秋ドラマの主要作がそろい、早くも「絶賛」と「酷評」、「高視聴率」と「低視聴率」の明暗がわかれはじめている。

初回の視聴率は、『相棒 season17』(テレビ朝日系)17.1%、『リーガルV~元弁護士・小鳥遊翔子~』(テレ朝系)15.0%、『SUIT/スーツ』(フジテレビ系)14.2%、『下町ロケット』(TBS系)13.9%、『科捜研の女』(テレ朝系)13.4%、『ドロ刑 -警視庁捜査三課-』(日本テレビ系)11.8%、『獣になれない私たち』(日テレ系)11.5%、『大恋愛~僕を忘れる君と』(TBS系)10.4%、『駐在刑事』(テレビ東京系)10.1%とプライムタイム(19~23時)に放送される約3分の2が2桁を突破した(すべてビデオリサーチ調べ・関東地区)。

幸先のいいスタートを切ったが、実績のあるシリーズ作を除けば賛否両論の作品が目立ち、2話で早くも1桁視聴率に沈んだものもある。ただ、録画視聴やネット視聴の多い現状、視聴率はデータの1つにすぎず、ドラマの面白さとは別問題。

秋ドラマで本当に質が高くて、今後期待できるのはどの作品なのか? 今期もドラマ解説者の木村隆志が、俳優名や視聴率など「業界のしがらみを無視」したガチンコで、2018年秋ドラマ17作の傾向とおすすめ作品を挙げていく。

2018年秋ドラマの主な傾向は、[1]刑事ドラマ、仕事ドラマ、恋愛ドラマの三つ巴 [2]女性脚本家の対照的な挑戦 の2つ。

傾向[1] 刑事ドラマ、仕事ドラマ、恋愛ドラマの三つ巴

  • 水谷豊、反町隆史

    『相棒』水谷豊(左)と反町隆史

今秋のラインナップは、「刑事ドラマ、仕事ドラマ、恋愛ドラマが4作ずつ」ときれいに色分けされた。

刑事ドラマは、『相棒』『科捜研の女』『駐在刑事』『ドロ刑』 仕事ドラマは、『SUIT/スーツ』『ハラスメントゲーム』『リーガルV』『下町ロケット』

恋愛ドラマは、『中学聖日記』『獣になれない私たち』『黄昏流星群』『大恋愛』

プライムタイムで放送されているその他の連ドラは、ヒューマン作『僕らは奇跡でできている』(フジ系)、落語群像劇『昭和元禄落語心中』(NHK)、ヤンキーコメディ『今日から俺は!!』(日テレ系)と超個性派の3作のみであり、やはり三つ巴ムード。

3ジャンルに分かれた理由は、スタッフサイドによる制作意図の差だろう。刑事ドラマは、「通常通り」であり「安定志向」。仕事ドラマは、「総力を結集」しての「大ヒット狙い」。恋愛ドラマは、「差別化」であり「原点回帰」。

  • 織田裕二、鈴木保奈美

    『SUIT/スーツ』織田裕二(左)と鈴木保奈美

事実、刑事ドラマには、『相棒』『科捜研の女』を筆頭に手堅く視聴率を狙えるものがそろい、仕事ドラマは、織田裕二、阿部寛、米倉涼子、唐沢寿明と大物俳優を迎えての大勝負。恋愛ドラマは、90年代を思わせる「教師と生徒」「不倫」「難病」などの強烈な設定が見られる。

連ドラ全体で見ると、「一時期のような刑事ドラマと医療ドラマばかり」という状態からは抜け出したものの、「ジャンルがバラければ視聴者の選択肢が広がる」というメリットは明白なだけに、嗜好の細分化が進む視聴者心理を踏まえても、まだまだ物足りない。

今秋に放送されていないジャンルでは、医療、学園、家族、ミステリー、サスペンス、時代劇、ファンタジーなどがあり、さらなる分化が求められている。

傾向[2] 女性脚本家の対照的な挑戦

  • 新垣結衣、松田龍平

    『獣になれない私たち』新垣結衣(左)と松田龍平

放送前における最大の話題作だったのは、『獣になれない私たち』で間違いないだろう。実際、『逃げるは恥だが役に立つ』以来の主演・新垣結衣&脚本・野木亜紀子のコンビには、「今最も視聴率と内容の両面で期待できる」と言われていた。

しかし、はじまってみると1話から賛否真っ二つで、視聴率も2話で8.5%と1桁転落。なかでも「見ていてしんどい」「脚本がよくない」など、野木に向けられる厳しい声は少なくない。

ただ、野木は今秋の連ドラで、「最も挑戦している脚本家」と言える。まず「出会ってすぐ恋に落ちる」「納得がいかないことに正論で反撃する」など“連ドラのお約束”を排除し、「気をつかって本音が言えない」という働く人々のリアルな姿に特化。公式サイトに「ラブかもしれないストーリー」と書かれているように、日常のリアルを貫くことで「あいまいでわかりにくいもの」「難しくて苦労が多いもの」を描こうとしている。

野木の狙いは、「シンプルでわかりやすい」ものばかり求められる連ドラへのアンチテーゼ。今秋もそのような作品がほとんどであり、彼女はそんな業界と視聴者に挑戦状を叩きつけているように見える。

  • 戸田恵梨香、ムロツヨシ

    『大恋愛』戸田恵梨香(左)とムロツヨシ

野木亜紀子が「今、最も勢いのある女性脚本家」なら、大石静は「最も実績を持つ女性脚本家」。年齢が2まわり離れている新旧のトップ脚本家だが、今秋は同じ恋愛ドラマで勝負することになった。

大石の手がける『大恋愛』は、野木の『獣になれない私たち』と真逆で、「シンプルでわかりやすい」を追求した作品。「格差」「難病」というわかりやすい2つのテーマを用意し、1話から「出会い→恋に落ちる→婚約破棄→病気発覚」とリアルを度外視したハイテンポで物語を動かしている。

大石ほどのベテランが「自由に書く、信念を貫く」のではなく、業界と視聴者のニーズを意識し、視聴率獲得を意識した作品を手掛けていることに驚かされた一方、トップに躍り出た野木が「視聴率獲得」ではなく、「自由に書く、信念を貫く」姿勢を見せているのが興味深い。

『獣になれない私たち』も『大恋愛』もオリジナル作だけに、どんな結末を用意しているのか。現在は大石が「明」、野木が「暗」という状況だが、ともに最後まで期待していいだろう。


これらの傾向を踏まえた今クールのおすすめは、乱発される“婚活奮闘コメディ”とは一線を画す社会派ファンタジー『結婚相手は抽選で』(フジ系東海テレビ)。荒唐無稽な設定から、さまざまな結婚観やその本質をシビアにあぶり出し、キャストの静かな熱演を引き出している。

その他のおすすめは、叙情的な映像美と熱を帯びた落語のダイナミズムが魅力の『昭和元禄落語心中』、ハジけた演出で「飯テロ」を進化させた『忘却のサチコ』(テレ東系)、橋部敦子&カンテレの繊細な人間ドラマ『僕らは奇跡でできている』、脚本・演出ともに丁寧に作り上げた深夜の意欲作『ブラックスキャンダル』(日テレ系読売テレビ)。

「視聴率や先入観だけで判断して見ない」というのはもったいないだけに、TVerや各局のオンデマンドなどで、チェックしてみてはいかがだろうか。

  • 結婚相手は抽選で

    『結婚相手は抽選で』左から佐津川愛美、大谷亮平、野村周平、高梨臨、若村麻由美

■おすすめ5作
No.1 結婚相手は抽選で(フジ系 土曜23時40分)
No.2 昭和元禄落語心中(NHK 金曜22時)
No.3 忘却のサチコ(テレ東系 金曜24時12分)
No.4 僕らは奇跡でできている(フジ系 火曜21時)
No.5 ブラックスキャンダル(日テレ系読売テレビ 木曜23時59分)

■著者プロフィール
木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。