「忍びない(しのびない)」とは控えめなイメージがある言葉ですが、正しい意味をご存じでしょうか? また「偲びない(しのびない)」との違いを説明できますか? この記事では「忍びない」という言葉の意味や語源を解説。また、ビジネスや日常会話でのシーン別の使い方や類語、英語表現について紹介します。

  • 「忍びない」とは?

    「忍びない」についてくわしく説明します

忍びない(しのびない)とは

「忍びない」の意味

「忍びない」とは、「耐えられない」や「我慢できない」という意味を持った言葉で、「しのびない」と読みます。

「忍びない」の語源は「忍ぶ」

「忍びない」の語源は、「忍ぶ」です。「こらえる」や「耐える」、「我慢する」といった意味を持つ「忍ぶ」という言葉に否定系の「―ない」をくっつけて「忍びない」という言葉が生まれました。

「忍ぶ」と「偲ぶ」の違い

「しのぶ」と聞くと、「偲ぶ」という漢字を思い浮かべる方もいるのではないでしょうか。しかし、「偲ぶ」と「忍ぶ」には明確な違いがあるのです。

「忍ぶ」には「耐える」「我慢する」「じっとこらえる」という意味がありますが、「偲ぶ」は「過ぎ去ってしまった昔の出来事や、遠くにに住んでいて普段なかなか会えない人、亡くなってしまった人を懐かしんだり、思いを巡らせたりすること」という意味があります。

漢字が異なると意味合いも全く異なるので、使用する際は注意しましょう。

「忍びない」と「申し訳ない」の意味の違い

「忍びない」という言葉に対して、「控えめで腰の低いイメージ」を持っている方も多いのではないでしょうか。そのようなイメージから、「忍びない」と聞くと「申し訳ない」という意味だと誤解してしまう方もいるようですが、それは間違いです。

「申し訳ない」という言葉には、相手に対して謝罪する気持ちが込められているのに対して、「忍びない」という言葉はあくまで自分が(相手、もしくは自分の言動に対して)「耐えられない」「我慢できない」という意味があります。そのため、「忍びない」には相手に謝罪するという意味は込められていません。

  • 「忍びない」の使い方

    「忍びない」は、「我慢できない」や「耐えられない」という意味です

「忍びない」の使い方と例文

「忍びない」の使い方には主に、自分の言動に対する「忍びない」と、相手の言動に対する「忍びない」、そして相手への自分の言動に対する「忍びない」の3つのパターンがあります。

「忍びない」の例文

「忍びない」を正しく使えるようになるために、いくつか例文を紹介します。

下記は「〇〇に忍びない」という形の使い方です。この〇〇の部分には動詞が入ります。

・事故現場の残骸は、見るに忍びない(見るに堪えない)

・ その国の悲惨な歴史は、聞くに忍びない(聞くに堪えない)

・ 疲れ切ってぐっすりと寝ている娘を、起こすに忍びない(起こすのは心苦しい)

次に「忍びない〇〇」という形の使い方です。この〇〇の部分には名詞が入ります。

・忍びない出来事(我慢できない出来事)

・忍びない映画(酷くて見ることができない映画)

・忍びない人生(耐えがたい人生)

最後に「~は、忍びないので、」という形の使い方です。

・お手を煩わせるのは忍びないので、こちらで対応させていただきます。(お手を煩わせるのは恐縮なので、こちらで対応させていただきます。) 

・ご足労いただくのは忍びないので、郵送で結構です。(わざわざ足を運んでいただくのは恐縮なので、郵送で結構です。)

「忍びない」という言葉は上記の例文のように、自分の言動に対しても、相手の言動に対しても使うことができます。しかし、相手を主語にして使ってしまうと失礼だと感じられることもあるので注意しましょう。

「忍びない」の使い方【ビジネスシーン】

「忍びない」をビジネスシーンで使用する場合は、上記の3つ目の使い方である「~は、忍びないので、」という形で使用することが多いです。

しかし、「忍びない」は個人の意見や気持ちを表現するときに使用する言葉であるため、会社などの公的な書類などには記載できないので注意しましょう。

ビジネスシーンにおいて、「忍びない」の言い換え表現としては「心苦しいのですが」や「恐縮ですが」、「恐れ入りますが」や「ご面倒をおかけしますが」などがよく使われます。どれも少しずつ意味が異なるものの、同じようなニュアンスで使用できるので覚えておきましょう。

「忍びない」の使い方【日常会話】

日常会話で「忍びない」を使用する場合は、「〇〇に忍びない」や「忍びない〇〇」という形で使用するのが一般的です。「~は、忍びないので、」も使用可能ですが、堅苦しい印象を与えてしまうかもしれません。

  • 「忍びない」の類義語

    「忍びない」は、主に3つのパターンの使い方があります

「忍びない」の類語・言い換え表現

「忍びない」の類語を紹介します。必要に応じて使い分けられるよう覚えておきましょう。

やるせない

「やるせない」とは、「心の中に留まっている憂いや悲しみなどの思いを晴らすことができずにどうしようもないこと、無力なこと」また、「せつない」「どうしようもできない」という意味を持つ言葉です。漢字では「遣る瀬無い」と書きます。

どちらも「我慢ならない心情」に変わりないですが、「忍びない」と比較すると、「やるせない」からは少し「悔しさ」がにじんでくる表現です。

耐えがたい

「たえがたい」は、漢字で「耐え難い」と書き、耐えること(我慢すること)が難しいという意味を持つ言葉です。「忍びない」と同じ意味やニュアンスがあるので、言い換えとしてそのまま使うことができます。

かわいそう

「忍びない」の類語として、「可哀想(かわいそう)」という言葉も挙げられます。「我慢ならない」という意味をもつ「忍びない」と「かわいそう」では、意味合いが少し違うのではないかと思う方もいるかもしれませんが、「かわいそう」とは、「相手に同情する気持ち」や「相手を不憫(ふびん)に思う気持ち」を表現する言葉です。

悲惨な事故現場を目の当たりにしたときなど、相手に対していたたまれない気持ちを表現する際は類語として使用できます。

気の毒

「気の毒」とは、「相手の不幸や悲しい出来事に対して心を痛めているさま」や「相手に迷惑をかけて申し訳なく思う気持ち」のことをいいます。

「忍びない」には相手への謝罪の意が含まれていないのに対して、「気の毒」という言葉には相手に対する謝罪の意が込められている場合もあります。謝罪の意が含まれているかどうかで使い分けましょう。

  • 「忍びない」の英語表現

    「忍びない」の類語は少しずつニュアンスが異なります

「忍びない」の英語表現

「忍びない」の英語表現としては、「unbearble」や「can't stand」が挙げられます。

unbearable

「unbearble」は、「耐えられない」や「我慢できない」という意味があり、「忍びない」の英語表現として使用できます。

My grandmother's death caused unbearable sufferings and sorrow for us.(祖母の死は、私たちに忍びない(耐えがたい)苦しみと悲しみをもたらしました。)

can't stand

「can't stand」も「我慢できない」「我慢ならない」といった意味を持つ言葉です。「unbearble」とともに覚えておきましょう。

I can't stand this heat.(この暑さには耐えられない(忍びない暑さだ)。)

  • 「忍びない」という言葉を正しく使えるようにしましょう

    「忍びない」の英語表現は、「unbearble」や「can't stand」です

「忍びない」の意味や使い方をマスターしよう

「忍びない」という言葉は、相手の言動に対しても自分の言動に対しても使える言葉ですが、相手を主語にして使用したり、ビジネスシーンで公的な書類などに使用したりすることはできません。

また、「偲びない」という漢字の「しのびない」を使用してしまうと、全く別の意味として解釈されてしまうので気をつけましょう。