一番影響を受けたのは「ザ・ローリング・ストーンズ」の一枚

――その頃に見て影響を受けたレコードのジャケットを挙げていただけますか?

菅谷:僕が一番影響を受けたのは、ザ・ローリング・ストーンズの『メイン・ストリートのならず者』(原題:Exile on Main St.)のジャケットです。高校生のときにストーンズの来日が決まって、昔のアルバムが再発されたんですよね。あのアルバムのジャケットを撮ったロバート・フランクが大好きで。影響を受けたのはそれが一番大きいかなあ。

  • 映画『エポックのアトリエ 菅谷晋一がつくるレコードジャケット』より

――モノクロ写真のコラージュで、ネガフィルムが使われたりしているジャケットですね。

菅谷:そうです。彼は8mmで作品を撮っていて。ただ映像だけじゃなくて、ネガをプリントアウトして使ったり、ネガに文字を書いたりしているんですけど、あれも全部手作業じゃないですか? それを今コンピューター上でネガを壊さずにやることもできるんだけども、僕はやっぱりネガに手書きで書く方を選ぶかな、というのを勉強させてもらったのが、ロバート・フランクなんです。

――他にはどんなものがありますか?

菅谷:パンクも好きだし、ジャズ、ブルースも好きだし、挙げたらきりがないですね。今回、映画のパンフレット用にジャケットを10選したんですよ。そうしたら、なぜか写真のジャケットばっかりになっちゃって。自分では絵を描いたりするのに、いざ選んでみたらポートレートみたいなものが多かったんです。自分が作る作品とはまた違う見方をしているのかなと思って面白かったですね。それは発見でした。

――確かに、ジャズとかブルースは写真のジャケットが多いですもんね。

菅谷:そうなんですよね。あと、この大きさ(レコード)になると、粒子が粗く見えるじゃないですか? 僕はそういうのも好きなのかもしれないです。だから、今使ってるデジカメも、10年ぐらい前のやつなんですよ。まだニコンがフィルムカメラに寄せた作り方をしていた時代のもので、それが良い写り方をするんですよ。それで撮った写真をジャケットにするとちょっとボケてるんです。今のデジカメだと綺麗にいっちゃうと思うんですけど、そのボケ具合が好きなんですよね。

  • 映画『エポックのアトリエ 菅谷晋一がつくるレコードジャケット』より

――映画を観てすごく良いなと思ったのが、完成したジャケットをアーティストが見たときに「さすが菅谷さんだ」って、一発OKになるっていうところだったんです。それがデザインのかっこよさだなって。菅谷さんも作った作品についてとくに説明したりはしないと思うんですけど、「これはこういう意図で作ったんだ」って、解説したくなったりはしないのでしょうか?

菅谷:たぶん、見せてる僕も、見る側も、「音楽が大好きな人」なんですよ。だから、僕がやってるプレゼンなんて、レコード屋で探していて、「かっこいいな!このジャケット」って見せあったレベルだと思うんです。だから、「ほら、出来ました!かっこいいでしょ? 」っていう感じで、そこが上手く伝わってると思うんですよ。たぶん、共通言語としてジャケットというものがあるんだと思うんですよね。

――ジャケットができたときって、メンバーに直接お会いになって話すわけですか。

菅谷:もちろんです。例えば、原画とか、ボルト(ザ・クロマニヨンズ『PUNCH』のジャケット)を持って行って、「これが元でこのジャケットができてます」って話します。