会社の定年を迎えて仕事を退職すると、働くことで得られる収入が途絶えてしまいます。そこで、老後の生活保障として国から給付されるのが「公的年金」です。一方で、何らかの事情で働けない、または、働いても収入が少ない場合に給付されるのが「生活保護」です。

どちらも、他に収入の手立てがない場合にはありがたい制度ですが、両者は同時に受け取ることができるのでしょうか。生活保護や公的年金とは何か、そして、ダブル受給は可能なのか解説します。

  • 生活保護と年金のダブル受給は可能?

生活保護と年金について

生活保護とは

まず「生活保護」とはどのような制度なのでしょうか。生活保護は、「資産や能力などを全て活用しても、なお生活に困窮する人に対して最低生活の保障および自立の助長」を行うものとされています。給付される金額は、「就労による収入や年金収入等を差し引いた不足分」です。

このように、生活保護はただ生活に困窮していれば簡単にもらえるものではなく、「資産や能力を活用しているか」が問われます。具体的には、以下のような努力をしていても、なお最低限の生活を送れない場合に受給が可能となります。

・働ける限りは働く
・年金や手当等の社会保障給付を受ける
・扶養義務者(親、子、兄弟姉妹など)からの扶養を受ける
・預貯金や不動産等の資産の売却収入、保険の払戻金等を生活費に充てる

なお、自動車は原則的に保有できません。居住用や事業用不動産の保有は認められているものの、受給した生活保護の中からローンの返済をすることは原則として認められていません。

では、生活保護はいくらもらえるのでしょうか。生活保護の金額は一律ではなく、住んでいる地域や世帯の人数、構成員の年齢、その他の条件によって「最低生活費」とされる金額が決まります。たとえば、東京都区部に住む高齢夫婦2人世帯(65~69歳)の場合、受給できる金額は以下のようになりました(令和元年の資料をもとに試算。実際の金額は、その他条件によって決定する)

(1)生活扶助基準額……12万240円
(2)住宅扶助基準額……(最高で)6万4,000円
(1)+(2)=(最高で)18万4,240円/月

この他にも、母子家庭や障害者、妊婦がいる場合などは金額の加算があります。また子どもがいる家庭では、入学準備金や教材費などについて扶助があり、その他医療費、出産費、葬祭費なども一定の基準で扶助が認められています。このようにして決定した最低生活費から現在の収入などを差し引き、足りない分だけ生活保護として支給される仕組みとなっています。

なお生活保護を受けると、最低生活費が保障される代わりに、様々な制限を受けることになります。たとえば、預貯金やその他財産はまず生活費に充てることを求められるため、これらを持つことができません。また、貯蓄型の保険は財産と見なされ、加入できなくなります。さらに、生活保護を受けると医療費が支給されるので、健康保険証を返還します。その他、居住できる物件に制限がある、経済状況を報告する義務が生じるなどといった決まりが課されます。

公的年金とは

つぎに「公的年金」、いわゆる年金とは、どのような制度なのでしょうか。公的年金には国民年金と厚生年金があり、原則として、20歳以上の国民はそのどちらかに加入することが義務付けられています。なお、公的年金の仕組みは「2階建て」と表現されるように、1階部分は公的年金の基礎を担う国民年金、2階部分は国民年金の上乗せとして会社員が加入する厚生年金となっています。

そして、保険料を支払い、一定の要件を満たしている場合には、基礎年金を受給することができます。基礎年金とは、国民年金のうち受給対象者に共通で支給される定額部分です。基礎年金には、老齢基礎年金、障害基礎年金、遺族基礎年金の3種類があります。老齢年金は、高齢になり退職した時の生活保障として、障害年金は、病気やケガで障害を負った時の保障として、そして遺族年金は、遺族の生活保障としての機能を持った年金です。

生活保護と年金は両方受け取れる

では、生活保護と公的年金は、同時に受け取ることができるのでしょうか。先述のように、生活保護で受給できる金額は、「就労や年金等の収入」を差し引き、それでも最低生活費に満たない分となります。つまり、生活保護と年金を同時に受給することは可能です。

たとえば上記で、生活扶助基準額と住宅扶助基準額を合わせて18万4,240円が最低生活費となる高齢夫婦の例を挙げましたが、この夫婦が2人合わせて月額約11万円の年金を受給しているとすれば、「18万4,240円-11万円=7万4,240円」が生活保護として支給される計算となります。

このように、生活保護と年金を両方受給して、最低生活費を確保することは可能です。ただし、生活保護を申請して認められるには、いくつもの条件を満たす必要があるうえ、受給すると同時に生活上の制限も生じることを頭に入れておきましょう。

老後に生活保護と年金のダブル需給はできるが自助努力も

生活保護と年金は同時に受給できると知り、安心した人もいるのではないでしょうか。しかし、基本的には、公的年金だけで不足する老後資金は早いうちから自助努力で準備するのが賢明です。

一方で、生活保護は最低生活の保障や自立の助長を目的として、国から認められた制度であり、これを受給することは国民の権利と言えます。生活再建のために必要であれば、ためらわず利用しましょう。