「十分」と「充分」の例文

ここからは具体的な使い分けを事例ごとに例文も交えてみていきましょう。

時間は「十分」?「充分」??

例えば、「時間はまだ十分あります」という表現を見て、あなたは「時間はまだ充分にある」と思いましたか? それとも「あと10分ある」と思いましたか? このように、一見しただけではわかりづらく誤解を招くような文脈になる場合には、「充分」を用いた方がよいでしょう。

ただし、公文書などで「充分」が使えない場合には、「時間は多分にあります」とするなどの工夫が必要です。

〇「時間はまだ充分ある」
△「時間はまだ十分ある」(間違いではないが、10分の時間があると勘違いしてしまう可能性がある)

注意は「十分」?「充分」??

「『じゅうぶん』に注意する」という表現の際は、「十分」と「充分」のどちらを使うべきでしょうか? 実はどちらを使っても間違いではないですが、ニュアンスが微妙に異なります。

「十分」が数値的・物理的にマックスな状態を意味することから、「十分に注意する」は「最大限の注意を払う」といったニュアンスになります。

一方の「充分」は精神的にマックスな状態を意味することから、「充分に注意する」は「(自分自身の考える範囲で)最大限の注意を払う」「完全とはいかないが、問題ない程度に注意する」といったニュアンスになります。

〇「十分に注意する」(最大限の注意を払う)
〇「充分に注意する」(問題ない程度に注意を払う)

幸福(幸せ)は「十分」?「充分」??

それでは幸福や幸せという概念は「十分」を使うべきなのでしょうか、それとも「充分」なのでしょうか。幸せは精神的なものですし、第三者からはわからない主観的なものであるため、「充分」の方がよいでしょう。

〇「私は充分に幸せだ」
〇「彼との結婚生活には充分な幸福を感じる」

気持ちは「十分」?「充分」??

他人がしてくれた親切に対し、「そのお気持ちだけでじゅうぶんです」といった言葉を日常的に使うケースも少なくないでしょう。この表現には「十分」と「充分」のどちらを使ったらいいでしょうか。

感謝の意を示している表現なので、精神的に満ち足りていることを示す「充分」の方がふさわしいでしょう。

〇「あなたのそのお気持ちだけで私は充分です」


今回は、「十分」と「充分」の違いについてお話ししました。意味や使い方に多少の違いはあるものの、実際には、そこまで厳密に使い分けされていないのが現状です。

とは言え、一つの文章の中で両者が入り混じって登場するのは好ましくありません。教科書や公文書では「十分」で統一されていることから、ビジネスシーンでも、基本的には「十分」のほうを使用した方がよいでしょう。