多くの書類を扱うビジネスシーンでは、記名や署名を求められることが多々ありますが、みなさんは「記名」と「署名」に違いがあることをご存知でしょうか。そこで今回は、「記名」と「署名」の違いとともに、その法的効力について解説します。

■「記名」とは

「記名」とは、「自署(自分で自分の氏名を書き記す)以外の方法で氏名を記すこと」「他人が代わって氏名を記すこと」です。ビジネス関係の書類などでは、パソコンやゴム印などで予め印字されているのが一般的です。

■「署名」とは

「署名」とは、「自分で自分の氏名を書類などに書き記すこと。また、その書かれたもの」を意味し、「自署」とも言います。

■「記名」と「署名」の違い

「記名」と「署名」の違いは、自署か自署でないかということです。そのため、法的効力に差が生じます。本人の筆跡が残る「署名」の方が、「記名」よりも効力が上になります。

契約書に関する署名の効力については、商法第546条に以下の通り記されています。

第546条(契約書に関する義務)
1. 仲立人の仲介により当事者間で商行為が成立したときは、仲立人はすぐに各当事者の氏名または商号、契約の年月日、商行為の要領を記載した書類を作り署名し、各当事者に渡さなければならない。

2. 商行為が成立後すぐにそれを実行しなければならない場合をのぞき、仲立人は①の書類に各当事者の署名をもらい、相手方へその書類を渡さなければならない。

3. (1)と(2)の場合、当事者の一方が書類を受け取らないとき、または、書類に署名をしないときは、仲立人はすぐに当事者のもう一方にそのことを通知しなければならない。

つまり、契約書には「署名」が必要だということですから、「署名」さえあれば契約は成立し、「記名」のみでは成立しないことになります。

■記名・署名と「印鑑」の関係

記名と印鑑

記名だけでは契約は成立しませんが、これに印鑑をプラスすることで「署名」と同等の効力を得ることが可能です。商法第32条には、「商取引においては、記名押印をもって、署名に代えることができる」と記されています。つまり、「署名=記名+印鑑」ということです。契約書のみならず、見積書や請求書など、さまざまな書類が飛び交うビジネスシーンでは、毎回社長から署名をもらうのは難しい場合もあるでしょう。そんな時は、「記名」に印鑑を押してもらいましょう。なお、手形法および小切手法でも「署名=記名+印鑑」が認められています。

署名と印鑑

欧米をはじめとする多くの国では「サイン(署名)のみ」が一般的です。日本でも、前項で確認したとおり署名だけで契約は成立するのですが、未だ「署名だけでは不十分」という考え方が根強く、署名だけでは不安に思うのが現状です。そのため、日本のビジネスシーンでは、「署名に印鑑を押してもらう」というスタイルが一般的となっています。


今回は、「記名」と「署名」の違いについてご紹介しました。記名か署名か、印鑑は必要か。取引きが無効になってしまうことのないよう、書類の重要性や相手によって正しく選択するよう心がけましょう。