――後になりますけど、『機動戦士ガンダム』『うる星やつら』『風の谷のナウシカ』などいっぱいありますけれども、そういういちいち世界観を変えるっていう部分は、自分の中でどういうふうに切り替えてこられたんですか。

「意外に、こういうものが得意だからそればっかりやるっていうんじゃなくて、違うことにトライする気持ちがすごくあるんですよね。不得手なものでも『一応やってみるか』っていうところのトライ精神が、わりに自分なりにあるもんですから。そういうお話がくると『ああ、それもやってみたいな』っていうんで、首を突っ込んでしまうっていう。また、断れないタチなもので『やれる限りはやりましょう』っていう、そういうことですね(笑)。だから、自分がなんでもいいからトライできるものがあれば、もう体はきつくても構わないっていうぐらい好きで、今までやれてきてるんだろうと思うんです」

――後に『マッハGoGoGo』は、『Speed Racer』ということで、アメリカに輸出されて大ヒットしますね。アメリカ人が観たときに非常に違和感なく……というよりは、もっと言えば『クールだ』『かっこいい』というふうに受け止められているわけですが、ご自身の好みとしては、こういう背景が好きだっていうのはおありになりますか。

「どちらかというと、バタ臭いって言われるんですよね。要するにこう、あんまり繊細なところはなくて(笑)、あっけらかんとしてる絵がわりに。自分でもそういわれるとそうなんですが、意外にアメリカ風の描き方みたいなものをいつも資料で見てたもんですから、それで『自分の絵のスタイルを変えよう』とか、そういうことは思わずに今まできてますけれども」

『マッハGoGoGo』は、アメリカでも大人気
(C)タツノコプロ

――これまでに数え切れないほどの背景を描いてこられたと思うんですけれども、中学のときの憧れから始まって、今日まで中村さんを捕らえて放さない背景の魅力ってなんなんでしょう。

「そうですね。どんな世界でも描けるというか……要するに、宇宙も描かなければならないし、引き出しの中の消しゴムもその背景の中の表現の一つとして出てくるわけですよね。机の中を開けたら、その中にいっぱい入ってるものを背景で描かなきゃならないっていうのを表現するというおもしろさ。私にしてみれば非常に奥深いものがあって、そういう世界がすごく好きでやっているんです。ともかく、無限なものをいつも対応して描いていくっていう、そういうおもしろさがあると思いますね。あと、スタイルを変えたりですね。要するにデフォルメをしたり、リアルなものを描いたり……そういう、僕はなんでも対応できるような力を持つっていうことが、おもしろさにつながってくると思いますね」

――先ほど、「リアルな」とおっしゃいましたが、例えばそれはどういったものでしょう?

「今でいうリアルっていうのは、Production I.Gさんで作られてる、押井さんの『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』。要するにロケーションして、それをそのまま描いていくっていう。その世界になると、私はちょっとダメなんですけどね」

――やはり、リアリティを追求したレベルの高いものが、技術的にも難しいということなんでしょうか。

「難しいです。それは入ってすぐにできるもんじゃないですけれども、今の新しく入ってくる方は、最初からそれを観せられて描くもんですから、昔に新人で入ってきた人よりも、ものすごく対応力があるんですよね。それに対応できるものを踏まえて入ってくるっていうのは、すごいなと思います」