変化の兆しを見せるトヨタ自動車のエコカー戦略。「究極のエコカー」と位置づける燃料電池車(FCV)に加え、電気自動車(EV)への取り組みも加速させるのではとの見方があったが、トヨタの出した答えは、計4名からなるEV開発の社内ベンチャーを設立することだった。ベンチャーであることもそうだが、そのスタッフの少なさにも驚かされた今回の発表。トヨタはEVベンチャーに何を期待するのだろうか。

EV戦略を一気に加速させるトヨタ

トヨタがEVの開発を担う社内ベンチャーを12月に立ち上げる。この新ベンチャーは、豊田自動織機、アイシン精機、デンソーのグループ企業とトヨタ本体から各1名ずつが選抜され、4名という少数精鋭部隊がトヨタのEV開発を推進することになる。

中間決算説明会に登壇したトヨタ代表取締役副社長の伊地知隆彦氏(画像)は、FCVが「エコカーの本命」としつつも、トヨタのエコカー戦略は全方位だと述べた

トヨタは、環境対応へのエコカー戦略として全方位での取組みを進めてきた。その中でハイブリッド車(HV)は先行優位の実績を確立。さらにプラグインハイブリッド車(PHV)からFCVの市販化も先行させ、FCVを「究極のエコカー」と捉えて重点的に開発を進めてきた流れがある。

しかし、EVに関しては近距離用途としての限定的な位置づけを強めてきたことで、開発に遅れを取っていた感がある。そのトヨタが、先の「パリ協定」(2020年以降の地球温暖化対策の国際ルール)による世界の環境規制強化の動きや、中国・欧米でのEV推進といった直近の流れに対応すべく、EV戦略を一気に加速させ、早期に商品投入する方針を打ち出してきた。

それにしても、トヨタがグローバル1,000万台体制に見合う新たな展開を見せる中で、EVでの社内ベンチャーを誕生させるという、従来のトヨタからの変革を促すような思い切った動きに出たことは、大いに注目されるものである。

主要グループ企業も巻き込むベンチャー組織

トヨタが12月からスタートさせるEV開発の社内ベンチャー組織「EV事業企画室」。その室長には、昨年12月に発売した4代目プリウスと今冬に発売する新型プリウスPHVで開発責任者(チーフエンジニア)を務めた豊島浩二氏が就任する。

豊島EV事業企画室長をトップとして、グループ中核企業であるデンソー、アイシン精機、豊田自動織機から1人ずつ出向する、4人体制での異色の社内ベンチャーとなる。直轄の社内ベンチャー設立にあたり豊田章男社長は、「EV分野のことだけを専門に考え、スピード感のある仕事の進め方を確立することで、トヨタやトヨタグループの仕事の進め方改革を牽引して欲しい」(豊田章男社長)とコメントしている。

HV主流戦略を確立し、PHVでも近く本格的な商品投入を予定するトヨタ。FCVではすでに「ミライ」の市販を始めているが、EVは多少、軽視していたきらいがある。しかし、ゼロ・エミッション車普及に向けた規制強化が急速に進んでいくことから、トヨタとしてもゼロ・エミッションの達成を目指し、FCVとEVを二本柱に据えてきた感がある。

そのためには、EVの早期商品投入を可能とする体制づくりが必要で、主要サプライヤーのグループ各社も巻き込むベンチャー発足に踏み切ったことになる。