22日放送の『サバイバル・ウェディング』(日本テレビ系)を最後に主な夏ドラマが終了。全話平均視聴率では、『義母と娘のブルース』(TBS系、以下『ぎぼむす』)の14.2%、『刑事7人』(テレビ朝日系)が11.8%、『遺留捜査』(テレビ朝日系)11.3%、『グッド・ドクター』(フジテレビ系)が11.2%、『絶対零度~未然犯罪潜入捜査~』(フジテレビ系)が10.6%、『ハゲタカ』(テレビ朝日系)が10.4%と、6作が2桁を超えるなど、春ドラマの4作を上回った(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。

本来、夏は長期休暇や大型イベントで在宅率が下がり、連続性のあるドラマには不利な時期だが、今年は猛暑の好影響をもたらしたのは間違いないだろう。ここ数年間、夏の時期は「作品のクオリティが高くても結果が出ない」という苦境が続いていたが、今年はドラマ業界にとってよい季節となった。

ここでは、「2~3章構成が定着か」「“2つの感動スイッチ”が新たなトレンドに」という2つのポイントから夏ドラマを検証し、全16作を振り返っていく。今回も「視聴率や俳優の人気は無視」のドラマ解説者・木村隆志がガチ解説する。

  • 義母と娘のブルース

    『義母と娘のブルース』

ポイント1:2~3章構成が定着か

今夏は、制作サイドが明快に物語を分割した作品が多かった。

『ぎぼむす』は、亜希子(綾瀬はるか)、良一(竹野内豊)、みゆき(横溝菜帆)の親子3人を描いた1~5話を1章、良一亡き後の亜希子とみゆきに麦田(佐藤健)を絡めた6~10話を2章として放送。

『高嶺の花』(日本テレビ系)は、もも(石原さとみ)が直人(峯田和伸)との結婚式から逃げ出した6話で1章が終わり、再び結ばれるまでの7~10話を2章に。

『絶対零度』は、法で裁けなかった犯罪者を抹殺する“仕置き人”が仲間の田村(平田満)であるとわかり、命を絶った6話で1章が終了し、7~10話の2章では桜木(上戸彩)の死に関する事件を中心に描いた。

『ハゲタカ』は、「日光みやびホテル」の買収を描いた1~3話を1章、「あけぼの」の買収を描いた4~6話を2章、「帝都重工」の買収を描いた7~8話を最終章。

『この世界の片隅に』(TBS系)は、すず(松本穂香)と周作(松坂桃李)の出会いと戦時中の生活を描いた1~5話を1章、戦況が悪化し、すずが重傷を負う6~7話を2章、戦争の終結後を描いた8~9話を最終章。

  • ハゲタカ

    『ハゲタカ』

その狙いは、「第1章終了」「第2章スタート」とハッキリ打ち出すことで、クライマックスとスタートを2度ずつ作り、視聴者とメディアの注目度を上げたいから。いずれも最後まで視聴者を引きつけることに成功し、『ぎぼむす』『高嶺の花』は最高視聴率でフィニッシュを飾るなど成果を残した。

この傾向が顕著になったのは、ちょうど5年前の夏以降。1~2章に分けて描いた『半沢直樹』が大ヒットし、『ルーズヴェルト・ゲーム』『下町ロケット』『小さな巨人』(すべてTBS系)など「日曜劇場」の作品が次々に成功したことで、その傾向が他局に及び、ついに定番化しつつある。同様の理由でラスト2~3話を「最終章」と題打つ作品も多いこともあり、この傾向はさらに強くなっていくだろう。

ポイント2:“2つの感動スイッチ”が新たなトレンドに

今夏、最も視聴者の反響が大きかったのは、『ぎぼむす』『グッド・ドクター』の2作。毎週の放送前後でネット記事が量産され、SNSのコメントが絶えず飛び交っていた。

この2作の共通点は、制作サイドが“2つの感動スイッチ”を設定したこと。『ぎぼむす』は、「ともに幼くして両親を亡くした義母と娘」が、「血のつながりを超えて愛情を育む」。『グッド・ドクター』は、「コミュニケーションに難があるサヴァン症候群のピュアな主人公」が、「いたいけな子どもの命を救う」。

  • グッド・ドクター

    『グッド・ドクター』

それぞれスタートの段階から視聴者の琴線に触れる、2つの“感動スイッチ”を用意していたのだ。その結果、純粋でひたむきな主人公に視聴者は共感し、反響が大きくなっていったのだが、そもそもこのような“感動スイッチ”は諸刃の剣。見方によっては「狙いすぎ」「あざとい」と言われるリスクも高いのだが、今回の結果を見ると、「現在の視聴者はそれくらいわかりやすく感動させてほしい」ということなのかもしれない。

両作は、ただ泣かせるのではなく、笑い泣きできる癒し度の高い作品だったことを踏まえると、「人が殺されるシリアスな事件モノばかりはつらい」という心境なのか。それとも、酷暑が続く中、一服の清涼剤がほしかったのか。いずれにしても両作の成功で、来年は“2つの感動スイッチ”を備えた作品が増えるだろう。


上記を踏まえた上で、春ドラマの最優秀作品に挙げたいのは、『透明なゆりかご』。民放では扱い切れないほどの重いテーマを真っ向から描き、若き主演女優のみずみずしさと、希望を感じさせる映像美や音楽でバランスを取っていた。

「脚本・演出・演技の質」という意味では、『dele』も遜色なし。準備期間、制作体制、制作陣それぞれのこだわり……すべてが採算度外視と思わせるほどの仕上がりだった。

その他では、4コマ漫画の原作を見事な脚色で感動作に仕上げた『義母と娘のブルース』。ただ、原作の半分しか描かなかったのは、やや消化不良。原作では後半の物語も感動的だけに、近未来の続編に期待したい。

主演男優では、徐々に心の距離が近づく新タイプのバディを演じ、アクションでも魅せた山田孝之と菅田将暉。主演女優では、16歳の今しか出せない感受性の強さと成長を作品全般に散りばめた清原果耶。助演では、作品に落ち着きと温かみを添えた竹野内豊と、繊細なアプローチで主人公の魅力を引き立てた上野樹里。また、『透明なゆりかご』では今後が楽しみな若手女優が懸命の役作りで奮闘した。

  • 【最優秀作品】『透明なゆりかご』 次点-『dele』『ぎぼむす』
  • 【最優秀脚本】『dele』 次点-『ぎぼむす』
  • 【最優秀演出】『透明なゆりかご』 次点-『dele』
  • 【最優秀主演男優】山田孝之、菅田将暉(『dele』) 次点-山崎賢人(『グッド・ドクター』)
  • 【最優秀主演女優】清原果耶(『透明なゆりかご』) 次点-綾瀬はるか(『ぎぼむす』)
  • 【最優秀助演男優】竹野内豊(『義母と娘のブルース』) 次点-池内博之(『ハゲタカ』)
  • 【最優秀助演女優】上野樹里(『グッド・ドクター』) 次点-尾野真千子(『この世界の片隅に』)
  • 【優秀若手俳優】蒔田彩珠(『透明なゆりかご』) モトーラ世理奈(『透明なゆりかご』)