日本では新型コロナウイルスの感染拡大が小康状態で、企業の経済活動も再び活発化しそうな状況だ。しかし、世界では今年になり企業が注意すべき1つの大きな問題が浮上している。それが、人権デューデリジェンスだ。

人権デューデリジェンスという言葉はあまり聞き慣れないが、簡単に説明すると、「企業が経済活動を行う中で、取引先や社内における人権侵害リスクを把握・理解し、その軽減や予防に努める」ということだ。

これがなぜ今年になり、世界経済の中で強く意識されるようになったか。単刀直入に言うと、今年誕生した米国のバイデン政権が世界の人権問題を重視し、中国の新疆ウイグル人権問題が原因で米中対立がさらにエスカレートし、企業の経済活動に影響を及ぼしているからだ。

では、具体的にどんな影響が出ているのだろうか。

  • 米中対立は「ウイグル人権問題」でエスカレート

ウイグル族への人権侵害がきっかけ

今年3月、米国や英国など欧米諸国は、中国政府がウイグル族への人権侵害(強制労働や収容施設での訓練など)を続けているとして、その関係者たちへ一斉に制裁を発動した。

これが1つのきっかけとなり、欧米企業の間では人権問題への意識が強まり、スウェーデンのH&Mや米国のナイキなどは、「強制労働を強いられるウイグル人が栽培した綿花は安くて質が良くても、今後は使わない」との方針を明らかにした。

それによって、中国のネット上では一時「H&Mやナイキの製品を買うな」と不買運動が呼び掛けられたが、今日でも欧米企業のこのスタンスは大きく変わっていない。正に、儲かればそれでいいわけではないという欧米企業の社会的責任感を強く示す形となった。

そして、この問題は日本企業にも影響を及ぼしている。例えば、ファーストリテイリングが運営するユニクロは今年5月、筆者も愛用しているユニクロの男性用Tシャツが強制労働によって栽培されたウイグル産綿花で製造されているとして、今年初めから米国への輸入が差し止められていることが判明した。

また、3月、フランスの人権NGOはユニクロが新疆ウイグル自治区での人権侵害を知りながら綿花の調達を続けているとして、人道に対する罪を隠匿している疑いで刑事告発した。これは正に、人権デューデリジェンスが普及する中で日本企業の経済活動が制限される事例となった。

日本企業も意識が強まる

その後、ユニクロのケースが影響したのか、スポーツメーカーのミズノや食品メーカのーカゴメなどは新疆ウイグル産の綿花やトマトの使用を停止する方針を発表したが、その傾向は他の企業にも拡大しているようだ。

共同通信が9月下旬に報道したところによると、これまでウイグル産綿花を使用してきた日本企業18社のうち、13社が同綿花の調達見直しを検討していることが明らかになった。13社のうち3社は既に使用を停止、5社が今後中止、1社が一時的な停止、4社が使用量の縮小と回答したという。

ウイグルの人権問題がこれだけ世界的に認知され、欧米企業の中で「強制労働によって作られた品々を使用するなんてけしからん」とする意識が強くなれば、日本企業からも「脱ウイグル、人権重視」の意識が強まるのは当然であり、それは共同通信のアンケート結果にも表れている。

少なくともバイデン政権が続く限り、この傾向は今後も変わらないだろう。しかし、新疆ウイグル問題は企業が意識するべき人権デューデリジェンスの一問題に過ぎない。

今年2月のミャンマークーデターの際にビール大手のキリンが国軍関連企業との取引停止を発表したように、世界には多くの人権問題がある。

また、国連など人権課題を扱う機関の中には、日本で働く外国人への差別や労働環境などを懸念する声も少なくない。人権デューデリジェンス、日本企業は経済活動を行う中で今後さらにこれを意識していく必要がある。