パワートレーン多様化時代、エコカーが続々と登場

かつて1990年代末の世界自動車大再編の引き金を引いたのが、独ダイムラーと米クライスラーの「大西洋をまたぐ合併劇」だった。その背景となったのは、21世紀の自動車の大テーマである環境対応だ。「究極のエコカー、FCV」の先行開発には莫大な投資が必要だが、単独企業では開発投資余力に限界がある。企業規模の拡大を求めて、ダイムラーとクライスラーは合併に踏み切った。

つまり、当時は水素を燃料とし、水しか排出しないFCVが、将来の究極のエコカーということで自動車各社が開発に向かったのである。

トヨタのFCV「ミライ」

しかし、その後十数年を経る中で、環境対応に向けては内燃機関のガソリン車・ディーゼル車がクリーン化・燃費向上へと進化し、HVおよびPHVは実用化へと進んだ。FCVの市販化に踏み切ったのはトヨタと本田技研工業だけだ。またEVは、三菱自動車の軽EVに続き、日産自動車のEV「リーフ」の市場投入など、ゼロ・エミッション車として展開された。

現状は「パワートレーン多様化時代」の様相を呈しており、日本国内市場ではトヨタHV戦略が初代プリウスの1997年末投入から十数年を経過し、主流化している。ただ、欧州では乗用車の5割を占めるディーゼル車が、クリーンディーゼルエンジンへと進化していまだ主流の座にある。

しかし、先の「パリ協定」発効に見られるように、世界の環境規制は厳しくなる。パリ協定では、すべての国・地域が二酸化炭素(CO2)などの温暖化ガスの排出を今世紀後半までに「実質ゼロ」にすることを目指す。

必然的に世界各国の環境規制も強まる。世界最大の自動車市場となった中国は、EVやPHVを「新エネルギー車」に指定し、台当たり補助金を支給。米カリフォルニア州の「ZEV規制法」では、2017年から発売する製品規制が厳しくなる。中国とカリフォルニアの規制では、HVがエコカーの範囲から外れる。これは世界的に波及していく流れでもある。

「脱エンジン」を目指す「トヨタ環境チャレンジ2050」

トヨタは、昨年10月に「トヨタ環境チャレンジ2050」を発表し、2050年の「脱エンジン」を宣言した。具体的には2050年にグローバル新車平均走行時CO2排出量を90%削減(2010年比)するというものだが、当面の主な取組み・目標としては、FCVの販売を2020年頃以降はグローバルで年間3万台以上にすると打ち出し、エコカーの本命はFCVという姿勢を鮮明にしていた。

つまり、将来のモビリティの棲み分けをEVは近距離用途、FCVは中長距離用途とし、EVは一充電で走行できる航続距離と充電時間の課題から用途限定の見方をしていた。ただ、FCVでは水素スタンドのインフラ整備の課題もあり、一長一短はある。電池が進化したことで、EVの航続距離も改善されつつある。

両者のメリット・デメリットを埋めるべくトヨタは、EV開発促進も含めた全方位を強める戦略に切り替えてきたのである。