人気観光列車「ゆふいんの森」は博多駅~由布院駅・別府駅を結ぶ。今回は2015年7月に投入されたゆふいんの森の新車両で、由布院駅から博多方面へ1駅の豊後森駅まで旅をしてみることにした。なお、別府駅まで行く便は1日一往復のみで、現状、新車両は博多駅~由布院駅間で運用されている。

「ゆふいんの森」で由布院駅から豊後森駅までは大人1,690円。30分程度の旅ではあるが、その優雅さは別格だ

列車の中に"森"が広がる

新車両は4号車で、床はナラ材の板張り、シートも従来より優雅でシックなデザイン。車内の天井にもシートと同じ緑を配し、森の中にいるような空間を創り出している。ひじ掛けには福岡県大川市に伝わる技法「組子(くみこ)細工」が施されているのも美しい。

車内にはビュッフェがあり、駅弁やスイーツ、ドリンク、オリジナルグッズも売られているが、人気で行列も絶えない。購入する場合は乗車後すぐに行くといい。なお、由布院駅から豊後森駅間はゆふいんの森で30分。途中の停車駅はないのでご注意を。

森をイメージした内装に癒やしを感じる。ひじ掛けの組子細工にも注目だ

車内にはビュッフェがあり、駅弁やスイーツ、ドリンク、オリジナルグッズも売られている

豊後森駅から由布院駅への戻りに久大本線の普通列車を利用すれば、九重町の豊後中村駅など4つの駅に停車しながら30分ほどの鉄道の旅が楽しめる。行き帰りでそれぞれの旅を楽しむのもいいし、由布院には戻らず日田方面へ足を延ばすのもいいだろう。

緑あふれる沿線の景色

豊後森駅。小さな駅だが駅員さんが礼儀正しく、親切で気持ちいい。駅舎も新しくて快適だ

産業遺産は今、新しいまちづくりの場に

豊後森駅で下車しない場合は、豊後森駅のひとつ手前の恵良(えら)駅を過ぎたら進行方向左を注意していただきたい。ぜひここで見てもらいのが2012年国の登録有形文化財となった近代化産業遺産「旧豊後森機関車庫・転車台」である。由布院方面からは機関車庫は豊後森駅の手前にあり、機関車庫は車内や豊後森駅からも見え、豊後森駅で下車するなら徒歩3分ほどで機関車庫にたどり着ける。

機関車庫では、直径18.5mの転車台を半径47.84mの機関車庫が囲む

豊後森駅は昭和4年(1929)に開業、久留米駅~大分駅間を走る久大線は昭和9年(1934)全線開通し、同年に豊後森機関区(車両基地)が発足した。最盛期の昭和23年(1948)頃には豊後森機関区に車両25両・200人を超える職員がいたというが、蒸気機関車が姿を消すと、昭和46年(1971)に豊後森機関区は廃止された。

その後、地域住民により機関車庫・転車台の保存運動がおこり、2005年に玖珠町はJR九州から機関車庫を含む土地を買い取った。現在、玖珠町では機関庫を活用したまちづくりが行われている。玖珠町商工会では毎年10月機関庫まつりを開催しており、夜はライトアップされ、幽玄な姿を見ることもできる。

機関車庫・転車台の前にはSLが展示されている(見学無料)。毎年10月玖珠町商工会が開催する「機関庫まつり」では夜はライトアップされた姿を見ることもできる

機関庫が廃止された1971年から40年以上が過ぎ、鉄はさび窓の一部は破れ落ちているが、芝の鮮やかな緑と錆の赤、空の青が映る窓、日陰となった影、吹き渡る風が廃墟ロマンを掻き立てる。かつて栄えた機関区の姿に思いをはせつつ、無心になっていつまでも眺めていられる。

「或る列車」で長崎コースも

一方、8月8日より始まったJR由布院駅にも停車(下りのみの停車で乗降不可)する観光列車「或る列車」で、大分駅~日田駅を約2時間20分で走る大分コースを楽しむのもありだ。或る列車は大分コースのほか、佐世保駅~長崎駅間を走る長崎コースもある。しかし、大分・長崎コースともにJR九州の企画・実施分は、2016年3月まで発売と同時に全て売り切れとなっている。 とは言え、各ツアー会社の取り扱いもあるのでまずは各ホームページを確認していただきたい。

8月8日より運行を開始したJ観光列車「或る列車」はサービスもスゴい(写真提供: JR九州)

或る列車の基本プランにはスイーツコースが含まれており、料理は東京・南青山のレストラン「NARISAWA」のオーナーシェフ成澤由浩氏が監修している。コースはサンドイッチやサラダ、スープ、旬の食材をふんだんに使ったスイーツ3品とミニャルディーズ(お茶菓子)からなり、それにドリンクと乗車券がついて基本プランはひとり2万円からとなっている。ぜひ、新たな観光列車でスイーツの旅を楽しんでほしい。

※記事中の情報は2015年8月取材時のもの

筆者プロフィール: 水津陽子

フォーティR&C代表、経営コンサルタント。地域資源を生かした観光や地域ブランドづくり、地域活性化・まちづくりに関する講演、企画コンサルティング、調査研究、執筆等を行っている。著書に『日本人がだけが知らないニッポンの観光地』(日経BP社)等がある。