2018年3月に日本で発売となったSUV「XC40」は、瞬く間に国内で最も売れるボルボ車となった。人気の高さゆえに納車待ちが長引き、その間に他のボルボ車をリースで乗れる「ブリッジSMAVO(スマボ)」という販売方式まで生み出されたほどだ。XC40の好調は今なお続くが、それに拍車をかけそうなのが、プラグインハイブリッド車(PHEV)と電気自動車(EV)の追加である。一足先にPHEVモデルに試乗してきたので、その印象をお伝えしたい。

  • ボルボ「XC40」のPHEV

    ボルボ「XC40」のPHEVモデル。正式名称は「XC40 Recharge Plug-in hybrid T5」(以下、XC40 PHEV)。ちなみに、試乗したクルマ(写真)と実際に販売されるクルマは、リアエンブレムなど外観が少し異なる

直列3気筒ターボの走りはどうか

XC40のEVは2021年の発売を予定。今回発売となったPHEVは、ボルボとして初めてFF(前輪駆動)によるモーター走行を採用する。

ボルボは2016年の「XC90」で早くもPHEVの導入を開始している。続いて「60」シリーズにも追加し、実績は積んできた。ただし、それらのPHEVは後輪をモーター駆動する方式だった。つまり、FFの動力伝達系に後輪用としてモーターを追加して4輪駆動化し、モーター駆動は後輪で行うやり方だ。上級車種で後輪のモーター駆動を採用すると、上質な乗り心地がいっそう高まる効果も生んでいた。

XC40は、それら上級車種とプラットフォームがそもそも異なり、前輪駆動でのPHEV化を行っている。このプラットフォームは、当初からEV化も視野に開発されたものだ。

  • ボルボ「XC40」のPHEV

    ボルボが小型車用プラットフォーム「CMA」を採用して開発した「XC40」

こうした事情なので、XC40 PHEVに4輪駆動の設定はない。それが結果的には、モーター走行中の軽快な運転感覚につながっている。小型SUVとしての持ち味をいかしたPHEVだ。

エンジンとモーターをエンジンルーム内に搭載することになるため、ガソリンエンジンはボルボで初めての直列3気筒ターボとなっている。ボルボはXC90から、単一のエンジンで上級車から小型車までをまかなう戦略をとってきた。具体的には、全てをエンジン排気量2,000ccの直列4気筒+過給(ターボチャージャーやスーパーチャージャー)としていたのだ。それが今回のXC40 PHEVでは、初めて直列3気筒エンジンを採用することになったのである。直列3気筒エンジンは日本の軽自動車などでも採用されているが、特有の振動や騒音を生じやすいところは懸念材料だった。

  • ボルボ「XC40」のPHEV

    「XC40 PHEV」は直列3気筒ターボエンジンを搭載する

試乗では直列3気筒エンジンの様子を試してみたが、勢いよく回って存分の力を発揮しただけでなく、余計な振動や騒音をほとんど意識させない滑らかな加速をもたらしてくれた。これであれば、静かさと滑らかさが魅力のモーター走行からエンジンを利用するハイブリッド走行へ切り替わっても、それほど大きな違和感を覚えずに済むだろう。

前に乗った「XC60」のマイルドハイブリッド車は、モーター機能付き発電機によって加速の補助は行うものの、モーター走行は行わない仕組みのハイブリッドだったが、直列4気筒エンジン自体の改良も加わり、モーター走行に近い滑らかで静粛性に優れた走りを堪能できた。2,000ccの直列4気筒+過給エンジンで全ての車種をまかなってきたボルボだが、その間、単に電動化を進めるだけでなく、エンジンも地道に改良を重ね、磨いてきていたことを知ったのである。

そうした不断のエンジン開発が、ボルボとして初めてとなる直列3気筒ターボエンジンにもいかされているのだろう。XC40 PHEVの走りは、人気を支えたクルマ本来のよさに加え、乗車感覚をさらに高めた仕上がりとなっていた。

  • ボルボ「XC40」のPHEV

    「XC40」はもともとよくできたクルマだったが、PHEVになって乗車感覚はさらに高まった

人気車にPHEVとEVが追加、どっちを選ぶ?

こうなると、電動化という道筋の過程で、来年にも発売となるEVとの比較がどうなるかが気になる。消費者としては、PHEVとEVのどちらを選べばよいか、迷うかもしれない。

PHEVは満充電からであれば約41キロのモーター走行が可能だという。発進と停止の回数が少なく、一定速度で淡々と走行できる条件が整えば、50キロ近くは走れるとの声もある。いずれにしても、約40キロのモーター走行ができれば、日常の用途でエンジンを掛ける機会は少ないはずだ。ちなみに、バッテリーの充電量にもよるが、モーターのみで時速135キロまで加速する能力も備えているそうだ。

  • ボルボ「XC40」のPHEV

    「XC40 PHEV」はフル充電であれば約41キロのモーター走行が可能。条件が整えば50キロ近くは走れるとの声も

EVは当然ながら、モーター走行のみとなる。日本仕様の詳細はまだ明らかではないが、今年春に英国で発表された内容を参考にすると、前後にモーターを搭載する4輪駆動で、充電1回あたりの航続可能距離は400キロほどになるらしい。かなりの高性能車と考えられるので、現在はPHEVがXC40の最上級車種だが、EVが加わるとそちらが上位に位置づけられるだろう。

英国におけるEVの車両価格は、日本円に換算して700万円ほどになるとのことだ。PHEVの日本での価格が649万円なので、50万円前後の上乗せとなる。

  • ボルボ「XC40」のPHEV

    「XC40」は今後、マイルドハイブリッドモデル(B4およびB5)とPHEVというラインアップとなる。価格はハイブリッドが409万~589万円、PHEVが649万円。ボルボ・カー・ジャパンによれば、PHEVの価格から減税と補助金を差し引くと、ハイブリッドの最上位モデルとの価格差は16万円程度まで縮まるという

ところで、日本でEVを所有するには、マンションなど集合住宅の「管理組合問題」という障壁がある。集合住宅の駐車場に普通充電用の設備を設置できない状況が、10年以上も前から続いているのだ。もちろん、公共の充電施設での充電は可能だが、EV利用の基本は自宅での普通充電である。これができることにより、エンジン車であれば定期的に必要となるガソリンスタンドへの寄り道が不要になるし、EVから家庭に給電する道が開けるので、災害時の停電に対応できる可能性も生まれる。

XC40のEVがどれほどすばらしい性能や機能を備えていても、普通充電器を備える集合住宅か戸建てに住む人以外は、EV本来の利用が難しいことも考慮しなければならない。

実はPHEVも普通充電しかできないので、あらかじめ充電することで味わえるPHEVのよさが、普通充電器なしでは味わいつくせないことへの懸念が残る。

充電への課題はボルボだけではなく、日本が抱える特殊な問題で、集合住宅の管理組合問題の解決へ向けて国内外の自動車メーカーが一致団結して当たらなければ、せっかくの電動車両の商品性がいかしきれない状況なのだ。この問題がクリアにならなければ、日本は電動車両普及の後進国となってしまうかもしれない。ひいては、自動車メーカーもインポーターも、クルマの魅力とは関係のない理由で、電動車両が売れないという苦悩を味わうことになるだろう。

  • ボルボ「XC40」のPHEV
  • ボルボ「XC40」のPHEV
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