3日、フジテレビが『超逆境クイズバトル!! 99人の壁』(毎週土曜19:00~)の参加者に、解答権のないエキストラを番組に参加させていたことを発表。「『1人対99人』というコンセプトを逸脱していた」「視聴者の皆様の信頼を損なう形となっていた」として謝罪した。さらに、MCを務める佐藤二朗も「残念だ」「心からお詫び申し上げる」と謝罪を余儀なくされる事態に至っている。

これを受け、各メディアは「『99人の壁』不適切手法で制作」「解答権ないエキストラが番組参加」「サクラ最大20人超 『79人の壁』だった」などとセンセーショナルに報じ、ネット上には「テレビはヤラセばかり」「打ち切りしかない」などの批判が飛び交った。

今回の騒動は、どんなことが問題で起き、今後はどんな対応が求められていくのか。『99人の壁』の収録に何度も一般参加し、マイナビニュースでコラム「週刊テレ贔屓」を連載中のテレビ解説者・木村隆志氏に話を聞いた――。

  • 『超逆境クイズバトル!! 99人の壁』MCの佐藤二朗

    『超逆境クイズバトル!! 99人の壁』MCの佐藤二朗

■とびきり一般人に優しいバラエティ

木村氏は「1回平均10人ものエキストラがいた」という今回の報道に驚かず、むしろ「いつか露呈するだろうと思っていた」という。

「一部参加者の中から、『全然ボタンを押さないから90番台はエキストラかな』などという声があがっていました。私もそういう人に何度か話しかけてみましたが、愛想笑いを返すだけで、『こちらのほうが彼のジャンルに詳しい』ということもありましたから。ただ、大半の参加者は純粋に収録を楽しんでいて、エキストラの存在に気づいていませんでした。視聴者も同様に番組を楽しんでいたでしょうし、今回の件は裏切ってしまった感が否めないでしょう」

では、なぜ番組サイドはエキストラを手配しなければいけなかったのか。今回はエキストラ自身がBPO(放送倫理・番組向上機構)に連絡したことで発覚したというが、SNSでの告発も考えられるなど、もともとリスクが大きいシステムだったようだ。

「やはり毎回の収録に100人近い一般人をそろえるのは難しかったはずです。タレントなら必ず収録に行きますが、一般人は『予定が入った』『家庭の事情』などの理由でドタキャンもあれば、連絡すら入れずに来なかった人もいたようですから。毎回半数前後が北海道から九州まで日本全国から自費で参加していましたし、私が知る限り『99人の壁』に出たい人はたくさんいますが、収録当日に来てもらえなかったら意味がありません。この番組はスタッフが一般人への信頼をもとに制作していましたが、その性善説のような姿勢が仇(あだ)となったしまった感があります」

そもそも一般人を参加者にすること自体がリスクである上に、100人近くとなれば、なおのこと。そのリスクに挑戦した番組だからなのか、ネット上には批判とともに「解答権ないなら仕方ないというレベルかな」「むしろ79人も壁がいたことのほうが驚き」などの擁護も目立つ。

「他のクイズ番組がタレント解答者ばかりの安全策を採る中、『99人の壁』はリスク覚悟でゴールデンタイム唯一の視聴者参加型ですからね。クイズが得意でない人も、自分の愛するジャンルで挑戦して生き生きとした姿を見せられることも含めて、現在放送されている番組の中でも、とびきり一般人に優しいバラエティのように見えます。だからネット上に擁護の声があがるのでしょう」

■求められるYouTuberのぶっちゃけ力

さらに、木村氏は「番組のコンセプトとは言え、制作サイドが100人集めることにこだわりすぎてしまった」「それはテレビ業界の抱える課題」と指摘する。

「MCがユーモアたっぷりの佐藤二朗さんなのですから、『今週は79人になっちゃいました』と笑い話にする手もあったと思いますが、テレビ業界にはそれをよしとしない空気がまだまだあるのかもしれません。『テレビならやって当然』という気負いや、『これくらいならOKだろう』というズルさがあったように見えますし、もっとYouTuberのようなぶっちゃけ目線があってもいいのではないでしょうか。視聴者に正直な番組は支持されやすいですし、『次は何人集まるのか?』『今度こそドタキャン0を達成せよ』と盛り上がる可能性もあるでしょう」

もう1つネット上で盛り上がっていたのは、「そもそもエキストラを手配するのはいけないのか?」という議論。確かに、エキストラも同じ一般人なら問題はないようにも見えるが…。

「エキストラ自体はテレビに限らず、他の業界でも使用されるものですし、金銭的な意図などもないようなので、何の問題もないと思われます。一般参加者とエキストラの違いは『オーディションを経ていない』ことだけであり、それもタレント出場者と同じ扱いというだけに過ぎないですから。ただ、エキストラにも解答権を与えておけば、こんな騒動にはならなかったでしょう。今回は『報酬をもらっていたであろうエキストラがBPOに報告する』という、ある種ルール違反に近い告発だったので、解答権を与えておかなかったことが悔やまれます」