北海道新幹線の並行在来線のうち、函館~長万部間について、ついに国と北海道の協議が始まりそうだ。沿線自治体は函館~新函館北斗間の存続に前向きだが、新函館北斗~長万部間の維持費を捻出できない。一方、国は食糧安全保障、道は産業振興のため、貨物輸送経路として残したい。並行在来線の新たな枠組みは作れるだろうか。

  • 自治体が難色を示す中、ついに国と北海道の取組みが始まる(地理院地図を加工)

2022年9月15日、北海道商工会議所連合会は、「道内、道内-本州間の輸送力確保・再構築に向けた緊急提言書」を公式サイトで公開した。道内の物資輸送の総合的な観点から、第1に「北海道の産業と暮らしを支えている輸送力の破綻回避」として、北海道新幹線の並行在来線、函館~長万部間の維持存続と、ドライバー不足や2024年問題に対応する物流インフラの整備促進を掲げた。第2に「第2青函トンネルの早期実現」、第3に「カーボンニュートラル達成に向けた貨物鉄道輸送へのモーダルシフトのさらなる推進」を提言する内容となっている。

この緊急提言書は7月までにまとめられ、7月21~22日までに国などに提出された。「国土交通省など」と記した地元紙もあったが、商工会議所は経済産業省経済産業政策局の管轄であり、当然ながらこちらにも提出されたはず。そうでなければ所轄官庁の壁を飛び越えて国土交通省に申し入れたことになってしまう。

この緊急提言は政策関係の内部文書だが、約2カ月後にインターネットに公開された。その気持ちはよくわかる。「緊急な」提言にもかかわらず、その後の進展が見られないからだ。道民のいらだちが透けて見える。農業関係者だけでなく、本州と取引する商工関係者も、「一体どうなるんだ。どうするつもりなんだ」と思うことだろう。函館~長万部間の並行在来線存廃問題は、もはや沿線自治体の交通手段としてだけの問題ではない。全道の問題である。

函館~長万部間の沿線自治体はどう考えているか。8月31日に開催された「北海道新幹線並行在来線対策協議会 第9回渡島ブロック会議」の記事録をまとめると、以下の通りとなる。

  • 函館市長 : 「はこだてライナー」(函館~新函館北斗間)は存続維持。札幌延伸について当時の北海道知事、JR北海道と同意済み。長万部から函館まで、バスで乗り通す人は少ない。ほとんどの人は新幹線で新函館北斗駅乗換えになるはず。
  • 北斗市長 : 函館~新函館北斗間については、そもそも新函館北斗駅の使命、役割がある。第三セクターの実現を求む。
  • 七飯町長 : 中心市街地は「はこだてライナー」沿線にある。町域には大沼国定公園もある。(廃線は)慎重に扱いたい。費用負担は大きいが精査してほしい。
  • 鹿部町長 : 公共財として必要であれば、守るべきものがいくらかかったとしても、当然守らなければいけないと。そうでないものは守れないというのが原則。離れた地域でも移動手段があって、明るい未来が待っているという交通網体制を一緒に考えたい。(鹿部町は砂原線沿線)。
  • 森町長 : 町内で地域公共交通の再編として実証実験等々を行っている。事業者にとって行政が後押しをする事業であったとしても、方向性が示されなと参加できない。一刻も早く方向性を示したい。
  • 八雲町長 : 新函館北斗駅から(函館駅まで)の「はこだてライナー」は大切なもの。一方で第三セクターの継続性について「今の函館駅から長万部駅の全ての線路を使って鉄道でどんな風にやるのか。新函館北斗以北と以南で分けて考えたい」
  • 長万部町長 : 小樽~長万部間の議論も参加し、町内説明会も2年間取り組んだ。結論を5年間前倒しして残り3年、関係町内会と町民の意見交換会の結果を取り入れて決定したい。

総じて、「『はこだてライナー』は残したい。その他の区間は負担が大きすぎる。函館まで行きたい人は少ないから、鉄道路線のバス転換より、新幹線駅を中心とした町内交通を早急に整備したい」という流れになっているようだ。要するに、「新函館北斗~長万部間を維持できない」となる。

■国と北海道は「お見合い状態」、JR北海道とJR貨物は「協力するが負担しない」

北海道商工会議所連合会の緊急提言は7月21日。この翌週、国土交通省では「今後の鉄道物流のあり方に関する検討会」の第5回が開催され、「中間とりまとめ」という事実上の結論が出された。この中で、我が国における鉄道貨物輸送の役割は「ドライバー不足、2024年問題、カーボンニュートラル政策のために重要」と位置づけられ、諸問題を14の課題に整理し、方向性を示している。

検討会の「中間とりまとめ」は国全体の輸送モードを考える上で有意義だったが、緊急課題の並行在来線問題に対する直接的な解決案は出されなかった。これが北海道商工会議所連合会を落胆させた。ただし、この中間とりまとめが国土交通省の取組みを後押ししたことは間違いない。これと渡島ブロック会議の「新函館北斗~長万部の自治体負担不可」を受けて、国はいよいよ動き出す。

北海道新聞の9月13日付の記事によると、「国土交通省は函館線函館-長万部間を貨物路線として維持するため、道とJR貨物、JR北海道との4者協議の場を設けることを決めた」という。この方針を受けて、北海道商工会議所連合会は緊急提言のインターネット公開に踏み切った。4者だけでなく、広く国民的な議論にしてほしいという思いがあるだろう。

北海道側は9月13日の新聞報道を受けて、鈴木直道知事の定例会見で「(北海道)交通・物流連携会議などで、関係者と検討を進めてきた。鉄道貨物輸送について、全国的な観点からの検討が必要だ」としつつ、「国にあらためて確認したところ、今後の進め方については現在検討中と聞いている。その評価などについても今後、状況をしっかり注視していきたい」とした。道側から国へ働きかけようという姿勢が薄い。

9月20日、斉藤鉄夫国交相が閣議後の記者会見で「4者会議の実施を正式表明した」と報じられた。しかし、国土交通省が公開した「斉藤大臣会見要旨」を見ると、「4者会議をやる」と明言したわけではない。函館~長万部間については「現時点で何か結論が出ているものではないと認識しており、地元での議論を見守ってまいりたい」、貨物輸送については「北海道庁やJR貨物、JR北海道などの関係者と必要な対応を検討していく必要があると考えています」「北海道の物流の在り方と、国全体の物流の在り方という2つの観点から、北海道庁と国が共同して議論していくことが重要だと思います」としている。

4者会談をすぐやるか、いつやるかの名言はない。国土交通大臣としては、「まず北海道の議論を見守りたい」のようだ。一方、北海道知事は「国の評価、状況を注視したい」とのことで、これだけだと双方の「お見合い状態」といえる。いつ議論が始まるかわからない。私たちの見えないところでしっかりと事務レベルの協議調整が行われていると信じたい。

筆者は、枠組みを作り主導する役割は国ではないかと考える。しかし、北海道がこの問題をどうしたいか、その意思を確定しないと始まらない。北海道は新函館北斗~長万部間の線路は必要だと考えているか。あるいは鉄道不要で、船舶で代替可能と考えているか。北海道が「鉄道は要らない、本州へは船舶輸送にする」と決めたなら、国は船舶輸送に向けた支援、補助策の検討を始めなければならない。

いずれにしても、北海道は「決める」必要がある。決めなければ始まらない。選択の自由はあるものの、選択しない自由はない。どうせ国がなんとかしてくれるだろうと考えているなら、それは甘い。国が北海道に「こうしなさい」と命令したら、それは地方自治権の根幹を揺るがすことになる。

■2018年に議論された「ホワイトナイトは誰が担うか」

北海道新幹線の並行在来線問題については、新幹線の札幌延伸決定時から、「函館~長万部間を沿線自治体が継承しないのではないか」という見方があった。その場合、最悪のシナリオは路線廃止であり、貨物輸送を船舶で代替できるか、あるいは、鉄道存続の場合は枠組みをどうするかという課題があった。

2018年5月に運輸総合研究所が行った「第124回 運輸政策コロキウム 北海道の鉄道貨物の行方」においても、課題の整理と解決の方向性が示されていた。運輸総合研究所招聘研究員の越智秀信氏が、JR北海道の「単独維持困難線区」における鉄道貨物の今後の展開について、線区ごとに解説。その中で、函館~長万部間について「沿線自治体の財政力が乏しく、貨物列車の運行を維持するためには強力なホワイトナイト(資金援助者)が必要」としていた。

では、ホワイトナイトは誰が担うべきか。越智氏によると、「(1)…自治体,経済界等の補助金・負担金・寄付金」「(2)…割増料金(運賃の上乗せ)」「(3)…「特別賦課料金」(施設使用料的性格)」「(4)… 国民負担(北海道農産物の保護育成,北海道経済への影響,日本全体の食糧等)」「(5)…(1)(2)(3)(4)のすべて」だという。そして越智氏は、「(5)」の「国民負担も含めた維持の仕組みが必要」と提言している。

筆者は6月5日の本誌記事「『JR貨物だけでは維持できない』長万部以南はPFI方式を導入すべき」でも述べたように、この路線で受益のある者が出資して維持すべきと考える。受益は産業振興する北海道と、食糧安全保障に取り組む国が最も大きく、次いでホクレンなど農産物生産者、流通業界、大型スーパーマーケットチェーンなどが続く。自治体が事実上撤退したため、従来の鉄道建設における「属地主義」は破綻した。ここからの鉄道は「応益主義」で維持すべきだろう。

しかし、自治体が参加しなかったとはいえ、もし貨物鉄道路線として存続した場合、自治体が第二種鉄道事業として旅客列車を運行できる余地を残してほしい。通勤輸送や大沼などの観光輸送で旅客列車も必要になる。そのときは旅客列車が線路使用料を払う。あるいは旅客列車の応益分の出資も促してもいいだろう。「乗り鉄」としては、線路が残ればやはり乗りたい。「TRAIN SUITE 四季島」の北海道乗入れも継続できる。

そこまで見通すと、貨物鉄道は筆者を含めた鉄道ファン・旅行ファンの問題でもある。優先度は低いとしても、他人事ではなく自分の事として気にかけてほしい。関係者すべてが声を上げないと、国も北海道も動いてはくれない。北海道商工会議所連合会のように声を上げていこう。