とにかく1億円がほしい。1億円あれば明日からの残りの人生、ささやかな趣味に日々を興じる慎ましくも豊かな左うちわの生活が始められる。気が向いたら働いたり、働かなかったり……原稿だって原稿料なしで書く、かもしれない。
全国民が私に1円ずつカンパすれば十分実現できるが、私が全国民に1円ずつカンパすればなくなる。それが1億円という額だが、ごく普通の会社員が資産1億円を実現するには、どんなロードマップを描くべきか。
この4月、「貯金ができない私でも、1億円貯まる方法を教えてください」を上梓した、ウェルス・パートナー代表取締役の世古口俊介氏に、ずばり本書のタイトルに関するところを聞いた。
成功しやすい投資商品の特徴は?
富裕層向けの証券営業に始まり、プライベートバンカーとして従事してきた世古口氏。2016年にウェルス・パートナーを創業し、独立した現在も富裕層や会社オーナーの資産運用に関する指導・提案を行っている。
「プライベートバンクのお客様は資産がたくさんあるストックリッチと、収入がたくさんあるフローリッチに分かれます。当社の場合は比較的若いストックリッチのお客様が中心です。インターネット事業などで成功された30代から50代までのニューリッチと呼ばれる方々が多く、金融・実物・税金の3要素を考慮して最適な資産配分を提案しています」
多くの資産家や富裕層を顧客にしてきた世古口氏だが、金融資産の運用で失敗しがちなパターンとしては、どのようなものが挙げられるのだろうか。
「ひとつは短期的な視点で投資しているパターンが挙げられます。短期のトレードはそれを生業にするプロ投資家や、高度なAIなどで運用するヘッジファンドと戦うことになるので、勝てる必然性が低くなるからです。そしてもうひとつは、投機的な投資をしているパターンです」
反対に、5年・10年単位の長期的な視点での投資は成功しやすく、資産を分散する投資は長期投資にもなりやすいという。
「プロの投資家は短期的に結果を出さなければならないので、長期的な視点を持てることは個人投資家にとって唯一の勝てるポイントと言えます。そういう意味では、例えば会社の確定拠出年金やその個人版であるiDeCoのような、途中で簡単にやめられない投資はお勧めしやすいです。多くの金融投資は流動性が高い仕組みになっていますが、これらの投資商品は税制面のメリットがあるうえ、一回始めると途中でやめる手続きが面倒なので続けやすいと思います」
投資は毎月の収入から支出を引いた余剰キャッシュフローの範囲で回すのが基本。しかし、歩合給の割合が高い会社員や個人事業主など、毎月の収入に変動がある場合もある。
「収入に不確実性がある人は最低限の手取り額を基準にして、例えばそれが30万円で生活支出が月20万円であれば、10万円の範囲で投資すること。あとは急に収入が途絶えるなど、万一の場合に流動性を確保するため、1年分の生活支出を現預金で置いておくことをお勧めします。収入が不安定な方はiDeCoより途中で投資資金を引き出すことが可能なNISAの方がいいでしょう」
株式投資は海外株を多めに
「株・債券・国内不動産の3つの投資はコア資産と呼ばれる再現性の高い投資で、中核になるべき資産です。このコア資産に対する長期の積み立て投資は鉄板で、再現性が一番高いと言われています。20代・30代はコア資産への積み立て投資をし、40代くらいで資産規模が増えたら、仮想通貨や金といったサテライト資産への投資も行うのが定石です」
なかでも世古口氏が一般的な若手会社員の資産形成で勧めるのが株式投資だ。リスク許容度や資産形成にかけられる時間軸を考えると、株100%でも問題ないという。
「あまりあれこれ難しく投資配分を考える必要はありません。ただ、海外株7割、国内株3割など、海外の株式の比率を高めにするといいと思います。国のGDPに基づいて株価を考えると、経済成長の要素は人口と生産性です。50年後の日本の人口は約8,000万人と減少が見込まれていますし、生産性に影響するDX、IT化についても、日本はあまり進んでいない。成長著しい海外株のほうがお勧めしやすいんです」
日本人としてはなんとも残念な話だが、となると、いっそ海外株だけでもいい気もする。
「株への投資は"経済成長に置いていかれないための投資"という意味もあります。日本円で生活する日本人が負うリスクの大半は日本の物価が上がるインフレリスクで、このリスクをヘッジするのに一番向いているのは日本株です。信じるものがあれば米国株だけ、新興国株だけというのもアリですが、新興国株と日本株、先進国株に分けて考えるのがセオリーですね」
最近はコロナ禍による財政出動で株式や不動産などの資産価格が高騰する資産バブルや、雇用や収入が増えない景気下で物価が上がるスタグフレーションを懸念する声もある。投資先を分散させる、攻守のメリハリをつけた投資が大切なようだ。
「株式投資をお勧めするのは、世界経済が成長することを前提としているからです。もし世界が経済的にどんどん悪化して、アメリカや日本が破綻すると考えるなら、株や円・ドルより仮想通貨や金を持っていた方がいいでしょう。ただ、何かひとつだけ持つことは、その可能性にだけベットすることになるので、株や円・ドルも持ってリスク分散させるのが基本です」
1億円の資産形成を実現するために必要なこと
加えて、一般的な会社員が投資で1億円の資産形成を実現するには、早めの株式への積み立て投資と同時に、借り入れによる国内不動産への投資が一番の近道だと語る。
「30歳から月1万円の株式への積み立て投資と、1億円分の借り入れで不動産投資すると、60代後半で約1億円。借り入れが難しければ、借り入れ部分を1億円から5,000万円にして、月2万円で積み立て投資すると、だいたい同じタイミングで1億円に達します。月1万円を株に38年間投資するだけで過去の運用実績では4,000~5,000万円になりますね」
これは世古口氏が昨年出版した「しっかり1億円貯める月1万円投資術」のシミュレーションに基づくものだが、本書ではアート投資やランドバンキングなどのサテライト投資についても解説している。
仕事柄さまざまな投資を実践し、自身で経験を積んできたという世古口氏。再現性が高いとされるコア投資のほうが優先順位は上だが、サテライト投資ならではの魅力もあるようだ。
「インデックス投資などで基盤をつくり、そこで増えた資産で投資の幅を広げていくのもいいと思います。インデックス投資はつまらないのが弱点で、仮に値下がりしても投資対象がアート作品やワインなら自分で楽しめる。株も個別銘柄などは基本的に同じ考え方でいいと思います。ある意味、自分が好きな会社やモノへの投資なら負けなしですよ」
目標とする資産額によって、投資の手法もさまざま。1億円を目指して株式投資と不動産投資を勉強するもよし、コア投資を着実に行い興味に応じてサテライト投資に手を出すもよし、自分に合った方法でぜひチャレンジしてほしい。
世古口 俊介/ウェルス・パートナー代表取締役
1982年三重県生まれ。2005年4月に日興コーディアル証券(現・SMBC日興証券)に新卒で入社し、プライベート・バンキング本部にて富裕層向けの証券営業に従事。その後、三菱UFJメリルリンチPB証券(現・三菱UFJモルガン・スタンレー証券)を経て2009年8月、クレディ・スイス銀行(クレディ・スイス証券)のプライベート・バンキング本部の立ち上げに参画し、同社の成長に貢献。同社同部門のプライベートバンカーとして、最年少でヴァイス・プレジデントに昇格、2016年5月に退職。2016年10月に株式会社ウェルス・パートナーを創業し代表に就任。
独立後も富裕層や会社オーナーの資産運用に関する指導、提案に従事。500人以上の富裕層のコンサルティングを行い、最高預かり残高は400億円。書籍執筆や日本経済新聞、週刊東洋経済、ZUU onlineなどメディアへの寄稿を通じて日本人の資産形成に貢献。著書に『しっかり1億円貯める月1万円投資術』(あさ出版)。