最近でこそ、「古い建物が好き」という人も珍しくありませんが、探すにしろ借りるにしろ、なかなかハードルは高いもの。そこで今回は、人気の「ヴィンテージマンション」の定義から、古い物件の魅力やメリット、そして探し方を紹介します。

  • 時が生み出す味わいがあるけれど決して不便ではない、そんな古い建物にどうやってめぐり合える?

    時が生み出す味わいがあるけれど決して不便ではない、そんな古い建物にどうやってめぐり合える?

人気の「ヴィンテージマンション」の定義とは?

ひと口に「古い物件」と言っても、高度経済成長期に建てられた超高級マンションや団地、さらには味わいある平屋や倉庫っぽい物件まで様々。新しい視点で不動産を発見・紹介しているサイト「東京R不動産」の中でも、根強い人気を誇っているのが「ヴィンテージマンション」です。

今ではかなり一般的な言葉になりましたが、そもそも「ヴィンテージマンション」の定義とはなんでしょう。明確な決まりはありませんが、東京R不動産では「主に1970年代に建てられた名建築というべき物件」をこう呼んでいます。

  • 文京区の閑静な住宅街に建つヴィンテージマンション「目白台ハウス」。こちらは少し古く、1960年代に建てられたもの

    文京区の閑静な住宅街に建つヴィンテージマンション「目白台ハウス」。こちらは少し古く、1960年代に建てられたもの

もちろん、それ以前に建てられた中にも、魅力的な物件は数多くあります。ただ、いくら雰囲気が良くても、断熱や水回りなどスペック的に今の暮らしとは合わないものが多くなってしまいます。渋くて味わいがあって、リノベーションすれば十分快適に住めるということになると、やはり70年代あたりが境目になるのです。

ちなみに70年代は、建築学的に言えば「モダニズム」全盛期。モダニズムを一言で説明するのはとても難しいのですが、装飾がなく直線的でシンプル。デザイン的にも、今の時代の好みにハマっている、くらいに考えておけばいいでしょう。

レトロとヴィンテージの違いは「特別感」

ヴィンテージマンションの具体的な物件名をあげると、「広尾ガーデンプラザ」や「代々木テラスアパートメント」、外国人向けの高級マンション「ホーマット」シリーズなど。

ただ、東京R不動産以外のサイトを見てみると、レトロな物件なら何でも「ヴィンテージ」と呼んでいるケースもあります。もう少し突っ込んで定義するなら、「量産されていないアッパー向けの物件で、特別感のあるもの」がヴィンテージ、それ以外の「よく見かける古くて味わいのあるもの」がレトロとなるでしょうか。

この定義はあくまで私たちの考える主観的なもの。ですが、普段から古い建物を死ぬほど見ていると、「これは飛び抜けているな」というのが分かるようになるから不思議です。

せっかくなので、レトロなマンションとヴィンテージマンションを画像で比べてみましょう。私たちが言う「ヴィンテージ」感が、なんとなく理解できると思います。

  • 左がレトロなマンション、右がヴィンテージマンション

    左がレトロなマンション、右がヴィンテージマンション

かつて「団地は高嶺の花」と言われたように、住宅と言えば木造2階建てが当たり前の時代。こうした集合住宅は、当時の最先端の技術を結集して造られたものでした。

団地やマンションに住むこと自体がステータス。だからこそ、その建物に誇りや愛着を持っているし、お金をかけてしっかりメンテナンスもする。そこに暮らす人たちのコミュニティが建物を守っているので、単に古びていくのとは違うベクトルが生まれているとも言えます。

古い物件を「かっこいい」と感じる理由

さて、ここからはヴィンテージマンションに限らず、古い物件の様々な魅力について語っていきましょう。まず何といっても、古い物件には、新しい建物には絶対に出せない「味わい」がありますよね。

デザインはもちろんのこと、そうした独特な味わいをつくり出している要素のひとつとしてあげられるものに、「素材」の違いがあります。80年代の中盤になると、建築の世界にプラスチックなどの「新建材」が登場。それまでスチール製だったマンションの手すりがアルミになる、といった変化が起こりました。

  • ベランダのスチールの手すり、腰窓のサッシも味わい深い

    ベランダのスチールの手すり、腰窓のサッシも味わい深い

鉄の手すりは現地で一つひとつ職人が溶接しますが、アルミの手すりはただはめ込むだけ。もちろん、後者の方が効率はいいのですが、人の手が入っているかどうかの違いは大きいもの。例えば、鉄は時間が経つと錆びるけれど、それがいい味を出してくれるように。

環境、家賃……その他のメリットもたくさん

東京R不動産のメンバーがよく言うのは、不動産は「陣取りゲーム」で「早いもの勝ち」だということ。となると、昔に建てられた物件の方が当然いい場所を取っているということになります。

よく街を眺めていると、ありえない場所に、古いマンションがポコッと建っていることに気付きます。便利な駅前なのにゆったりした敷地だったり、庭園の周りをマンションが囲んでいて眺望や借景がすばらしかったり。それは、容積率(延床面積の敷地面積に対する割合)をはじめ、現在の規制がなかった時代から、そこに建っていたから。

  • 旧古河庭園の真横に建つ「古河ガーデンマンション」。環境や眺望がすばらしい

    旧古河庭園の真横に建つ「古河ガーデンマンション」。環境や眺望がすばらしい

そう、古い物件は立地や環境がいいケースが多いのです。さらに物件の賃料は、基本的に築年数が経てば経つほど下がっていくもの。古いというだけで嫌がる人は一定数いるので、家賃も抑えめになると言えます。

自分好みの古い物件を見つけるのは難しい?

最後に、古い物件の探し方を。みなさんも経験があると思いますが、不動産屋さんに行って、「家賃は◯万円くらいで」と伝えると、大抵は予算内で借りられる一番新しい物件を紹介されるはず。それは、古い物件は新しい物件に比べて、スペック的に劣っていることが多く、決まりづらいから。

また、以前の「『最高』の物件の探し方」「『オトク物件』と出会うには? でも書いた通り、一般向けの不動産サイトは、「とにかく新しいものがいい」という視点でつくられているため、古い物件だけに絞って探すのが難しいという現状もあります。

ヴィンテージマンションにしても、もう自分たちが住まないから貸したいとか売りたいといったオーナーは一定数いるものの、人気があるため一般の不動産屋にまで回ってこない。また、外観はかっこいいけど、内装は……というケースも多々。そういう意味では、自分好みの古い物件と出会うのは、なかなかハードルが高いかもしれません。

ステキな築古物件を探すなら、今が最後のチャンス!?

ちなみに東京R不動産の場合は、メンバーそれぞれが自分の好きな建物リストをつくって、そこが空くのを常に待っています。物件の文字情報を見ただけで、「このあたりで何階建てっていうと、あそこしかないよね」と、すぐに分かるくらい(笑)。古い団地が好きというマニアックな方には、「団地R不動産」もぜひ参考にしてみてください。

もし狙っている物件があるのなら、近くの不動産屋さんに飛び込んで「あそこが空いたら教えて!」と声をかけておくのもいいでしょう。古い物件には、今の物件には出せない味があるし、賃料的にもリーズナブル。なにより、手を入れながら暮らすのは楽しいもの。70年代に建てられた物件も、40年以上が経ち、ここ何年かで取り壊されるケースも増えています。古いステキな物件を探すなら、今が最後のチャンスかもしれませんよ。

東京R不動産

東京R不動産は、新しい視点で不動産を発見し、紹介していくサイトです。人はそれぞれに、違ったこだわりや好みを持っていると思います。一風変わった物件も、人によっては、それが宝物のような空間かもしれないのです。私たちは日々、そんな物件を膨大な不動産市場の中から丹念に探し出して、サイト上で皆さんに紹介していきます。普通の不動産紹介では拾いきれないような、物件の隠れた魅力を掘りおこします。このサイトは不動産のセレクトショップであり、同時に全く新しいタイプの不動産メディアなのです。

ライター: 井上健太郎

1976年東京生まれ。大学卒業後、単行本のプロデュース・編集を手がけるオフィス「ブルー・オレンジ・スタジアム」を経てフリーランスに。2012年、ステキ面白コンテンツカンパニー「リライトw(ダブリュー)」を共同で設立、役職はCEO(ChiefEditorial Officer)。現在、書籍、雑誌、ウェブ、広告、フリーマガジンなど、ジャンルを問わず日々編集&執筆中。これまで関わった書籍は、100冊以上150冊未満。