『三大怪獣グルメ』『日本以外全部沈没』『大怪獣モノ』『地球防衛未亡人』『電エース』シリーズなど、特撮とコメディを組み合わせた娯楽映画を40年以上も撮り続けている"バカ映画の巨匠"河崎実監督による特撮ラブコメディ映画『メグ・ライオン』が、2020年9月4日より全国ロードショー公開となった。本作は、日本橋三越本店の2019年新春福袋企画「あなたをSFコメディ映画の主役に!」で約500万円(税抜450万円)を出資し、出演権をつかんだ一般女性を主役に迎えるという、前代未聞の経緯で製作された映画なのであった。

  • 上段左から、ジョナサン・シガー、渡辺裕太、真夏竜、田中美和子、下段左から、河崎実監督、岩井志麻子、浅野杏奈、長谷摩美、ネリ、桃山美緒、一宮すばる ※2020年1月21日に撮影

公開に先がけ、2020年1月21日に「cafe&bar木星劇場」にて行われた先行上映会では、主演の長谷摩美、浅野杏奈をはじめとする主要キャストと河崎監督が舞台挨拶を行い、つめかけた観客に映画の面白さを熱烈アピールした。ここからは舞台挨拶のもようと出演者への個別コメントを交えた形で、映画『メグ・ライオン』のお楽しみポイントをご紹介していこう。

会社で"お局さま"と"若い後輩"の両方から疎まれている、50代のさえないOL・獅戸(ししど)めぐ。ある日の帰り道、突然空から降ってきた全裸のイケメン男子ジョナサンに遭遇しためぐは、「あなたはキングライオン星の王女であり、銀河連邦百億個の星の王家の娘なのです」と打ち明けられる。遠い宇宙からめぐを求めて地球にたどり着いたジョナサンがめぐに口づけした瞬間、めぐはアイドル級の美少女へと変身してしまった。会社に行けば周囲の視線がガラリと変化。"ジュニア"と呼ばれる社長の御曹司・裕也からも交際を申し込まれ、有頂天になるめぐ。しかし裕也は、めぐの秘密の力を手に入れようと企む「ウルトラタイガー星人」だった! 凶悪なウルトラタイガー星人に対抗するべく、めぐは「メグ・ライオン」に変身する――!!

日本橋三越のシンボルである「ライオン像」と、ラブロマンス映画で有名な女優メグ・ライアンをかけて誕生したのが、世紀の特撮ヒロイン「メグ・ライオン」だ。河崎実監督は「往年のピープロ特撮ヒーロー、快傑ライオン丸(1972年)や鉄人タイガーセブン(1973年)の系譜を受け継ぐ"哺乳類顔"ヒーローキャラクターを」という思いを込め、このメグ・ライオンを創造した。

めぐは、孤独な自分の心の支えになっているアイドルグループ「サイドガールズ」に新メンバーとして加入し、アイドル活動にすべてをかけるようになる。しかしライブ会場にもウルトラタイガー星人の魔の手が忍び寄っていた。メグ・ライオン最大の危機に、ヒョウのような姿をしたあの宇宙人が……!

本作の主演を務めた長谷摩美は、日本橋三越の「福袋企画」に出資を決めた理由として、「私がずっと応援していたアイドルグループの女の子が、急に辞めてしまったのがそもそものきっかけなんです。その子のために何かしてあげたいんだけど、素人ではどうにもできない。そんなとき、この福袋企画をネットで知りまして"コレだ!"と思ったんです。私が出資して、その女の子を主演にした映画を撮ってもらえたらいいなと考えたのですが、その子はもうアイドルに戻るつもりがなくて、でも『辞めた後でもそんなに心配してくれてありがとう』なんて言ってくれたんです。ああ、私が思ったとおりのいい子だわ~と感激しました。でもその子が出演できないので、考えた結果"私が出るしかない"ということになりました」と、熱烈アイドルファンだった自身の"推し"のことを思っての大胆行動だったと打ち明けた。

もともと河崎監督の作品は、『地球防衛少女イコちゃん』(1987年)からずっと観ていてファンだったこともあり、500万円の出資も河崎監督への絶大なる信頼あってこそだと語る長谷は「ぜんぜん知らない監督の"福袋"なんて、手を出せませんよ」と笑顔を見せた。

素人俳優の"棒読み"演技を味わいとして生かそうとする河崎監督だったが、本作では「長谷さんが初めての芝居とは思えないくらい上手くて、これは意外でした!」と長谷の演技を絶賛。本作より先に劇場公開された『三大怪獣グルメ』でも河崎監督は長谷をキャスティングしており、その庶民的な演技が作品にリアリティを与えている。

アイドルグループ「マジカル・パンチライン」のメンバーであり、現在ではテレビ情報番組などでも活躍している浅野杏奈は、長谷の演じるめぐがジョナサンのキスによって可愛く変身した姿として描かれている。浅野も長谷と同じく映画出演は初で、「台本を読んだだけでは頭の中で理解できないことが多く、撮影現場を見学して勉強するよう心がけました」と、初めての映画撮影を持ち前の探求心とガッツで乗り切ったことを明かした。

劇中でもアイドルグループ・サイドガールズの一員としてダンスと歌を披露している浅野だが、「マジカル・パンチラインとは方向性が異なり、映画の中では正統派アイドルっぽいダンスをやらせていただきました。振り付けを覚えるのが大変でしたが、アイドルとしてとても勉強になりました」と、ダンスシーンを振り返って感想を述べた。さらには「アクションにも少しだけ挑戦しています。自分としてはなかなかうまくできたかなと思っていたのですが、画面を観ると"逃げ腰"っぽくなっていて、面白い格好になっていますね。アクションを本職でされている方の"凄さ"を改めて感じました」と、アクションを初めてこなしたときの思いをも打ち明けた。

河崎監督は「浅野さんは"泣く"シーンのとき、こちらでは目薬を用意していたんだけど、それを使わないで自分の涙を流してくれたのがよかった」と、浅野の演技力、気持ちの込め方の上手さを称えていた。

MX-TVの情報番組『5時に夢中!』の木曜日コメンテーターを務めて人気のジョナサン・シガーは、河崎作品には『シャノワールの復讐』(2018年)以来2度目の出演となる。前回演じた"風のマンチカン"は上半身裸にビキニパンツという特殊な出で立ちだったが、本作の冒頭でも『ターミネーター』よろしく全裸での出現シーンが撮られ、洗練された肉体美を惜しげもなく披露している。

ジョナサンは全裸シーンについて「長谷さんと対面するシーンでは股間に"前貼り"をして隠していますが、登場のときはリアリティを重んじて、スタッフを男性だけにして前貼りなしで演じました」と、撮影秘話を明かした。しかしこの"役者魂"によって、予想外のハプニングが起きそうになったという。それは、全裸シーンの撮影が終わってジョナサンがズボンをはいた10秒後、何も知らない浅野が現場に入ってきたのだ。ジョナサンは「浅野さんがもうちょっと早く現場に来ていたら、大変なことになっていました」と苦笑し、これを受けた浅野は両手で小さく「セーフ」のジェスチャーをして、客席を爆笑させた。

ジョナサンは河崎監督の"早撮り"について触れ「河崎監督の映画は、ほとんどがワンテイクでOKになる。よほどセリフを噛まない限り撮り直しがないので、この一回で決めないといけない、という緊張感があります」と、撮影現場の独特な空気感を説明してくれた。また一方で「河崎監督はカットをかけたあと僕に『トム・クルーズみたいだったよ!』『ブルース・ウイリスのようだ』なんて声をかけて、うまくノセてくれるんですよ」と、現場の空気をなごませる河崎監督の手腕を絶賛した。

『ウルトラマンレオ』(1974年)で主人公・おおとりゲンを演じた真夏竜は"ライオン"の縁で本作に出演。河崎監督の作品では『アウターマン』(2015年)の大島幕僚長、『大怪獣モノ』(2016年)の西郷博士を演じたが、本作ではめぐを見守る厳格で優しい父親という役柄になった。真夏は「『大怪獣モノ』では"女装コスプレ"にも挑戦しましたが、今回はふつうのおじさんの役です。共演の長谷さんはこれまでほとんど芝居をしたことがないと聞いていて心配でしたが、テストを一回やってみたら"上手い!"と思いました。私、俳優を45年やっていますけれど、この人は初めての演技でこのレベルなのは凄い。長く(俳優を)やればやるほど、いろんな動きをしてしまうんですけれど、何もしないくらいのほうがいいときがあります。観ている人たちの想像力を刺激するとかね。とても勉強になりました」と、ベテラン俳優の立場から長谷の"初"演技に高評価をつけた。

めぐの勤務する会社の"社長の息子"で、その正体はメグ・ライオンを狙うウルトラタイガー星人という突飛な役を演じるのは、情報番組レポーターやMCで活躍するタレント・俳優の渡辺裕太である。渡辺は「役柄が"ジュニア"で、役名が"裕也"ですから、自然に演じやすかったですね。主演の長谷さんとは共演するシーンがなかったんですけど、映画がきっかけになって交流ができ、長谷さんが僕の"落語"を観に来てくださったりして、すっかり友人同士になってしまいました。すてきなご縁をいただき、とても楽しかったです」と、父・渡辺徹、母・榊原郁恵ゆずりの屈託のない笑顔を見せつつ、映画で育んだ交友関係を朗らかに語った。

めぐに何かとキツくあたる会社の"お局OL"を演じたのは、ニッポン放送のラジオ番組『鶴光の噂のゴールデンアワー』で笑福亭鶴光のアシスタントを務め、『月曜から夜ふかし』(日本テレビ)にも出演しているフリーアナウンサー・タレントの田中美和子。田中は「30年間、ほぼラジオの世界しか経験しておりませんでした。河崎監督の『ロバマン』(2019年)に鶴光師匠が出演した縁で私をご紹介していただき、映画出演という初めての経験をさせてもらいました。師匠からは『みなさまに絶対に迷惑をかけたらアカン』と言われていましたので、台本のセリフをしっかり覚えて現場に入りました。エンドロールで自分の名前が出てきたとき"これで親孝行できる!"と思いました(笑)」と、初の映画出演に緊張しながらも、堂々とした演技を披露して河崎監督を喜ばせた。

映画では「サイドガールズ」としてめぐ(浅野杏奈)と共にステージへ立つ3人(左から、ネリ、桃山美緒、一宮すばる)は、長谷が応援しているグループ「バクステ外神田一丁目」出身のアイドルである(現在、ネリと一宮はグループを卒業)。

青いセーラー服のネリ(みやのねり)は映画の見どころを聞かれ「とても面白く、笑いのシーンもたくさんありますが、ジョナサンさんとお父さんとのくだりでジーンと来て、感動のあまり泣いてしまいました。コメディの中に、こういう"泣かせ"も入れてくるか……ズルいなあって思いました。あと、映画で印象的だったのはジョナサンさんの胸筋。いい男の身体って、あんなに素敵なんだなって感心しました(笑)」と、笑いあり涙ありのストーリーに感情移入できたことを明かした。

赤いセーラー服の桃山美緒は現在も「バクステ外神田一丁目」および「Pretty Ash」で活動中。桃山は映画出演をふりかえって「カメラに向かって演技をしたことがないので、とてもよい経験ができました。アイドルのダンスは映画のために作っていただいたもので、踊っているときの自分を映像として客観視できたのも貴重な体験となりました。けっこう真顔で踊っていて、ふだんの私もファンの方たちからこんな風に見られているのかなって思いました(笑)」と、ホットな感想を述べた。

黄色いセーラー服の一宮すばる(一宮昴流)は「めぐとジョナサンとの(二度目の)キスシーンがよかったです。とても情報量の多いシーンでした」と、印象に残った名場面を挙げつつ「私は長い時間、映画を観るのが苦手だったはずなんですけど、試写ではいつのまにか、身を乗り出して最後まで観ていました。自分でもびっくりしています。個人的なことを言いますと、撮影当日は風邪をひいて声がガラガラだったんですけれど、映画を観ているとそれほど風邪っぽく見えていなかったので、安心しました」と、映画の内容が魅力的だったゆえに、没頭して観ることができたことを打ち明けた。

映画『メグ・ライオン』は2020年9月4日より、ヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ他にて全国ロードショー公開中。

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