天海祐希の演技に引き込まれた

審査したバイヤーは、ヨーロッパ最大の有料放送グループ、スカイ・ビジョンをはじめ、フランス、イタリア、ノルウェー、スウェーデンの公共放送局のほか、ドバイ、トルコなど中東やアジア地域も含む22人。

『緊急取調室』主演の天海祐希

審査員を代表するフランスのテレビ番組調査会社ウィット社のヴァージニア・ムスラー氏に現地で評価の理由を聞くと「ビートたけしのネームバリューはもちろん大きいけれど、歴史ドラマは今、世界の流通トレンド。時代の空気感も伝わった『破獄』の丁寧な描き方とその演出方法に評価が集まりました。奨励賞の『愛を乞うひと』も甲乙つけがたく、脚本の良さと出演者の演技が光った作品でした。私自身は『コード・ブルー』や『逃げ恥』も好きな作品でしたよ」と答えてくれた。

また、バイヤー歴15年になるスカイ・ビジョンのジュリアン・ローズ氏は「『破獄』と『愛を乞うひと』、『アキラとあきら』の3作品で迷いました。『破獄』はもっと見たいと思わせる作品。『愛を乞うひと』はよくプロデュースされていたし、『アキラとあきら』はストーリーに魅了されました。それから『緊急取調室』の主演女優(天海祐希)の演技がよく、引き込まれました。全体的にレベルが高く、登場人物がリアルに描かれ、脚本が良いものが多かったです。日本でヒットすることを前提に作られた作品も多かったですが、海外市場でも展開の可能性は十分にある作品がそろっていました」と評価していた。

「世界マーケットで売れるかも」というコメントも聞けたが、実際にはジャパニーズドラマを世界各地で流通させるのはなかなか厳しい現実もある。そんな中、2013年に同アワードでグランプリを受賞した坂元裕二脚本、松雪泰子×芦田愛菜による『Mother』(日テレ)が『ANNE(アンネ=トルコ語で母の意味)』というタイトルでリメイクされたトルコ版が現地で大ヒットを記録した。この成功を受けて、世界12カ国以上でトルコ版の放送が決定している。中東や南米を中心に、世界で人気のトルコドラマの波に乗ることができたというわけだ。

同じ坂元裕二脚本で、満島ひかり主演の『Woman』(日テレ)もトルコ版が作られ、この10月から放送開始されて好スタートを切っているという。この他にも、沢尻エリカ主演『1リットルの涙』(フジ)や、伊藤英明×木村佳乃の『僕のヤバイ妻』(カンテレ)も、トルコ版が予定されている。

ドラマ『Mother』『Woman』『母になる』を打ち出す日テレのブース

フジ大多常務、『テラハ』の評価に可能性

今年もカンヌに来場したフジテレビの大多亮常務に、ドラマリメイクをきっかけに可能性が広がりそうな日本のドラマの海外展開について意見を求めると、「トルコドラマがヒットしているのは受け入れる市場規模の大きさが要因としてある。それと比べて、アジア人だけでキャスティングされたドラマは狭いエリアのまま。まずはリメイクで成功し、ビジネスにしていくその先には(リメイクではなく)日本がプロデュースしたドラマが売れることも諦めていない。ドラマプロデューサーとして長年身を置いてきた立場からは、やはりそのまま見てもらいたいという思いが強い」と本音が聞けた。

そう思ったきっかけになったのが、Netflixオリジナルの『テラスハウス ALOHA STATE』だ。「それほど期待されていなかったテラハが結果、世界でも人気を集めて評価を得た。次のビジネスにもつながっています。欧米のような、会ったその日にキスするような展開とは真逆の、もどかしさに面白さを感じてもらったことに可能性を感じています。リアリティーショーを契機にフジテレビのドラマを世界にもっと売っていきたい」と意気込む。Netflixでは10月から『あいのり』も新作オリジナルで配信されている。

ワールドスクリーニングやバイヤーアワードを継続し、トルコでのリメイクヒットやNetflixオリジナルの事例などの積み重ねで、日本のドラマも世界ヒットにつながることも夢ではないはず。現場からそんな空気感が伝わってきた。

フジテレビの大多亮常務

■長谷川朋子(はせがわ・ともこ)
テレビ業界ジャーナリスト。1975年生まれ。2003年からテレビ、ラジオの放送業界誌記者として勤務し、仏カンヌのテレビ見本市・MIP現地取材歴は約10年。エンタメビジネス事情を得意分野に多数媒体で執筆中。