小田急の新宿~向ヶ丘遊園間は、おおむね東京都世田谷区と狛江市内を通っており、成城学園前を代表格に、戸建てを中心とする高級住宅街のイメージが強い。もともと東京都心に近く、開業時から人口も多かったため、駅も多めに設けられており、駅間の距離も短い。

  • 左:ダイヤ改正により、準急停車駅となる祖師ヶ谷大蔵駅。右:複々線の内側線を走り、祖師ヶ谷大蔵を通過する特急。準急は外側の線路を走ることになる

東京メトロ千代田線の沿線には、日比谷や大手町といったビジネス街があり、通勤目的地として、小田急沿線からの大きな直通需要がある。世田谷区や狛江市はもちろんだが、朝夕ラッシュ時には本厚木、町田方面からの直通も設定されている。

さらに、初めて地下鉄線内に乗り入れた特急ロマンスカーとして話題になった「メトロさがみ」などもある。ダイヤ改正後は「メトロモーニングウェイ」「メトロホームウェイ」などとして増発されるが、2008年に登場した際、同社の特急としては初めて、千代田線直通列車の一部が成城学園前に停車したのだ。大手町〜成城学園前間は特急で30分ほどしかかからないが、通勤定期券の発行区間、発行枚数などから勘案して、小田急は座席指定制特急への通勤客の需要をつかんでいたと見られる。

買い物客を取り込む施策

今回のダイヤ改正で設定された、平日日中、土休日の準急は、ラッシュ時以外でも、世田谷区などと千代田線沿線を行き来する大きな需要があることを示している。土休日に増発されることなど、ターゲットは住宅街から都内へ出かける買い物客であることが鮮明だ。

確かに、千代田線沿線には表参道、赤坂など、特に女性に人気があるエリアが連なる。大手町は近年、ショッピングゾーンとしても注目されている。さらに進んで、根津、千駄木は、谷中も含めて「谷根千」と呼ばれる人気観光エリアに成長した。

これらはいずれも、高級あるいはトラディショナルというイメージでくくることができるエリアだ。世田谷の住宅街との親和性は高い。それゆえの、今回の直通列車増強である。 今後、沿線住民の相対的な高齢化が進むことは明らかだ。しかし、東京都心に近いエリアは、若年層を中心に郊外からの回帰や人口の流入も見られるという。末永い利用客の獲得のため、遠方だけではなく、今回「足元」をも固める策を取ったと見ていいだろう。