ここまでは、既存番組におけるコロナ対策のカスタマイズを見てきたが、コロナ禍で1から立ち上げる番組では、どのような工夫が凝らされているのか。
きょう20日に放送される『芸人クイズプレゼンショー BAKAーMON』(23:30~24:10)では、「総合演出の玉野(鼓太郎)さんより、『コロナ対策をしつつ、それが前面に出ない状態で座組を考えたいです』という相談から入りました」という。
この番組は、芸人が本気で考えたバカバカしいオリジナルクイズを出題し、芸能界を代表するクイズ王たちが本気で解答していくというもの。つまり、クイズ番組の皮を被った“ネタボケ”だ。
セットは、出題する芸人と解答者が向かい合う形で距離を取り、解答者の後ろのひな壇に、出題芸人たちが2段になって待機している構図。ここを全てアクリル板で仕切っているが、「『次に誰のネタが見れるのか』というショーケースのような状態まで持っていったんです」。
■YouTube動画では難しい画作り
鈴木氏がコロナ禍で1からデザインを立ち上げた番組は、『千鳥のクセがスゴいネタGP』(5月30日放送)が最初だったが、こちらではネタを見るパネラー5人が平面に並び、それぞれアクリル板を挟みながら距離をとっていたため、どうしても画が横に広くなってしまっていた。一方、今回の『BAKAーMON』は配置を立体的にすることで、その課題を解消している。
ただ、奥行きを持たせて撮ると、前列と後列の人で大きさが全然変わってしまう。このため、「この構図にすると、必ずカメラは長玉(望遠レンズ)にして圧縮しないといけないという話をしました。我々美術スタッフだけでなく、演出やカメラマンの理解や協力がないと完成しないんです」。このように、さまざまなスタッフの協力で1つのセットが成り立っているのだ。
これは、まさにテレビ番組ならではの画作り。「おしなべて誰もが意見を言える状態を作ろうとした時に顔のサイズがほぼ統一されていないと、視聴者に重要な役割の人が前にいると思わせてしまいますからね。YouTubeなどでアップされている動画では、ここまでのクオリティを出すのはなかなか難しいと思います」と、テレビ美術のプライドをうかがわせた。
演者だけでなく、カメラマン同士も近づかない状態に工夫されている。「届いてる画だけがソーシャルディスタンスであって、実際にはカメラクルーが密なのではないかという疑惑に、ちゃんと『そんなことはないです』と答えられるようにしたいというのを、すごく意識しています。今回は、1人1人が離れたポジションから撮れるようにというところまで考えてセットを作っています」。
■費用削減にも寄与「布」に活路
今回のセットでは「布」を多用した。これによって、「大道具さんの手間がすごく省けるんです。しまうときは、折りたたんで丸めて、棚に置けば終わりなので、場所もとりません。その上、面積と表情が出せるので、関わる人数も減っています」という効果がある。
よく見ると、柱に見える部分も布でできており、費用削減に寄与する優れもの。「もともとは保管場所を考えるところから発想したんですけれど、稼働する人数を減らしてでも変わらないクオリティを出せるものとして、柔らかい素材が有効になっていくと思います」と、今後のテレビ美術現場での活躍を予感している。
●鈴木賢太
1974年生まれ、埼玉県出身。武蔵野美術大学卒業後、97年フジテレビジョンに入社。主な担当番組は『ENGEIグランドスラム』『ネタパレ』『人志松本のすべらない話』『IPPONグランプリ』『ジャンクSPORTS』『ワイドナショー』『ダウンタウンなう』『VS嵐』『バイキング』『MUSIC FAIR』『FNS歌謡祭』『全力!脱力タイムズ』ほか。14年には『VS嵐』正月特番のセットで第41回伊藤熹朔賞協会賞を受賞。