2010年の冬季五輪まであと1年。開催地となるバンクーバーは、今、どのような様子だろうか。豊富な自然を備え「世界一住みやすい街」と評されるバンクーバーと、もうひとつの開催地となるカナダ随一のスキーリゾート、ウィスラーの現況をレポートしよう。

海と山々に囲まれたバンクーバーの風景。都会的なビル群が豊かな自然と共存している

リノベーションで持続可能な五輪を目指す--バンクーバー

バンクーバーで開催されるのは、フィギュアスケート、アイスホッケー、スピードスケート、カーリング、フリースタイルスキー、スノーボードの6種目。メインとなる開会式・閉会式会場は、ダウンタウンにある屋内競技場「BCプレイス」だ。1983年の建築で、6万人を収容するカナディアンフットボールリーグのBCライオンズの本拠地でもある。冬季五輪では世界で初めて、開・閉会式が屋内で行われることとなる。

五輪関係者によると、今回の五輪には、3つのテーマがあるという。1つは持続可能性、もう1つはスポーツ選手が楽しめる環境づくり、そして最後は先住民族との調和だ。バンクーバーでは持続可能性についての取り組みが顕著に現れている。

1994年、IOCが五輪憲章の中で開催国への持続可能(サステナビリティ)な開発をうたうようになって以来、五輪における環境対策は必至となった。昨年の北京五輪でも環境にやさしい「グリーン五輪」がテーマのひとつとして掲げられ、大規模なソーラーシステムの採用など様々な取り組みが行われた。その一方で「鳥の巣」をはじめとする派手な建築物や派手な開閉会セレモニーが環境保全と相対するものである、という指摘があったのも事実だ。カナダといえば、もともと環境意識が高いことで知られる国。そのカナダが五輪を開催するにあたり選んだのが、できるだけ新たな施設を作らないという決断だった。

開会式・閉会式といえば、世界にテレビ中継される一大セレモニーだ。これまでの開催各国が国の威信をかけて大々的に取り組んできたことを思えば、このような年代物の会場で開催するのはある意味、英断といえるだろう。近年では天井が陥没するなど少々ガタがきていたこともあり、25周年の記念事業としてリノベーションを実施。総改築費21億円をかけて照明や換気装置を一新し、今後ペンキの塗り替えなども行われる予定だ。北京の「鳥の巣」の建築費が400億円以上といわれていることを考えれば、21億円のリノベーション費用はかわいいもの。しかも、五輪後はこれまで通りBCライオンズのホームとして、また展示会やコンサート会場としてフル活躍する予定だ。徹底してムダを省くバンクーバーの姿勢は、このBCプレイスに顕著に表れているといえるだろう。

開閉会式場となるBCプレイス。「バンクーバー市民に親しまれてきたこの会場が、五輪会場となることを誇りに思います」と、営業・イベントマネージャーのリン・シセルさん

フィギュアスケート、ショートトラックスピードスケートの会場となるパシフィック・コロシアム

会場の中。アイスホッケーのWHLバンクーバー・ジャイアンツの本拠地であり、五輪開催に向けて現在改修中。2月のフィギュアスケート・4大陸選手権も開催される

だが、すべてがリノベーションというわけではない。新築される施設は、将来の採算性のある必要最低限のものに限られる。そのひとつが、バンクーバーのお隣、リッチモンド市に建設された「リッチモンド・オーバル」。2月の国際大会でデビューする予定で、五輪ではスピードスケートの会場となる。取材時はまだ中には入れなかったが、内部はカナダの子どもたちも楽しめるような、天井一面に木材を使用したナチュラルテイストのリンクだ。近年、この辺りでは松喰い虫が流行したそうで、「リッチモンド・オーバル」では虫喰いの木材がデザインとして活用されている。虫食い木材もムダにしない、カナダスピリットがここにも垣間見えた。

建設工事中の「リッチモンド・オーバル」。木材の自然な色合いにブルーを合わせたシンプルなデザイン。五輪のロゴが掲げられていたが、まだ白地のままだった。入口のファサードにも、虫喰いらしい穴のあいた木材が見られた

バンクーバーの象徴、カナダプレイスに隣接する地に建設中の「バンクーバー・コンベンション&エキシビジョン・センター」は、五輪中、各国からのジャーナリストを迎えるメディアセンターとして利用される。屋上に緑が敷き詰められ、背後に見えるバンクーバーの象徴的な公園、スタンレーパークと一体化するデザインが取り入れられた。海水との温度差を利用した冷暖房システムや、屋根にたまった水を排水に利用するなどの環境対策を採用したグリーン・ビルディングだ。

メディアセンターとして使用される「バンクーバー・コンベンション&エキシビジョン・センター」