日本の学校ではほとんど教えてくれない「お金」のはなし。欧米では小学校のうちから投資や金融について学ぶ機会があるといいます。「日本の学校でもお金の教育を取り入れてくれたらいいのに……」。そう話すのは、2児の母であり、ファイナンシャル・プランナーの竹谷希美子さん。

「学校が無理なら、ぜひご家庭で。お金について教えるなら子どもが12歳になるまでがおすすめです」。子どものうちに教育する必要性を力説する竹谷さんに、その理由をうかがいました。

前編では12歳までのお金教育をおすすめする理由を解説し、後編では竹谷さんの実体験をもとに、小学1年生からおすすめする「おこづかい制」の実践方法をお伝えします。


なぜ、12歳までがカギなのか

――早速ですが、12歳までにお金について学んだ方がいいと思われる理由は何ですか。

竹谷希美子さん(以下、竹谷さん):良くも悪くも、思春期に入る12歳頃までの子どもは、何の疑問も持たずに親の背中を見て育ちますよね。

親の言うことに素直に耳を傾けてくれるこの時期に、お金はどうやって生まれるかを知り、お金の使い方や管理方法を身につけておけば、社会に出てから大きな失敗をしなくて済む。親はその土台を作ってあげることができるんです。

――竹谷さん自身も2人の子どもたちが小学生のうちに教え始めたのですか?

竹谷さん:そうです。長女は小学校2年生から、長男は小学校1年生からでした。我が家では、お手伝いをしたらお駄賃がもらえる「アルバイト生」と、毎月決まった額のおこづかいがもらえる「正社員」の制度を導入していました。

――小学生のうちからアルバイトと正社員を経験できるんですね(笑)。

竹谷さん:そうなんですよ(笑)。子どもって、お金は自動的に増えるものだと思いがちなんです。ATMは魔法の機械だと。まずは「アルバイト生」として、お金は働かないともらえないものだということを学び、「正社員」になったら、次のおこづかいがもらえるまでの1カ月間、どうやってそのお金を自分でやりくりするのかを学びます。

長女は今社会人2年目ですが、大学を卒業するまで正社員を続けました。長男は今、大学生なので、社会人として送り出すまであと少しです。

――ズバリ、お金の教育とは何ですか。

竹谷さん:子どもたちに教えたのはこの4つです。

  1. お金は有限であること
  2. お金は労働の対価であること
  3. 使えるお金の予算立てをすること
  4. 次の給料日まで、予算内でやりくりすること

社会人になってからでは遅すぎる理由とは

――なるほど。1~4は社会人になると当然のことのように聞こえますが、大人になってから学ぶのでは遅すぎますか。

竹谷さん:マイナビニュースの読者は2~30代が多いとお聞きしていますが、これを読んでいる人のなかには「もっと早いうちからお金について教えてほしかった」と思っている人もいるのではないでしょうか。

社会に出て初めて、毎月の給料から税金や社会保険料が引かれることを知る。一人暮らしをしてみて初めて、思っていたよりずっと出費が多いことを知る。お金って簡単に貯金できないことを社会人になってようやく経験しますよね。

――たしかに。初めてのお金の経験が実践の場になっているわけですね。

竹谷さん:そうなんです。働いたらいくら稼げるのか、手元にいくら残るのか、何にいくら使えるのかという「収入と支出のバランス」を社会人になってからようやく経験する人ばかりです。

そうすると、失敗するのが怖いからただ貯金するだけになったり、給料よりもたくさんお金を使い込んでしまって借金ができたりする。うまく貯金ができないと、お金に振り回される大人になってしまいます。だからぜひ、子どものうちにたくさん失敗をさせてあげてください。

働いても働いてもお金が消えていく「借金」ループ

――失敗をさせるとは、具体的にはどういうことですか。

竹谷さん:例えば我が家の長男のエピソードですが、彼が高校生の時、自分で自転車を組み立てたいと親に借金をしました。借用書にサインをさせ、返済プランも立てました。もちろん利息もつけて(笑)。

実際に夏と冬にアルバイトをしましたが、返済がまだ終わらず次の冬もアルバイト。働いても働いても、給料がすべて返済に充てられる。どんなに働いても自分のお金にはならないという負のスパイラルに彼は気づいたんです。「あぁ、借金ってこういうことなのか」って。

――なるほど。それを大人になって経験していたら、日々の生活も圧迫することになりかねないですもんね。

竹谷さん:子どものころにお金で失敗しても命を落とすことはまずありませんが、大人になってから失敗すると、生活苦に陥らないとは限りません。

だから親が一緒にいるうちにたくさん失敗をさせて、お金を使いすぎてしまった時のひもじさや、借金をしたときの大変さを、身をもって経験させてあげてほしいんです。

日本の家庭の2大タブー、“性”と“お金”

――改めて考えると、お金について何も教わっていない子どもたちをいきなり社会に放り出すのは酷な話ですね。なぜ、日本ではお金の教育が遅れているのでしょうか。

竹谷さん:日本では、“性”と“お金”の話は親が避けたい2大テーマだと感じています。どこかでなんとなく学んでくれるだろうと。でも本当はそれって一番子どもたちに伝えないといけないことなんですよね。

お金について言えば、まず第一に、自信のない親が多い。「お金については自分もよく分からないから子どもにも教えられない」というケース。そして圧倒的に多いのが、お金に対する無関心です。

子どもが大学に進学する頃になってようやく学費の額を目の当たりにする親は少なくありません。学力があって合格はしても、経済的な理由で進学を諦めざるを得ない子どもたちが毎年何人かはいるんです。辛い話ですが。

――非正規雇用が増えてきたという変化も含めて、大人を取り巻く時代の変化は子どもたちに大きく影響します。収入と支出のバランスを知り、予算立てができるようになれば、どんな時代になっても生きる術にはなりそうですね。

竹谷さん:日本経済の成長が見えない時代になり、国民一人ひとりが人生にかかるお金や老後資産を自分で守っていかなければいけない時代になりました。自分と子どもの時代は違うということも親は知っておく必要があります。

ただ、どんな時代になっても、収入と支出のバランスを知り、予算立てをするという方程式は変わりません。お金はいくら使ったかではなく、いくら使えるかが大事なんです。

これからはキャッシュレスが当たり前になるので、カードさえ出せば決済ができてしまう環境も心配ですよね。使いすぎないように、小さいうちからお金の経験をすることはより重要になると思います。

「クレジットスコア」についてもひとこと言及しておきたいのですが……。

クレジットスコアの到来!? 就職にも影響

――クレジットスコアとは、日本で言う「信用スコア」のようなものですか。

竹谷さん:はい。日本ではまだ浸透していない「クレジットスコア」ですが、いい大学を出てもスコアが低かったために就職を断られるという事例がすでにアメリカにはあるという記事を読みました。

簡単に言うと「お金の面でその人がどれくらい信用できるのか」を数値化したものですが、アメリカではクレジットカードの支払い履歴や住宅ローンの返済、公共料金、家賃などの個人利用に関わる履歴を集約し、スコアとして評価しています。

つまり、お金に関する信用度がその子の将来をも左右する。クレジットスコアが日本にも浸透すれば、ますますお金の使い方や管理は大切になります。

――ますます小さい頃からのお金の教育が大切になりそうですね。お金について教えるのは難しそうですが……

竹谷さん:そんなことはないので安心してください。誰もが経験したことのある「おこづかい制」のコツさえ知っておけば大丈夫です。

後編では、小学校1年生から始められる「おこづかい制」について詳しくお伝えするので、一緒に考えていきましょう。

取材協力:竹谷 希美子(たけや きみこ)

人生とお金をデザインする会社 SAKU株式会社代表/お金教育専門家
SPITZを聴き続けるファイナンシャル・プランナー

女性のアイデアと発想力を活かして、マネー・金融専門の編集プロダクション業務を行う。小中高等学校や地方自治体、金融広報委員会(日銀)などでのパーソナル・ファイナンス教育の講演、大手企業向け社員研修を行う。
NHK情報番組あさイチ「子どものお金教育」に生出演、日本テレビnews everyに専門家として出演。
おもな著書『マンガでわかる!子どもにちゃんと伝わるお金の「しつけ」』(近代セールス社)、「一生お金に困らない子どもの育て方」(幻冬舎)、「PTAで大人気のお金教育メソッド 一生役立つお金のしつけ」(KADOKAWA)、「12歳までにかならず教えたいお金のこと」(かんき出版)、「夫婦で年収450万円でも子ども2人とマイホームを持つ方法」(大和書房)、「あと100万円ムダを減らす!お金見直しバイブル」(かんき出版)