義時軍に攻め寄られたなか、義時と重忠の一騎打ちとなったが、そこで繰り広げられた2人の肉弾戦は、観る者の心を大いに揺さぶる名シーンとなった。

「ト書きには『義時と重忠の一騎打ち』とだけしか書かれてなかったのですが、36回の脚本が上がった時に、小栗さんからこのシーンについてお話をする機会をいただきました。そこで小栗さんから、一騎打ちのシーンはきれいな立ち回りではなく、すごく泥臭いものにしたいという話をされまして。まさしく僕も『同じ意見です』となりました」

そうしたかったのは、義時と重忠がこれまで積み重ねてきた関係性によるものが大きかったという。

「義時と重忠は、10代の時から知っている幼馴染です。最初は敵側にいましたが、頼朝の下に重忠がついてからは、共にいくつもの戦を乗り越えてきた旧知の仲です。小栗さんから『俺は畠山重忠という男に思いきりここでぶん殴られたい』と言われましたが、まさに幼馴みである2人が、最後は子供の喧嘩のように殴り合います。そこは監督とアクションチームと一緒に考えてもらい、あそこに行きつくまでに、いろいろなリハーサルを重ねていきました」

また、「あの時代に、あまり素手で殴り合うことはなかったと思いますが、あの一発一発には、畠山重忠の生き様や信念に加え、この戦をする意味みたいなものを込められたらいいなと思っていました。その結果、僕自身もすごく納得のいく最後になったのではないかと思います」と手応えを口にした。

畠山重忠の乱については、大掛かりなロケを3日間かけて行ったが、2人が拳を交える一騎打ちのシーンは、その最終日に撮影されたという。

「ありがたいことに、その戦のシーンで僕はクランクアップを迎えさせていただきました。おそらく歴代の大河ドラマで、あそこまで着物と鎧が破壊されたシーンはなかったんじゃないかと。着物はビリビリになり、鎧はかなり破損して、最後は原形を留めていない感じでした。しかも、真夏の撮影で、スタッフの皆さんにとっても“死闘”だったと言っても大げさじゃない内容の撮影で、小栗さんも僕も体力的にかなりボロボロの状態でした」と壮絶な撮影を振り返った。

ちなみに、2人の一騎打ちでは、重忠が優勢となったが、最後は義時にとどめを刺さずに終わる。その時の重忠としての胸中についても明かした。

「重忠はたぶん、ずっと義時がいろんなことに板挟みになったり、陰でいろんな人と人とをつなげたり、駆けまわっている姿なりをそばで見てきたと思うんです。この時代、いろんな人が殺されてきましたし、北条家もかなりの人を葬り去ってきましたが、だからこそ本気で殺されるということ、死ぬことがどういうことなのかを、重忠は義時に示そうとしたのではないかと。また、重忠はこの先、鎌倉をどうにかしていけるのは義時しかいないと、誰よりもわかっていたのだと思いました」

中川は主演の小栗のことを「兄貴のような存在」だと言う。

「僕だけではなく、『鎌倉殿の13人』に関わった出演者やスタッフみんなが口を揃えて言うと思いますが、やはり小栗さんの周りに人が集まってくるんです。義時同様に、人と人をつなぐ力がすごい人だなと改めて思う先輩です。1年以上撮影をしていたので、2人で馬の稽古にも行きましたし、一緒に食事に行ったこともあります。大好きな先輩です」と愛情を込めて語る。

さらに「『鎌倉殿の13人』というドラマについて、小栗さんが誰よりも一番好きだし、関わっているチームみんなのことも大好きだと思います。それぐらい、常に小栗さんは、ドラマに身を捧げているという印象がありました。僕たち後輩たちのことも、すごく引っ張っていってくれた、優しい方です」と感謝の言葉を惜しまない。

最後まで惚れ惚れするほどカッコよくて、勇ましい最後を遂げた畠山重忠。そこには義時に対する重忠の思いと共に、1年強にわたり大きな背中を見せてくれた小栗に対して中川自身が抱いた敬愛の念も投影されていたのだと感じた。

■中川大志
1998年6月14日生まれ、東京都出身。2009年に俳優デビュー。2011年にドラマ『家政婦のミタ』(日本テレビ)の演技で脚光を浴び、その後数々の作品で活躍。2019年の連続テレビ小説『なつぞら』ではヒロイン・なつの夫となる坂場一久を演じた。さらに同年、映画『坂道のアポロン』、『覚悟はいいかそこの女子。』の演技が評価され第42回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。大河ドラマ出演は『江~姫たちの戦国~』(11)、『平清盛』(12)、『真田丸』(16)に続き、『鎌倉殿の13人』(22)で4度目となった。11月からは本格舞台で初めて主演を務める『歌妖曲~中川大志之丞変化~』が上演予定。映画『ブラックナイトパレード』が12月23日公開、『スクロール』が2023年公開予定。

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