「耳が痛い」や「目から鱗(うろこ)」など、体の部位を用いた言葉はたくさんありますが、「足を運ぶ(あしをはこぶ)」もそのひとつです。「足を運ぶ」はよく聞くフレーズですが、使い方に気をつけなければ、相手に失礼になってしまうこともあります。

本記事では、ビジネスシーンで恥ずかしい思いをする前に確認しておきたい、「足を運ぶ」の正しい意味や使い方を解説。また、使う際の注意点や類義・英語表現なども紹介します。

  • 「足を運ぶ」の意味は?

    「足を運ぶ」の意味や使い方を解説します

「足を運ぶ(あしをはこぶ)」とは?

「足を運ぶ」の意味

「足を運ぶ」は、「ある目的のためにわざわざ訪れる(出向く)」という意味の慣用句です。「目から鱗」や「目が出る」といった慣用句と比べると、「足を運ぶ=足を持っていく=ある場所へ向かって行く」という流れで推察できるので、そのままでも比較的意味が通じる表現でしょう。

「脚を運ぶ」は間違い

「足を運ぶ」の誤用として、よくあげられるのが「脚を運ぶ」です。「足」と「脚」は、どちらも「あし」と読む漢字ですが、基本的に慣用句で用いられる「あし」は「足」です。

「足」は「くるぶしから先」を指すのに対して、「脚」は「膝から下の足」すなわち「あし全体」を指しています。つまり、具体的に足のどの部分を指しているかによって使い分けることができるので覚えておきましょう。

「足を運ぶ」と「足を延ばす」との違いは?

「足を運ぶ」と同様に、「足」を使った慣用句として「足を延ばす」という言い回しがあります。意味は「緊張が解けてリラックスする、くつろぐ」と「さらに遠くまで行く」です。

後者の「さらに遠くまで行く」という意味が「足を運ぶ」と比べられますが、「足を運ぶ」は「わざわざ行く」というニュアンスが強いのに対して、「足を延ばす」は距離の視点から行くことを表しているので、ニュアンスが異なります。

そのため、「わざわざ出向く」ということを伝えたい場合は「足を運ぶ」を、「遠くまで行く」ということを伝えたい場合は「足を延ばす」を使いましょう。

  • 「足を運ぶ」の意味は?

    「足を運ぶ」は、「ある目的のためにわざわざ訪れる(出向く)」という意味です

「足を運ぶ」の使い方

ここからは「足を運ぶ」の正しい使い方について紹介していきます。

「足を運ぶ」を目上の人に使うのは失礼

「足を運ぶ」は、「わざわざ」出向くというニュアンスが強い言い回しであるため、上司や取引先の方や目上の方に対して、自分を主語として使ってしまうと大変失礼です。

・本日の面接でお会いするために、足を運びました。

例えば上記の文章では、目上の方に「あなたに会うために、私がわざわざ出向きました」といったニュアンスになります。気づかぬうちにこのような間違いをして、相手から悪印象をかっていたなんてことにならないよう、「足を運ぶ」という言い回しを使う際には十分気をつけましょう。

ちなみに、履歴書の趣味や自己PRの欄に「足を運ぶ」と書く場合は、「わざわざ」というニュアンスによって自分の行動力がアピールでき、相手からもポジティブな印象に捉えられるので、問題なく使用することができます。

ビジネスシーンでは使い分ける

「足を運ぶ」をビジネスシーンで使う際は、「相手に来てもらう(もらった)場合」と「自分が出向く(出向いた)場合」で使い方が異なります。

■相手に来てもらう(もらった)場合

お忙しい中、足をお運びくださり誠にありがとうございます。

都内でイベントをやっておりますので、是非足をお運びください。

例文のように「足を運ぶ」を「足をお運び」という敬語表現に直すことで、目上の方や上司にも問題なく使用することができます。

■自分が出向く(出向いた)場合

  • 使用しない方がよい

自分が主語になる場合は、上記で説明したとおり失礼にあたるため、目上の人には使えません。謙譲語の「いただく」を語尾につけて「足を運ばせていただく」ともいえますが、「いただく」をつけても「わざわざ」というニュアンスがなくなるわけではないので、目上の方には使用しない方が無難です。

「足を運ぶ」の例文

「足を運ぶ」を使った例文をいくつか紹介します。

・せっかく足を運んだのに、お店が閉まっていてとても残念です。

わざわざお店まで行ったのに、期待外れの結果になってしまい残念だという気持ちを「足を運ぶ」を使って表しています。

・大好きな選手に会えるまで、会場に何度も足を運びました。

わざわざ会場まで何度もいってしまうほど、その選手が大好きだということを表しています。

・そのレストランは美味しすぎて、週に何回も足を運んでいます。

「足を運ぶ」を使うことによって、週に何度も行ってしまうほど美味しいレストランであることを強調しています。

  • 「足を運ぶ」の正しい使い方

    「足を運ぶ」の使用には、注意が必要です

「足を運ぶ」の類語・言い換え表現

「足を運ぶ」の類語としては、「行く」「向かう」「赴く」「訪問する」などがあります。

行く

「行く」は、「目的地に向かって歩いて行く、進んでいく」という意味がある言葉です。「行く」には「足を運ぶ」特有の「わざわざ」というニュアンスはありません。そのため、行動力や主体性のアピールには向きませんが、敬語表現または謙譲語に直せばそのまま目上の方にも使用できます。

向かう

「向かう」は、「ある方向を目指して動いていく」という意味をもつ言葉です。「行く」と同様「向かう」にも、「足を運ぶ」のような「わざわざ出向く」という要素はなく、ただ目的地を目指して行くという状態を表します。

赴く(おもむく)

「赴く」は、「その方向へ行く」、「ある場所へ向かっていく」という意味の言葉です。「訪問する」や「行く」という言葉の敬語表現として使用することもできるため、ビジネスシーンで「これから赴かせていただきます」と表現することもできます。

訪問する

「訪問」は、「人を訪ねたり、人の家を訪れること」です。敬語表現では、「訪問される」や「お訪ねする」というように使用します。こちらも、上記で紹介した類語と同じニュアンスの言葉なので、同様に使用することが可能です。

  • 「足を運ぶ」の類義語

    「足を運ぶ」の類語は「行く」「向かう」「赴く」「訪問する」です

「足を運ぶ」の英語表現

「足を運ぶ」を英語で表現する際はどのような言い回しが使えるのでしょうか。

「訪問する」という意味で「visit」「come」

「訪問する」という意味で、「visit」や「come」という言葉に訳すことができます。

Tomorrow is my best friend's birthday, so I'm going to visit her house.(明日は親友の誕生日なので、彼女の家を訪問します。)

「わざわざ」という意味では「all the way」

「all the way」は、「はるばる」や「わざわざ」というような意味の言葉です。以下の例文では、「わざわざ」の「all the way」と「訪問してくれて」の「come」をセットで使っています。

Thank you for coming all the way to see me.(私に会うために、遠くからわざわざ訪問してくれてありがとうございます。)

  • 「足を運ぶ」の英語表現

    「足を運ぶ」の英語表現は「visit」「come」「all the way」です

「足を運ぶ」をビジネスで使う際は失礼にならないよう注意が必要

「足を運ぶ」は、「わざわざ向かう、出向く」という意味をもつ言葉です。「わざわざ」というニュアンスが強いため、自分の主体性や行動力をアピールする場合には使える言葉ですが、自分を主語として目上の方に使ってしまうと大変失礼になります。

「足を運ばせていただく」とへり下るのも不自然なので、ビジネスシーンにおいて「こちらが出向く」と伝えたい場合は、「伺います」を使用した方がよいでしょう。