境の整備が進んだ

焚き火、そして星空鑑賞

夕刻を迎える頃には夕食の準備が始まった。さて、何から食べようか? さきほど道の駅で購入してきた地元の美味を、みんなで相談しながら焼いていく。これがまた楽しい。

  • 道の駅 知床・らうすでショッピング中の様子。美味しそうな地元食材で溢れていた

  • 焚き火台に火が灯る

焚き火台では鹿肉やカニ、開きほっけ、イカの一夜干しなど地元の食材を焼いた。そしてアルコールを飲みながら歓談する。心待ちにしていた時間だ。話題は尽きない。食後にも薪の燃え盛る炎を囲みながら、色んな話に花を咲かせた。

  • ご当地の新鮮な魚介類を、次々に焼いていった

  • アウトドアの定番、チタン製のシェラカップで食べるとさらに美味しく感じる

当夜はゲストとして、地元産業に従事する方にもお越しいただいた。鮭、鱒、イカ、昆布をとっているという30代の漁師は、気温のグッと下がった20時過ぎにも関わらず、半袖姿で寒がる様子もない。羅臼港には流氷はどのくらい流れてくるのか、ロシア船と遭遇することはないのか、羅臼の町中にはどんな娯楽があるのか――。聞きたいことを片っ端から聞いていく。「怖い目に遭ったことは」、そんな問いかけには「20歳の頃から漁師をやっていますが、イチバン怖いのは霧です。方向感覚がまったく分からなくなる。霧の日は風がなく波も立たない。辺りがシーンと静まり返って、海がまるで鏡のようになるんです。いま自分はどこに向かっているのか? コンパスがあるので陸と沖の方角は分かるんですが、いまだに恐怖感がありますね」と話してくれた。

  • 食後にも火にあたりながらトーク。優雅な時間が流れる

夜も更けると頭上には、プラネタリウムさながらの満天の星空が広がった。野遊びフィールドは山の上にあり、人家の明かりもここまでは届かない。天体観測には抜群のロケーションだ。チェアに深く腰をかけ、仲間に星座を教わりつつ夜空を見上げ続けること小一時間。ふと、写真を撮ってみようと思い立った。星空の撮影には不慣れな筆者のため、あまり良い写真が撮れなかった点はご容赦を。

  • 天の川銀河も、肉眼ではっきりと見えた

  • 山側の星空

  • ロッジの上にも星が広がる

テントに戻ると時刻は0時前。山は冷えてきたが、テントの中は温かい。ランドロックの保温性の高さと、静かに燃え続けているタクードのおかげだ。さてスマートフォンで調べたところ、日の出の時刻は4時34分だという。そこで目覚ましをセットして仮眠することにした。すでに何匹かの虫がテント内に入り込んでいるが、インナーテントの寝室側には侵入を許していない。キャンプ慣れしていない人にも安眠できる環境に感謝する。

  • シュラフに寝転びながら撮影した。「ほおずき」と呼ばれるランタンがテント内を優しく照らしている

朝、4時過ぎに目覚めた。テントの幕は既に赤に染まりつつある。外に出ると快晴。国後島の向こうが明るい。慌てて何枚かシャッターを切り、持ってきたアクションカメラでも撮影した。

  • 空が燃えるような赤色に染まる

そしてこのあと(若干の雲に阻まれはしたものの)拝みたくなる日の出を堪能できた。

  • 国後島の向こうから昇る日の出

落ち着いた頃に朝食。高原の爽やかな空気と一緒に、スノーピークのホットサンドクッカーでこんがり焼いたご当地の食パンをいただく。「羅臼は、本当に美味しい食材であふれていますね」と、仲間とそんな話をしていたら、羅臼町 役場の杉村明吉氏には「羅臼産の時鮭(ときしらず)、粒うに、開きほっけ、貝付ホタテ、羅臼昆布などは、ふるさと納税でも人気の返礼品ですよ」と薦められた。そうか、旅行で訪れた地にふるさと納税するのも面白そうだ。返礼品と旅行中のエピソードを酒の肴にして、また仲間と盛り上がれるだろう。

  • スノーピークのホットサンドクッカー

  • 羅臼町 産業創生課 主事の杉村明吉氏。知床・らうすの海洋深層水食パンは、モチモチの食感がたまらなかった

日没、星空、日の出はアクションカメラのタイムラプスでも撮影してきた。1分にまとめた動画をご覧いただきたい。

次回、羅臼で体験できるアクティビティを中心にお伝えする。不幸な事故のあった知床遊覧船(斜里町側)について、羅臼の人々はどう思っているのか? 羅臼港から遊覧船を出している地元の船長に話を聞くとともに、実際に乗船してホエールウオッチングをしてきた。羅臼昆布づくり体験、羅臼町郷土資料館をまわった様子などもあわせて紹介する。