京都が誇る酒処・伏見を歩いていると、とにかく清水が湧き出ている場所によく出合う。地元の人は毎日、お気に入りの場所へ容器をもってやってくるそうで、なかでも伏見の名水11選は人気が高く、大体いつも行列ができている。水と共に生きる伏見の時間がそこにある。そんな名水・名酒の伏見では、水にまつわる街歩きが楽しめる。

「御香宮神社」は古より伏見で最も水質がいいと評判

古より伏見で最良と知られる名水

まずは、近鉄京都線「桃山御陵前駅」、JR奈良線「桃山駅」すぐにある「御香宮神社」へ。平安時代に境内から清水が湧き出たと伝わる神社で、湧き出る水がとてつもなくいい香りを発して四方に漂ったことから、清和天皇から「御香宮」の名を賜ったとされている。

この清水「御香水」を飲むと病が癒えると評判で霊水信仰が厚く、豊臣秀吉や徳川家康、幕末の鳥羽伏見の戦いでは薩軍の屯所になるなど歴史の覇者から深く帰依されてきた。伏見の地で最も高い場所にある水源であることから、酒造りに欠かせない"生命の水"ともされている。

飲むと不調なところがすぐに治るという霊水信仰も

また、「御香水」に占紙を浮かべるとその日の運勢が現れる水占いも、人生の格言を与えてくれると評判で女性に人気だ。水はもちろん、御香宮神社そのものも桃山期の特色ある建築物で、特に表門や極彩色彫刻の本殿は重要文化財となっている。建築家・作庭家であった小堀遠州ゆかりの書院の庭も一見の価値ありだ。

川を往来する廻船の守護神の力が宿る名水

御香宮神社から歩いて15分程度、京阪京阪本線「中書島駅」そばの「東光山 長健寺」も名水地のひとつ。地元の人には"島の弁天さん"と親しまれている。長健寺は宇治川派流の濠川沿いにあり、1699年の伏見奉行建部内匠頭政宇が中書島開発の際、深草大亀谷の即成就院から塔頭多聞院を分離して創建された。

濠川沿いの情緒的な雰囲気のなかに突如現れる朱門も「東光山 長健寺」。どこか大陸的なエキゾチックさがユニークだ

脇仏はちょっと珍しい裸形弁財天なのでぜひ注目を。寺社仏閣が連立する京都でも御本尊が弁財天という寺はここしかない。長健寺の清水は「閼伽水」と呼ばれ、この水でお金を洗うと財宝がたまるという伝説があるとか。

また、密教十二天のひとつである水天尊も長健寺に祀られている。朱塗りの唐風山門を潜るだけで運気が広がると有名女性歌手が紹介したことから、パワースポットとして全国から参拝に来る人が後を絶えない。

●information
東光山 長健寺
住所: 京都府京都市伏見区東柳町511

酒どころ伏見らしいコクうまご当地ラーメン

最後はグルメスポットを。近鉄京都線「桃山御陵前駅」もしくは京阪京阪本線「伏見桃山駅」から徒歩5分程度のところにあるラーメン屋「玄屋」には、伏見ならではの名水・名酒を生かした「酒粕ラーメン」(780円)がある。

「玄屋」は黄色の提灯が目印

鶏ガラと豚骨のスープをベースに酒粕と醤油で味付けしたコクのある味わいは一度食べるとやみつきに。かなり多めにのせられた焼豚は酒粕スープが染み込んで、これだけで一杯いけそうだ。また、お揚げや大根の千切りといった個性的な具もおもしろい。麺は細く、硬さ調整は自由にオーダーできる。

コクがありながらまろやかな風味の「酒粕ラーメン」(780円)。酒粕効果を期待してか、女性の注文が多い

酒粕には便通、美容効果、コレステロール値を下げる効能があるとされているため、食べながら健康になれるかも。ちょっと刺激がほしい人は「辛み酒粕ラーメン」(830円)をどうぞ! 土日曜日ともなると行列必須なので、ちょっと余裕を持って訪れることをオススメしたい。

※記事中の情報・価格は2015年6月取材時のもの。価格は税込

筆者プロフィール: 金関亜紀

香川県生まれ。九州や山口で考古学に携わり、民俗学などに関心をもつ。東京の編集プロダクションや出版社勤務を経て、フリーランスに。現在、東京-香川を往復する生活を続ける。一年に地方や離島に出かける回数は30回以上。土地の食材や酒、祭りなどのフィールドワークを行っている。共著に『日本全国うまい焼酎虎の巻』(エイ文庫)がある。無類の酒好き。雑誌やネットなどでお酒のコラムをはじめ、離島の島ネタなどを執筆。現在は各地の居酒屋で旬の食材と地酒を求めて放浪。日本酒蔵、焼酎蔵などと蔵との繋がりあり。個人ブログ「ゴン麹 酔いどれ散歩千鳥足」で紹介中。