刑事ドラマだが、王道の犯人VS警察ではなく、警視総監を目指して巻き起こる組織内のパワーゲームに焦点を当てた人間ドラマ『桜の塔』が、あす15日にスタート(毎週木曜21時~ テレビ朝日系)。俳優の玉木宏は、幼少期のある出来事がきっかけで警視総監を目指すようになった警視庁捜査共助課の理事官・上條漣を演じる。出世のためには汚い仕事もためらうことなく遂行する、ダーティーな役どころだ。

漣が出世の階段を駆け上がっていくように、玉木にも、たとえば「主演を多く張りたい」など役者としての野心はあるのだろうか。玉木が口にしたのは、変わりゆく時代を冷静に見据えた作品作りへの責任感だった――。

  • 俳優の玉木宏 撮影:蔦野裕

■「有名になりたい」――時代と共に変化した作品への思い

「昔は『有名になりたい』という欲が一番強かった」と、誰もがイメージしやすい芸能界での出世を意識していたと話す玉木。現在は「完全にその気持ちがなくなったわけではありませんが」と前置きしながらも、「俳優も個々に有名になって名前を知られていったりしますけど、今はやはり“作品”をいろんな人に見ていただきたい、という気持ちが大きい」と野心の変化を明かす。いま玉木を占めているのは「『いい作品をその都度作っていこう』という向上心。過去にないものを作りたいと思うし、より多くの人に見てもらいたいと思う」。

その背景にあるのは時代の変化だ。「テレビがどうしても弱い時代になっているのはもちろん僕らも分かっていて。じゃあどうすればドラマがもっと面白くなるんだろうと考えるし、脚本がすごく面白いとより多くの人に見て頂きたい気持ちも強くなるので、今はそれが目標です」と、個人の枠に留まらず、テレビ、ドラマという広い視野での責任感も持つ。

■プロファイリングを使う難役は「攻めなきゃいけない」「チャレンジ」

今回の役には、繊細な演技が求められる。漣の得意技は、癖や仕草から相手の考えていることを見抜く「プロファイリング」。このプロファイリングが、役作りをときに窮屈なものにしてしまうという。

「たとえば『唇を触る癖がありますね』という台詞があると、自分が唇を触ることができなくなる。ヘタな仕草をつけられず、余分なものを削ぎ落として演じることが、難しい。無機質に演じなければ、と窮屈になっていく」。癖や仕草でキャラクターを構成できない難役。しかし、もちろん“無”のままではいられない。「フラットにしすぎると、周りのキャラクターの圧に負けているように見えるので、バランスを取らなきゃいけない。台詞にも感情を乗せないと伝わらないし、強く見せなきゃいけないときもあるので……もう慣れてきましたが、最初は探っている部分はありましたね」と苦労をにじませる。

その結果、「静かな中で情熱を持っている男。野心があるので『静かに強く』ということをモットーに演じています」と、ベストな解釈にたどり着いたものの「攻めなければいけないところもある」。次に立ちはだかるのは台詞回しの難だ。「台詞のスピードだったり、相手に有無を言わさない言い方であったり。無機質な中に抑揚をどうやって入れるかが難しいところですね。チャレンジではあります」と、数え切れないほどの役を演じてきた玉木から“チャレンジ”という意外な言葉が飛び出した。

そんな玉木自身の「プロファイリング」の腕前はというと「人の目を見て話していると『ある程度は分かる気がするな』と思うときもあります。それで失敗するときもありますけど(笑)」と笑顔を見せ、「必ず会話するときには目を見て。目が泳いでいる人は当然信頼できないので、目で判断する」と”目”に注目することを教えてくれた。