26日放送の『花のち晴れ ~花男Next Season~』(TBS系)を最後に主な春ドラマが終了。全話平均視聴率では、『ブラックペアン』(TBS系)の14.3%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)がトップを獲得し、『特捜9』『未解決の女 警視庁文書捜査官』『警視庁・捜査一課長』(テレビ朝日系)が2桁視聴率を記録した以外は、すべて1桁に終わった。

ここでは「最終話の脚本・演出に強いこだわり」「低視聴率ドラマをめぐるポジティブな異変」という2つのポイントから春ドラマを検証し、全18作を振り返っていく。今回も「視聴率や俳優の人気は無視」のドラマ解説者・木村隆志がガチ解説する。

  • ブラックペアン

    『ブラックペアン』に出演した竹内涼真(左)と加藤綾子

ポイント1:最終話の脚本・演出に強いこだわり

今春の作品は、いつも以上に最終話で作り手のこだわりが見られた。

『警視庁・捜査一課長』は、もともと『土曜ワイド劇場』でスタートしただけに、原点の2時間ドラマで完結。『未解決の女』は、最終話で同作とコラボ。ヒロインたちの上司として、大岩純一捜査一課長(内藤剛志)が登場してテレビ朝日系刑事ドラマの団結力を見せ、フィナーレに華を添えた。

フジテレビ系の作品は、さらに作り手のこだわりがたっぷり。『コンフィデンスマンJP』は、一話前を事実上の最終話にして映画化を発表し、最後は“エピソード0”的な物語を放送。『モンテ・クリスト伯 -華麗なる復讐-』は、異例の1時間前倒しによる2時間スペシャル。『シグナル 長期未解決事件捜査班』は、視聴者から「どういうこと?」「意味がわからない」という声があがるほど、難解かつ曖昧な結末をあえて選択した。

  • コンフィデンスマンJP

    『コンフィデンスマンJP』

  • おっさんずラブ

    『おっさんずラブ』

一方、『崖っぷちホテル』は、「ほぼすべてのキャストが涙を流しながら感謝を語る」という『3年B組金八先生』(TBS系)を思い起こさせるエンディング。そして、日本テレビ系お得意の「続きはHuluで」。最終話で完結させつつも、まるでロスタイムのような続きのストーリーを制作し、ビジネスにつなげている。

また、『やけに弁の立つ弁護士が学校でほえる』(NHK)の最終話は5月26日(全6話)、『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)の最終話は6月2日(全7話)と超早期の終了。いたずらに物語を引っ張らない潔さ、あるいは消極策を感じさせ、惜しまれながら幕を閉じた。

ちなみに、今期の最高視聴率は『ブラックペアン』最終話の18.6%。中盤までワンパターンな展開で賛否両論だったが、終盤にメインテーマである「ブラックペアンの謎」にグッと迫り、リアルタイム視聴をうながした。

TBS系の最終話は、『あなたには帰る家がある』が22日、『ブラックペアン』が24日、『花のち晴れ』が26日と、すべて最終月の下旬だった。近年、各局とも強力な特番(裏番組)との争いに巻き込まれないために、「最終話は上旬~中旬に放送する」のがセオリー。それだけに今春のTBSは、「いかに自信を持って下旬まで放送していたか」がわかる。

ポイント2:低視聴率ドラマをめぐるポジティブな異変

今春、話題の中心となり、最も熱狂的なファンを集めたのは『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)で間違いないだろう。ハッシュタグが世界トレンド1位を獲得したほか、見逃し配信はテレ朝史上最高を記録。最終7話の翌週には、ツイッター上で“架空の8話実況”が飛び交い、脚本家を手掛けた徳尾浩司も参加するなど、祭り状態となった。

架空の続編がツイッター上に飛び交ったもう1つの作品は、『モンテ・クリスト伯』。「余韻と謎を残すラストシーン」は批判の声があがりやすいものだが、多くの視聴者が解釈を共有するようなコメントを書き込むなど、大半が好意的な声だった。翌週になっても「モンクリロス」「今期ナンバーワン」「フジを見直した」などの声がやまなかったのも印象深い。

『おっさんずラブ』は全話平均視聴率3.9%、『モンテ・クリスト伯』は全話平均視聴率6.2%。つまり、視聴率では最低ランクなのだが、視聴者の熱狂度では、他作を圧倒していた。『おっさんずラブ』のグッズや、主演・田中圭の関連商品がバカ売れしていることも、それを象徴している。

  • ヘッドハンター

    『ヘッドハンター』

また、視聴率ではプライムタイムで断トツ最下位となる前話平均3.5%に沈んだ『ヘッドハンター』(テレビ東京系)も、ドラマフリークを中心に称賛の声は少なくなかった。同作を放送する『ドラマBiz』は今春からの新規枠だけに、視聴習慣がなかったのだろう。

「熱の高い作品ほど、録画してじっくり見る」「話題性の高い作品ほど、ネット視聴が増える」のは、今や視聴者にとってのスタンダード。その点、『おっさんずラブ』と『モンテ・クリスト伯』は、連ドラらしい「大テーマを追いかける」形の物語だった。回を重ねるごとに視聴者の愛着が育まれ、熱狂度が増し、終盤には「小テーマを毎週解決していく」一話完結モノには、到底届かない大きさまでふくらんだ。

「視聴率を獲るなら刑事・医療の一話完結モノ」というテレビ局のスタンダードとは真逆だけに、今後はどう折り合いをつけていくのか、各局のバランス感覚が問われる。ともあれ、低視聴率の作品がここまで支持を集めたのは、テレビドラマの底力と言っていいだろう。

  • シグナル

    『シグナル』


上記を踏まえた上で、春ドラマの最優秀作品に挙げたいのは、『モンテ・クリスト伯』。中盤から終盤にかけて脚本・演出のクオリティは右肩上がり。視聴者の想像力を刺激し、感動と悲しさがこみあげるクライマックスは、近年の作品ではベストと思わせた。

『おっさんずラブ』は、企画とバランスの良さという点で、出色の仕上がり。決して出オチにならず、偏見を与えず、純愛を貫く展開は清々しくさえあった。

その他では、ひさびさにアニメのような自由なドラマ空間を創り上げた『コンフィデンスマンJP』、名うてのスタッフたちが中堅俳優たちの技量を引き出した『ヘッドハンター』(テレビ東京系)、一話完結ばかりの刑事モノに風穴を開けた『シグナル』を挙げておきたい。

主演男優では、クールな佇まいの中に怒りを宿す役作りが光ったディーン・フジオカと坂口健太郎。主演女優では、コメディエンヌとして突き抜けた長澤まさみと、今どきの学生を淡々と演じて演技の幅を広げた新川優愛。助演では、北村一輝、吉田鋼太郎、ユースケ・サンタマリア、稲森いずみ、山口紗弥加、木村多江らが、けれんみたっぷりの役柄に、ほどよいリアリティを宿らせた。

  • 【最優秀作品】『モンテ・クリスト伯』 次点-『おっさんずラブ』『ヘッドハンター』
  • 【最優秀脚本】『ヘッドハンター』 次点-『モンテ・クリスト伯』
  • 【最優秀演出】『モンテ・クリスト伯』 次点-『おっさんずラブ』
  • 【最優秀主演男優】ディーン・フジオカ(『モンテ・クリスト伯』) 次点-坂口健太郎(『シグナル』)
  • 【最優秀主演女優】長澤まさみ(『コンフィデンスマンJP』) 次点-新川優愛(『いつまでも白い羽根』)
  • 【最優秀助演男優】北村一輝(『シグナル』) 次点-吉田鋼太郎(『おっさんずラブ』)
  • 【最優秀助演女優】稲森いずみ(『モンテ・クリスト伯』) 次点-木村多江(『あなたには帰る家がある』)
  • 【優秀若手俳優】趣里(『ブラックペアン』) 白石聖(『Missデビル』)