押井守監督による『THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦 ディレクターズカット』が、10日10日より公開される。今年5月に公開された作品だが、今回のディレクターズカット版は先の公開版本編に27分におよぶ未公開映像が収録されている。だが実は、テレビアニメなら1話分の展開を構成できる映像が追加されていながら、ストーリーは全く変わっていない。

『THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦 ディレクターズカット』より

それ意味あるの? と思うアナタは、このインタビューで"ストーリーじゃない部分"の意味を考えてみると、今までと違った考え方で映画を楽しめるかも。逆に、長年の押井守ファンのみなさまには、お待たせしました。パト2の正統な続編が、ねちっこく斬り込んで回収しない押井節で楽しめる日が来ました。ディレクターズカット版の公開を前に、押井監督に映画について語っていただいた。ん、映画?

退屈なシーンがないと、本当に面白いシーンは味わえない

――ディレクターズカット版を拝見しましたが、編集としてはこちらがオリジナルだったのでしょうか。

押井守監督
撮影:伊藤圭

そうです。こちらのほうが先にあって、他に言いようがないのでディレクターズカット版となりましたが。切られたものと切られていないものがある。僕が切ったわけじゃない。

――切られたものが先に公開されたのはなぜでしょうか?

僕の口からはこちらが良いとしか言えないんですけど。監督になって35年目、30本くらい映画を作りました。日本の映画監督としては多い方です。そのうち半分がアニメーションで半分が実写という、これもたぶん他にいないと思うんだよね。アニメであっても実写であっても、色々なバージョンが作られることがあって、特に海外に行くとだいたい切られるんです。(人物の)名前が変わるのも珍しくないし、昔のアニメーションは3本を切り貼りして別の作品にするという、素材の扱いですよ。それが最近はなくなった。なぜかというと、海外にオタクが増えたから。オリジナルを最も尊重する人間は誰かといったらオタクなんです。

その意味で、僕は今まで作った映画にハサミが入らなかった。そういう人が僕の相当強力なお客さんだったから。口もうるさいけど、お金も使ってくれる。それがあったから、メーカーもハサミを入れようと思わなかった。言いたいことはいっぱいあったと思うけどね。何度もそういうことは言われましたから。あんたの映画はいいんだけど長い、ダレ場が多すぎて眠くなると。今回も例外じゃない。

僕は眠くなるシーンもアクションも両方好きだし、両方必要だと思ってる。アンパンみたいなものです。アンパンが食べたいのか、あんこが食べたいのかと。あんこを食べたいならあんこ玉を買えばいい。でもそれとアンパンをかじりたいという動機はたぶん違う。アンパンを食べると牛乳も欲しくなる。それらをセットにして、モノを食べたいという動機だし欲求なんです。

僕も子供の頃は、何であんこがこんなに少ないんだろうと思っていたけど、それは子供だから。最近のは極端にパン生地が薄かったりするけど、それは逆にパンに自信がないから。それではアンパンを食べたという満足感がない。映画も同じ。退屈なシーンがないと、本当に面白いシーンは味わえないんだよ。

――確かに、今回の方が押井監督の映画を観たという満足感がありました。

僕の映画を好きだという人は共通して、「耐えなきゃいけない」と。耐えるとより満足感が大きいというさ。それはみんなそうなんだよ、タルコフスキーほど極端じゃないにしても。あんこやクリームだけ味わっていたい人は、マイケル・ベイとかマーベルの映画を観ればいいんだよ。マーベルの映画がみんなそうだというわけじゃないけど。

映画をなぜ見るのかという理由は、自前で用意するしかない。お腹が空いたから何か食べたい。あんこを食べたいのかアンパンが食べたいのか。そこまでを一つの体験だと思っている人が、案外いない。ハンバーガーがなぜ成立するかというと、バンズと肉があるからで、肉が食べたいならメンチカツでも買えばいい。そうじゃなくて、ハンバーガーというものが食べたいわけでさ。それを食べるとポテトも欲しくなるしコーラも飲みたくなる。セットなんだよね。映画というものも同じで、体験としてセットでできている。それがある要素に特化しちゃうと、結果的にはマイナーな映画になる。