“ヤバい奴らのヤバい飯を通してヤバい世界のリアルを見る”をテーマにした、異色のグルメ番組『ハイパーハードボイルドグルメリポート』(テレビ東京)。最新作が、4月1日(24:12~24:58)に放送されるのを前に、同番組の企画から取材・編集まですべてを手がけたテレビ東京の上出遼平ディレクターが執筆した“書籍版”が、3月19日に発売された。

そこで今回は、上出氏へのインタビューを敢行。書籍版の実現に至るまでのプロセスや、狙いとしたことなどについて、話を聞いた――。

  • 『ハイパーハードボイルドグルメリポート』演出・プロデューサーの上出遼平氏

    『ハイパーハードボイルドグルメリポート』演出・プロデューサーの上出遼平氏

■展開も布陣も「不思議」

――最初に書籍化の話があったとき、率直にどう思われましたか?

実は、元々「本にしたいな」と思ってはいたんですよ。取材したものが、全然放送に収まりきらなかったので。でも「書きたい」なんて言ったこともなかったのに、第1弾を放送してからすぐ朝日新聞出版の穴井(亮多)さんという、今回編集してくださった方が声をかけてくれて…。まさかこんなスピーディーに事が進むとは思わなくて、相当驚きましたね。でもこの本、人員が不思議なんですよ。

――どう不思議なんですか?

こういう書籍の専門家が、1人もいないんです。書いたのがバラエティのディレクターである僕だし、穴井さんは当時も今もコミックの編集。しかも装丁は、タイトルアニメを作ってくれた畳谷(哲也)さんっていう方なんですよ。だから、写真の入れ方とかが普通じゃないらしいんですよね。普通は16ページとかまとめてバコン!って入れるんですけど、間々にちょっとずつ入れていくのって贅沢で大変なことらしいんです。

――普通は折ごとに入れないといけない。

そうです。だから結構社内では物議を醸したらしいですよ(笑)

――コミック担当の方が書籍化を実現させられるというのは、風通しがいいですね。

たしかに。新聞社も横断して…しかも穴井さん、これが書籍デビューなんです。今29歳だったかな。僕が文章書くかどうかなんて最初はわからなかっただろうに、よく覚悟してそんな…。これ売れなかったらたぶん、ともに倒れていくことになると思うんですけど(笑)

■映像だとドライになってしまう

――本のスタイルは、最初から今回出版されたようなものを目指されていたんですか?

わりとそうかもしれません。こんなボリュームになるとは思わなかったんですけど、僕が日本を出て、何を見てどういうことを感じて帰ってきたのかを一緒に追いかけてもらえるようにしたいなと思ったら、この形しかなくて。それに番組同様、この本も結構ノンジャンルなところがあるんですよ。少なからずジャーナリズムの部分もあるし、冒険的な部分も結構ある。そういう意味でも、本当に“番組の完全版”みたいな感じになっていると思います。

――現地に赴くまでの過程なども描かれているので、番組を観た人はより立体的になっているのを感じられると思いますし、書籍で初めて触れる方もいろいろな角度から入って味わえる1冊だと感じました。

そう感じていただけたなら、とてもうれしいです。番組だと、やっぱり現場の“湿度”みたいなものが、どうしても伝えられない部分があって。映像って、結構ドライじゃないですか。どれだけウェットなものを撮っていても、やっぱり画面を挟むとどうしても匂いや湿度が失われてしまう気がしていて。アフリカとかって、本当にすごいんですよ。

――空気から、日本とは全然違うんですか?

そう。現場に降り立った瞬間のもわっとした感じとか。僕が「違う世界に来たな」と感じるのは、あの瞬間なんですよね。そういう肌感覚みたいなものを文字にすることで、読む方が少ない情報から能動的に入り込んでくれたら、その湿度までも一緒に感じてもらえるんじゃないかなと思ったんです。

あと、今おっしゃった現地に行くまでの過程ですけど、僕は旅の中ですごく葛藤しているんですよ。向かう時点では勢いで行っちゃうんですけど、赴いた先では葛藤に次ぐ葛藤で。

――どのような葛藤があるのでしょう?

「目の前で起こっていることをどう解釈したらいいのか?」とか、「それをどう番組にするべきなのか?」という葛藤ですね。それに、「この人たちを世間に晒すっていうのはどういう意味を持つのか?」という根源的な葛藤もあって。番組の中ではそこは限りなくゼロにしているんですけど、書籍ではそこまでちゃんと伝えられて、初めて完成するような気がしたんですよ。