JR北海道は9月の土休日、「ノースレインボーエクスプレス」(キハ183系5200番代)を使用し、「特急ニセコ号」を運転した。通常は特急列車が運転されていない函館本線の通称「山線」区間を走行し、約5時間半かけて札幌駅から函館駅へ。車内では観光客などが楽しんでいた様子だった。

  • 「ノースレインボーエクスプレス」(キハ183系5200番代)の臨時列車「特急ニセコ号」。終点の函館駅に向けてゆっくりと走り出す(筆者撮影)

「特急ニセコ号」は毎年9月頃、函館本線で運転されている臨時列車。札幌駅から函館駅へ向かう特急列車として、「北斗」が定期的に運転されているが、「特急ニセコ号」はルートが大きく異なる。定期列車の特急「北斗」は通称「海線」と呼ばれる室蘭本線経由のルートを通り、苫小牧駅や東室蘭駅などに停車する。これに対し、臨時列車の「特急ニセコ号」は通称「山線」と呼ばれるルートを通り、小樽駅やニセコ駅などに停車。通常より時間をかけて、ゆとりのある旅を楽しめる。

筆者は9月の3連休を使い、札幌駅から「特急ニセコ号」に乗車した。当日の朝、札幌駅2番線ホームに着くと、「特急ニセコ号」の自由席である2号車・3号車の停止位置に長蛇の列ができている。自由席券を確保しており、座れるか少々不安になったが、なんとか2号車に着席できた。

「特急ニセコ号」は定刻通り、7時56分に札幌駅を発車。改めて車内を観察してみると、乗客のほとんどが鉄道ファンと思われる人たちだった。中には立客もおり、しきりに通路を移動している。車内にいると、エンジン音はかなり静かで、騒音として気になるレベルではない。960mmのシートピッチを持つ座席は、JR世代の789系やキハ261系に比べれば狭いが、十分ゆったり過ごせた。

  • 「ノースレインボーエクスプレス」の3号車は2階建て。1階部分はラウンジになっている(筆者撮影)

  • 号車ごとに車体色が異なり、客席窓が全体的に高く設置されている。定員は1号車・5号車が各47名、3号車が36名、2号車・4号車が各60名(筆者撮影)

乗車した日はあいにく雨模様で、銭函駅を出てすぐ見えてくる石狩湾は澱んで見えた。「ノースレインボーエクスプレス」の売りのひとつである天窓からも、ディーゼルの排煙と雲しか見えない。

小樽駅を発車すると、単線非電化の「山線」らしい区間へと入っていく。列車は勾配の連続する区間を走り、何度もカーブを曲がる。車窓風景を眺めていると、少しずつ山らしい景色が広がり始めた。かつてこの難路を蒸気機関車C62形が走っていたことを思い出し、機関士らの苦労はいかばかりだったかと想像する。

「特急ニセコ号」の車内では、沿線自治体の観光協会が入れ替わりで、観光パンフレットや米・お菓子といった特産品を乗客に手渡していた。余市駅では6分間停車し、ホームで特産品のりんごを使ったアップルパイや、ニッカウヰスキーのハイボールを販売。筆者もハイボールとアップルパイのセット(500円)を購入し、車内で早めの1杯を楽しんだ。

  • 函館本線の「山線」区間を行く「特急ニセコ号」。単線非電化区間を走る姿も間もなく見納めに(筆者撮影)

沿線自治体の観光協会の担当者がこれだけ観光をアピールしている理由を考えていると、ひとつ気づいたことがあった。

「山線」区間の函館本線長万部~小樽間は、北海道およびJR北海道と沿線自治体により、段階的なバス転換について協議が進められている。通学需要が多いとされる余市~小樽間を含めて廃止が決まり、廃止時期の前倒しを検討することも報じられた。2030年度末に北海道新幹線の札幌延伸開業を予定しているが、沿線の自治体すべてが新幹線の恩恵を受けられるとは限らない。「山線」区間の廃線は、沿線自治体の観光や財政にとって決して看過できることではないだろう。元気で明るい観光キャンペーンの裏側には、自治体の危機感が投影されているのかもしれないと思った。

函館本線の「山線」区間が終わり、室蘭本線が合流すると、11時27分、長万部駅に到着。小雨の降る中、ここで函館発札幌行の下り「北斗7号」とすれ違った。「北斗7号」で使用されていた車両は、9月末をもって定期運行を終えたキハ281系。引退の迫る「ノースレインボーエクスプレス」との離合は鉄道ファンにとって感慨深かったようで、乗客たちの多くがキハ281系と「ノースレインボーエクスプレス」の並ぶ姿を写真に収め、列車を見送っていた。

長万部駅から函館駅まで、「特急ニセコ号」は特急「北斗」と同じルートを通るが、「北斗」が停車する八雲駅や大沼公園駅は通過した。大沼国定公園を抜け、北海道新幹線と接続する新函館北斗駅に停車。続いて五稜郭駅にも停車し、ゆっくりと走行して終点の函館駅に到着した。

函館駅に着いてからも、列車との別れを惜しむように多くの乗客たちがスマートフォンやカメラを向ける中、「ノースレインボーエクスプレス」はすぐに折返しの準備に取りかかっていた。折返しの下り「特急ニセコ号」は函館駅を13時52分に発車。札幌駅の到着時刻は19時26分となっている。

  • 「ノースレインボーエクスプレス」は2023年春に引退すると発表されている(筆者撮影)

今回の函館駅までの行路で、2023年春に運転を終える「ノースレインボーエクスプレス」と、今後のバス転換が予定されている函館本線「山線」区間、9月に定期運行を終えて10月にラストランを迎えるキハ281系と、3つの終わりに触れることができた。函館~札幌間を結ぶ鉄道の行方を今後も見守っていきたい。

なお、JR北海道は「ノースレインボーエクスプレス」のメモリアル運転を11月に行うと発表。11月3日に札幌駅から室蘭本線経由で函館駅へ「はこだてエクスプレス」、11月12~13日に札幌駅から稚内駅へ「まんぷくサロベツ」、11月19~20日に札幌駅から網走駅へ「流氷特急オホーツクの風」、そして11月26~27日に札幌駅から函館本線「山線」経由で「特急ニセコ号」を再び運転する予定となっている。なお、11月26~27日の「特急ニセコ号」は全車指定席で運転されるとのこと。紅葉を眺めながら「山線」区間を旅してみるのも良いだろう。