岐阜と聞いて何を思い描くだろうか。ホットな観光地といえば、年間28万人の訪日観光客が訪れる飛騨高山、温泉では奥飛騨や下呂だろう。とは言え、岐阜を訪れる観光入込客の48.9%は中部、29.2%は県内の客で、関東からは5.6%と極めて少ない。実のところ、岐阜市と名古屋市は電車で約20分のところにあるのだが、それを知る人もまた少ない。

金華山の頂上にある岐阜城からは岐阜市が一望できる。夏休み期間中は毎日、秋は土日祝「岐阜城パノラマ夜景」を楽しむことができる。西側には長良川にかかる橋や鵜飼舟の篝火も見える。画像提供:岐阜市

そんな岐阜市には長良川の鵜飼いで有名な長良川温泉があるが、これもちょっと若い世代にはシブ過ぎる。だが近年、この長良川温泉の人気と評価が高まっている。今回はその魅力を紹介しよう。

住民が立ち上がり、協定の下で町を再生

長良川温泉へはJR東海東海道本線「岐阜駅」からバスで20分ほど。信長ゆかりの岐阜城が建つ金華山の下を流れる長良川沿いには現在、7軒の温泉旅館・ホテルがある。そのエリアは古い町屋が建ち並ぶ川原町となっている。

鵜飼で有名な長良川の両岸には長良川温泉の7つの旅館・ホテルがある

川原町はかつて川湊として栄え、材木や美濃和紙の問屋などの商家町家群があった。しかし、少し前までここは車の交通量の多い道路で夜道は街灯もなく、空き家の増加が懸念される寂れた通りで、決して散策を楽しむような町ではなかった。

そんな中、2004年に川原町の住民が立ち上がり、住民同士で「川原町まちづくり協定」を締結。景観を生かした町づくりに取り組むとかつての美しい町並みが復活した。旧町家を生かしたカフェやレストランが開業するようになり、今では多くの市民や観光客が訪れる魅力的な場所に蘇っている。

信長ゆかりの岐阜城へ上がるロープウェイへは川原町から徒歩10分。画像提供:岐阜市

創業150年超の老舗旅館を起点に浴衣で町歩き

川原町と言えば、万延元年(1860)創業、150年を超える歴史を有す老舗旅館「十八楼」である。芭蕉ゆかりの宿としても知られ、近年は旅行新聞新社「プロが選ぶ旅館100選」入選と観光経済新聞社「人気温泉旅館ホテル250選」をダブル受賞するなど、その人気と評価は年々高まっている。

「十八楼」では無料の「川原町周辺ミニ散策ツアー」が人気。歴史案内人が約30分川原町を案内してくれる

十八楼の魅力のひとつとなっているのが散策ツアーだ。宿泊客を対象とした予約不要・無料のツアーで、毎日実施している。参加する人は17時ロビーに集まり、歴史案内人の案内で夕暮れの街へと出ていく。

川原町の目の前には金華山があり、山頂には岐阜城も見える。通りにはレトロな町家建築が立ち並び、案内人はその歴史や裏路地の楽しみ、蔵を改造したカフェや岐阜の伝統工芸を扱う店など、30分ほど川原町の魅力を紹介してくれる。参加者の女性には浴衣を着て散策する人も多い。

川原町の楽しさのひとつに裏路地散策がある。ここはツアーの後にゆっくり歩きたい

多様な温泉の後は名物・鮎雑炊を

もちろん、十八楼の魅力はこれだけではない。温泉と食でも魅せてくれる。温泉は朝夕男女入れ替え制で趣きの異なる温泉を楽しむことができる。長良川を眺め、せせらぎを聞きながら入る露天や薬草湯など、館内で湯巡りができるのもうれしいところ。

2階大浴場「川の瀬」の中に新設された展望蔵風呂「蔵の湯」は、材木問屋の蔵を大浴場として再生したもの。天井の梁は120年前のものだ。画像提供:十八楼

しかし、なんといっても一押しはこのためだけに十八楼に通いたいと思わせてくれる名物料理「鮎雑炊」だ。飛騨牛のしゃぶしゃぶや岐阜の味噌を使ったほうば焼など、ご当地食あふれる料理はどれも洗練され味わい深いが、とにかくこの鮎雑炊は絶品、ぜひ一度賞味いただきたい。

飛騨牛のしゃぶしゃぶと十八楼名物の鮎雑炊に舌鼓