4月30日に『半径5メートル』(NHK)、『あのときキスしておけば』(テレビ朝日系)がスタートし、ようやく2021年春ドラマの新作が出そろった。

視聴率では、阿部寛主演の『ドラゴン桜』(TBS系)、竹野内豊主演の『イチケイのカラス』(フジテレビ系)、玉木宏主演の『桜の塔』(テレビ朝日系)が「好スタート」と報じられているが、これはあくまで1つの目安に過ぎない。とりわけ世帯視聴率は、もはや広告営業で重視されない時代錯誤の数値であり、視聴者は無視すればいいだろう。

春ドラマで本当に質が高くて、今後期待できるのはどの作品なのか? ドラマ解説者の木村隆志が俳優名や視聴率など「業界のしがらみを無視」したガチンコで、2021年春ドラマ21作の傾向とおすすめ5作を挙げていく。

2021年春ドラマの主な傾向は、「オリジナルVS原作アレンジ」「ドラマは23時台の時代へ」の2つ。

  • 『ドラゴン桜』出演・阿部寛 撮影:大塚素久(SYASYA)

  • 『イチケイのカラス』出演・竹野内豊

  • 『桜の塔』出演・玉木宏 撮影:蔦野裕

傾向[1]オリジナルVS原作アレンジ

今春は力の入ったオリジナルがそろった。

TBSは『着飾る恋には理由があって』『リコカツ』、日本テレビは『恋はDeepに』『コントが始まる』『ネメシス』、テレビ朝日は『桜の塔』『あのときキスしておけば』、フジテレビは『大豆田とわ子と三人の元夫』(関西テレビ制作)、NHKは『きれいのくに』『半径5メートル』『今ここにある危機とぼくの好感度について』などを手掛けている。

これほどオリジナルが増えたのは、昨春の視聴率調査リニューアルによって、中高年層の影響が大きすぎる世帯視聴率の呪縛から離れられたからだろう。それを証明しているのは、刑事ドラマや医療ドラマが激減して、別ジャンルの作品が増えたこと。明らかに若年層がメインターゲットのラブコメが増えたことも含めて、地上波の連ドラに多様性と活気が戻りつつある。

一方の原作モノには、TBSの『ドラゴン桜』、フジテレビの『イチケイのカラス』『レンアイ漫画家』『最高のオバハン 中島ハルコ』(東海テレビ制作)、テレビ朝日の『泣くな研修医』『コタローは1人暮らし』、テレビ東京の『珈琲いかがでしょう』『生きるとか死ぬとか父親とか』『私の夫は冷凍庫に眠っている』などがある。

しかも、ただ原作を実写化するだけでなく、大胆に脚色している作品も多い。学園、理事長、生徒の学力などを変え、悪人の数を増やして『日曜劇場』の演出に染め上げた『ドラゴン桜』。主人公を変え、性別や性格を変え、エピソードなどもガラッと変えて『HERO』のテイストを盛り込んだ『イチケイのカラス』。主人公を変え、ヒロインの年齢と性格などを大幅に変えた『レンアイ漫画家』。

いずれも原作ファンの心証を損ねないよう配慮しながら、ドラマらしいエンタメ化を図ろうとしていて、それぞれ一定の成果を挙げている。

意欲的なオリジナルと、思い切った原作アレンジの両者が共存する状況は、ドラマ業界にとっても視聴者にとっても好ましい状況だろう。「ステイホーム」が求められる今、老若男女が好きなドラマを見つけられるのではないか。

  • 『着飾る恋には理由があって』出演・横浜流星

  • 『珈琲いかがでしょう』出演・中村倫也

  • 『コントが始まる』出演・菅田将暉

傾向[2]ドラマは23時台の時代へ

今春、テレビ東京が月曜と土曜の23時台に2つのドラマ枠を新設した(第1弾として『珈琲いかがでしょう』『私の夫は冷凍庫に眠っている』が放送中)。また、NHKのドラマ枠『よるドラ』は土曜23時30分から、月曜22時45分に移動した。その他、土曜の23時台には、テレビ朝日系が2つのドラマ枠、フジテレビ系が1つのドラマ枠を放送している。

今春の動きによって、月曜の23時台に2つのドラマ枠、土曜の23時台に4つのドラマ枠が存在することになった。現在ゴールデン・プライム帯でドラマ枠が競合しているのは、金曜22時台だけであり、23時台がホットスポットになりはじめていることがわかるだろう。

ゴールデン・プライム帯のドラマは、いまだ視聴率獲得が厳命され、低視聴率を記録するとメディアから徹底的に叩かれる。また、表現の幅が狭くなりやすく、コンプライアンスやスポンサーへのケアも求められるなど、作り手の自由度は低い。

ただ、24時以降の深夜帯では視聴者の絶対数が減って影響力が落ち、当然ながら予算も大幅に下がってしまう。その点、23時台はゴールデン・プライム帯が終わった直後の時間帯で、まだ視聴者の数は多く、スポンサーの好む若年層の視聴も期待できる。表現の幅も広がるほか、予算は動画配信サービスで収入を得られればフォローが可能だ。

スタッフとキャストのモチベーションを上げるためにも、クリエイティブファーストが望める23時台のドラマ枠は、今後の鍵を握っているのではないか。現在、平日の23時台はニュース系の番組が目立つが、近い将来ここにドラマ枠が食い込んでくるかもしれない。


これらの傾向を踏まえた今クールのおすすめは、『コタローは1人暮らし』『コントが始まる』『半径5メートル』の3作。『コタローは1人暮らし』は、5歳児と大人の温かくも切ない、笑って泣けるストーリー。『コントが始まる』はコントを軸にした大胆な構成と、今やレアな若者群像劇。『半径5メートル』は女性週刊誌の丁寧な描写と、愛きょうたっぷりの編集部員たち。それぞれ質が高い上に愛着が持てる要素があり、「見て損はない作品」と言える。

その他では、『珈琲いかがでしょう』『今ここにある危機とぼくの好感度について』『最高のオバハン 中島ハルコ』『大豆田とわ子と三人の元夫』も、それぞれにオリジナリティと見応えがある。「視聴率や先入観だけで判断して見ない」というのはもったいないだけに、TVerや各局のオンデマンドなどで、チェックしてみてはいかがだろうか。

■おすすめ5作

  • No.1 コタローは1人暮らし (テレ朝系 土曜23時30分)
  • No.2 コントが始まる (日テレ系 土曜22時)
  • No.3 半径5メートル (NHK 金曜22時)
  • No.4 珈琲いかがでしょう (テレ東系 月曜23時6分)
  • No.5 今ここにある危機とぼくの好感度について (NHK 土曜21時)