糸谷八段は成績を2勝1敗とし、白星を先行させる。敗れた羽生九段は1勝2敗に

第79期順位戦A級(主催:毎日新聞社・朝日新聞社)の3回戦、▲羽生善治九段-△糸谷哲郎八段戦が9月2日に関西将棋会館で行われました。今期1勝1敗同士の対決となった本局は、140手で糸谷八段が勝利。白星を先行させました。

後手番の糸谷八段の戦型選択は横歩取りでした。糸谷八段といえば一手損角換わりのエキスパートですが、A級順位戦という舞台での横歩取り採用です。周到な準備がうかがえます。

羽生九段は自身が敗れた前例をなぞる形で指し手を進めていきます。その対局で勝った側を持って指している糸谷八段は手を変えることはしません。羽生九段が前例を離れる一着を放ったのは実に43手目のことでした。

そこからは駒が乱舞する激しい戦いに。角交換、桂交換が行われ、糸谷八段は桂を犠牲に飛車を成り込みます。一方の羽生九段もと金を作って反撃。飛車を取られる間に銀香を入手し、糸谷玉を中段四段目に引きずり出しました。

自らの歩の上に腰掛けた糸谷玉。すぐにでも寄ってしまいそうな不安定な形ですが、ここからが糸谷八段の真骨頂。糸谷玉の生命力の強さは広く知られるところで、これまでも絶体絶命に見える局面から何度も逆転を収めてきました。本局も5四に鎮座した玉が不思議と寄りません。それどころか、この玉を軸に、△4四歩~△4五歩~△4六歩~△4七歩成として羽生玉の玉頭を攻めていったのです。

1時間以上持ち時間を残しているにも関わらず、ほぼ時間を使わずバシバシ指し進める糸谷八段。残り時間がほとんどない羽生九段は、次第に糸谷八段の怪力に押されるようになります。形勢は羽生良しだったのが、互角、そして糸谷良しになっていき、ついに129手目の△4五桂で糸谷八段が勝勢となりました。自玉の逃げ道を広げ、羽生玉に王手をかける一石二鳥の一手です。自玉に受けのなくなった羽生九段は糸谷玉に詰めろをかけましたが、糸谷八段は2分の考慮で羽生玉を即詰みに打ち取りました。

大きな逆転勝ちを収めた糸谷八段は、これで成績を2勝1敗とし、白星先行です。一方の羽生九段は1勝2敗の負け越しとなりました。

これまでは圧倒的な終盤力で勝ち星を積み重ねてきた羽生九段。そのあまりにも鮮やかな終盤は「羽生マジック」とも呼ばれました。ところが最近は、本局のような逆転負けも見られるようになりました。タイトル獲得100期を望むファンも多く、復調を期待したいところです。

剛腕の持ち主糸谷八段
剛腕の持ち主糸谷八段