「ベネフィット」という言葉は、一般的には、利益/恩恵/便益/慈善事業/福祉活動などを意味しますが、ビジネスにおいては「顧客が得をすること」「顧客が満足すること」を意味することが多いです。
顧客の意思選択に影響するこの言葉の意味を正しく理解することは、ビジネスを成功に導く重要な要素です。しかし、一見似ている「メリット」「アドバンテージ」といった言葉と混同し、正しく理解していないビジネスパーソンも少なくありません。
この記事ではベネフィットの意味やメリットとの違い、ベネフィットという言葉の具体的な使い方などを紹介します。
ベネフィットとは?
ビジネス上のベネフィットの意味
ビジネスにおけるベネフィットは、マーケティング的な観点から「商品やサービスが顧客にどのような体験を与え、ポジティブな変化が生まれるのか」という、商品やサービスを得た先の利益や恩恵を意味します。
例えば、ヘアワックスを購入して、ヘアスタイルを整えた人が、「ヘアスタイルがイケてる自分」に気分が良くなっている状態を「べネフィットを感じている」状態と言えます。
ビジネスにおける3種類のベネフィット
ブランド構築における重要な考え方である「ブランド・アイデンティティ」を提唱した、アメリカのマーケティング理論家・デイヴィッド・アーカー氏によると、マーケティングにおけるベネフィットには3つの種類があるそうです。
以下、「車」の販売・マーケティング活動を例に紹介します。
ベネフィットの種類 | 内容 | 例(車の場合) |
---|---|---|
1.ファンクショナル(機能的)・ベネフィット | ・商品やサービスなどの基本的な価値 ・商品やサービスなどに付随する機能、便利さ、効率など |
・速い ・スムーズな走り ・ハンドリングのキレがよい ・燃費がよい など |
2.エモーショナル(情緒的)・ベネフィット | 商品やサービスなどが満たしてくれる感情(名誉、優越感、幸福感、安心感、権力など) | ・かっこいい車に乗って気分がよい ・EVに乗っていると環境のためにいいことをしている気分になる……など |
3.自己表現・ベネフィット | 商品やサービスなどにより、可能となる自己表現・自己実現 | ・自分らしい、クールな車だ ・この車に乗っていると、理想の自分に近づく……など |
同氏によると、ビジネスを成功させるためには、特にエモーショナル・ベネフィット、および自己表現・べネフィットに焦点を当てるべきだとしています。
顧客は「スピードが速い」「振動が少ない」など機能性によって商品やサービスを選んでいると考えられがちですが、実際には機能だけが決め手となって商品やサービスを選んでいるわけではありません。
たとえば、Apple製品を使えば「クリエイティブでクールな自分」に、テスラに乗れば「最先端で成功者の一員」に、オーガニック食品を選べば「ヘルシーで自然体な自分」を肯定的に受け止めポジティブな気分になる……と考える人は多く、彼ら・彼女らは「機能」ではない部分にベネフィットを感じています。また、それらが商品やサービスを選ぶうえで大きなきっかけになっています。
こうした理由から、ビジネスではファンクショナル・ベネフィットを超えた顧客のべネフィットを考えアピールしていくことが大切と言えるでしょう。
ベネフィットの類語と反意語
メリットとベネフィットの違い
ベネフィットと混同されがちなのが、「メリット」です。メリットとは「商品やサービスの特徴やポイントそのもの」、ベネフィットはメリットの先にある「メリットによって生まれた顧客の満足感やうれしいという感情」のことであり、この両者の違いをきちんと押さえておくことが大切です。
商品やサービスをアピールする場合には、メリットだけでなく「ベネフィットをどう伝えるのか」をしっかり見極めるようにしましょう。
【メリットとベネフィットの例 (車の場合)】
メリット | この車はスムーズな走りで、長時間運転しても疲れにくい |
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ベネフィット | この車は長時間運転していても疲れないので、目的地到着直後、元気いっぱい楽しめる |
アドバンテージとベネフィットの違い
ベネフィットの類語に、「アドバンテージ」という言葉もあります。アドバンテージとは「ほかのものと比べた優位性や利益など」を意味し、比較対象が必要な表現です。一方ベネフィットには、比較対象は必要ありません。
【アドバンテージとベネフィットの例 (車の場合)】
アドバンテージ | この車は、あの車よりもスムーズな走りでアドバンテージがある |
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ベネフィット | この車は長時間運転していても疲れないので、目的地で元気いっぱい楽しめる |
プロフィットとベネフィットの違い
「プロフィット」とは、金銭上で得られる利益のことです。ベネフィットとの違いは、ベネフィットは金銭以外も含めたポジティブな利益であるのに対し、プロフィットは金銭的な内容に限定されている点です。
【プロフィットとベネフィットの例 (車の場合)】
プロフィット | 購入時より車を高く転売でき、プロフィットを得た |
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ベネフィット | 新車より中古車の方が高額だが、前のドライバーが取り付けたスピーカーの音質が素晴らしく、運転していて誇らしい |
ベネフィットの反意語は?
ビジネス上、ベネフィットの反意語としてふさわしいのは損失や損害、無駄を意味する「ロス」という表現です。
ロスの類語として、次のような表現があります。
用語 | 意味 |
---|---|
ディスアドバンテージ | ・状態を表す ・人や物に対し、不利な立場や損失を与える ・不利益や損失、不利にする |
デメリット | 人や物の欠点、落ち度そのもの |
ダメージ | 損害 |
ベネフィットの具体例
ダイエット食品の場合
ダイエット食品の場合、「痩せて素敵になることにより、得られる経験」がベネフィットです。
メリット | 痩せる |
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ベネフィット | 痩せて素敵な服を着られるようになる、理想の自分に近づく、外出が楽しくなる |
英会話や研修の場合
英会話や研修など形がない商品やサービスの場合、それによって得られる結果や経験がベネフィットとなります。
メリット | 英語・知識が身に付く |
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ベネフィット | 英語が話せるのでコミュニケーションの範囲が広がり友達が世界中にできる、知識が身に付いたことで仕事がスムーズにいき、昇進する |
ECサイトの場合
ECサイトなどバーチャルなサービスの場合、実際のリアルなサービスとの相乗効果により、さまざまなベネフィットが生まれます。
メリット | 商品が売れる |
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ベネフィット | リアル店舗とECで顧客の接点が増え、リアル店舗では買わなかったが後で気になって買う、リアル店舗とオンラインでは売れ筋が違うなど販売のヒントが得られる |
ベネフィットの追求が売り上げを左右する
これまで説明してきたように、ビジネスにおけるベネフィットとは、「メリットの先の未来」を意味しています。
よく、商品やサービスの顧客層は、「商品やサービスの特徴をよく理解していて購買意欲が高い」層と、「商品・サービスは決めていない、具体的には購買するかどうかすら不明」な層に分けられます。
前者は、すでにメリットを理解している状態、後者はメリットすら理解していない状態ですが、どちらのターゲットにもメリットではなくベネフィットを適切に伝えることができれば、ターゲットの心を動かし、購入へ1歩近づけることができるでしょう。
なぜなら顧客の多くは、購買活動において、商品やサービスそのものでなく、それらを手にすることでもたらされるポジティブな感情を求めているためです。
まとめ
顧客への製品やサービス売り込みが、メリットの訴求だけにとどまっているケースは少なくありません。商品やサービス、また情報があふれる現代において、メリットの訴求だけで顧客を動かすのは困難です。
今回の記事を参考に「メリット」と「ベネフィット」の違いを理解したうえで「顧客のベネフィットは何か? 」ということに焦点を当て、ニーズに合った情報を顧客に提供していきましょう。