メルセデス・ベンツ日本は7月4日、同社初の電気自動車(EV)「EQC」のプレス発表会を開催した。上野金太郎代表取締役社長は「EQC 400 4MATIC」を運転して会場に登場。ダイムラー本社からは開発責任者を務めたミヒャエル・ケルツ氏が駆けつけるなど、このクルマにかけるメルセデス・ベンツの期待の大きさがうかがえた。

  • メルセデス・ベンツ「EQC」の発表会

    発表会後のトークセッションには、スペシャルゲストとして日本中央競馬会(JRA)通算4,074勝(7月5日現在)の武豊騎手(右)が登場。同日から、メルセデス・ベンツのアンバサダーに就任した

オンライン販売は今後のラインアップ拡充を見据えた施策

現在、自動車業界ではクルマの電動化への対応が急務となっている。特に、厳しいCO2排出規制の実施が予定される欧州の各メーカーでは、この動きが顕著だ。もちろん、メルセデス・ベンツも例外ではない。

  • 「EQC」の前車軸にあるモーター

    「EQC」のパワートレインは前後のアクスル(車軸)に非同期モーターを2基搭載する(写真は前車軸のモーター)

今後は各メーカーによるシェア争いの過熱が予想されるが、このタイミングで「EQC」を日本に導入することになった経緯について上野社長は、「すでに欧州では発表させていただいておりますが、各国でのクルマの取り合いが激しくて、私どもでも確保するのにかなり苦労しておりました。ただ、1つの理由としては、『CHAdeMO』(チャデモ、EVの急速充電方法)の開発が日本特有のものなので、それにちょっと時間を要したことがあります」(上野社長)と語った。

  • メルセデス・ベンツの「EQC」

    「EQC」のボディサイズは全長4,761mm、全幅1,884mm、全高1,623mm、ホイールベース2,873mm

「EQC」の価格は「EQC 400 4MATIC」で1,080万円、特別仕様車の「EQC Edition 1886」で1,200万円。カテゴリーでいえば高級SUVだ。EVを販売する上で、日本市場は補助金などの面で優遇されているとはいいがたい状況だが、メルセデス・ベンツ日本はどのような戦略を描いているのだろうか。

この点について上野社長は、「通常のメルセデスの乗用車よりもサポートを手厚くし、付加価値を高めていきたいと思っています。既存のメルセデスオーナー様からはすでに、EVを自分のカープールに1台追加したいというお問い合わせもたくさんいただいております。新規でいきなりというとどうかと思う部分もありますが、他社さんで販売されている同価格帯のEVもそこそこ順調なので、ご購入の対象になるお客様を探していきたい」と展望を語った。

  • 充電中の「EQC」

    充電中の「EQC」

続けて上野社長は、「個人的には」と前置きした上で、「(1度のフル充電で)400キロ走るということで、クルマとしての機能は普通に果たせると思っています。私が自宅に所有しているクルマは年間で5,000キロくらいしか走りませんが、400キロ×12カ月で4,800キロになりますよね。EQCは乗った感じもパワフルで、メルセデス車の持つ機能は全て兼ね備えていると思います。であるならば、EV云々ではなく、普通のクルマとして購入を検討していただけるのではないでしょうか」との見方を示した。

  • メルセデス・ベンツの「EQC」

    存在感あふれる「EQC」のフロントマスク

「EQC」の導入に併せて、メルセデス・ベンツ日本では、このクルマの普及に向けた新たな施策に取り組む。その中から、2つを取り上げて紹介したい。

まずは販売方法。「EQC Edition 1886」は7月18日11時より、「Mercedes-Benz Online Store」(メルセデス・ベンツ オンラインストア)にて先着順でWeb商談予約の受け付けを開始するが、上野社長によれば、これは新しい時代の、新しいクルマの買い方の提案であるという。

「私どもは全国に215の拠点を持っていますが、『EQC Edition 1886』は台数が限られているため、フェアな配車ができません。しかし、地域を限定するということは、私が特に嫌ったことでした。どこに住んでいようと、EVには充電器があればどこでも乗れるはずなのに、東京だけとか、どこかだけで売るというのはフェアではありませんよね。また、今後、メルセデス・ベンツがEVの車種を増やしていくのに備えて、ラインアップを拡充していくための第1ステップとして、まずはオンラインで販売してみようという狙いもあります。その後、台数がある程度は安定してきたら、(販売店による)通常の売り方も併用していきたいと考えています」

次が、納車後1年間の充電が無料になる「Mercedes me Charge」だ。これは日本オリジナルのサービスで、納車時に車載される専用の充電カードを使用すれば、全国に約2万1,000基ある提携充電ネットワークを介し、「EQC」を無料で充電できるというもの。EVの普及には社会インフラの整備も課題に挙げられるが、外出先での充電の不安がなくなり、なおかつ無料で利用できることは、ユーザーに安心感とお得感を与えるはずだ。

  • メルセデス・ベンツ日本の上野金太郎社長

    充電カードを手に手厚いサポートを約束した上野社長

メルセデスオーナーから「待ちわびた」という声が聞かれているという「EQC」。高級電動SUVの今後の動向から目が離せない。

馬にも優しい? 武豊騎手が語る「EQC」

発表会の後、トークセッションにゲストとして登場した武豊騎手は、自らもメルセデス・ベンツを所有するオーナーだ。ブランドアンバサダーへの就任は、「かなり無理をいってお願いした」と上野社長は明かす。

  • 武豊騎手とメルセデス・ベンツ日本の上野社長

    武豊騎手(右)と上野社長

武騎手を起用した真意について上野社長は、「クルマというのは馬車から始まっていますし、『馬力』などの言葉もあります。シュトゥットガルトにあるメルセデス・ベンツミュージアムは馬の展示から始まるなど、私どもとの関連性も高い。新しいクルマを出したタイミングで、武さんにメルセデス・ベンツブランドとお客さまとの橋渡し的な役割をお願いできれば、面白いのではないか」と考えたそうだ。

メルセデスオーナーでもある武騎手は、ブランドアンバサダー就任を「大変、光栄なお話をいただいた」とした上で、「子どもの頃にスーパーカーブームがあり、もともとクルマ好きで、クルマに対する憧れも強かったんです。もう、20年以上も前になりますが、初めて自分がメルセデス・ベンツのオーナーになった時は嬉しかったですね。(当時購入したクルマの)キーを手にした時のことは今でも覚えています」と振り返った。

  • 「EQC」発表会に登場した武豊騎手

    「EQC」の印象について武騎手は、「普段、馬の近くまでクルマで行くことも多いのですが、エンジン音が大きいと馬を驚かせることがあります。静かなクルマの方が馬にも優しいので、非常に興味があります」と語った

武騎手は最後に「メルセデスのアンバサダーに選ばれたことで、さらに頑張りたいという気持ちが強くなりました。今後も皆さんから応援をいただければ」とコメント。発表会を締めくくった。

  • メルセデス・ベンツの「EQC」
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  • メルセデス・ベンツの「EQC」
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