近年、米中対立を巡って日本企業の間で懸念の声が高まるなか、日本の国会にあたる中国全国人民代表大会の常務委員会は6月11日、外国が中国に対して制裁を発動した際、中国が報復することを可能にする「反外国制裁法」を可決した。

同法は6月に入って常務委員会が可決に向けて審議を開始し、夏までに可決される予定だったが、今年のG7サミットの共同声明で中国が名指しで非難されたこともあり、異例のスピードで可決されることとなった。

  • 米中対立に懸念を持つ日本企業

反外国制裁法では、"中国が外国から不当な制裁や内政干渉を受けた場合、その関係者たちの国外追放や入国禁止、中国国内にある資産凍結、中国企業との取引中止などで対抗できる"と規定されている。

また、"外国政府による不当な制裁に第3国も追随すれば、中国はその第3国にも報復できる"と明記されている。では、なぜ日本企業の間では同法を巡って懸念の声が高まっているのだろうか。

バイデン政権による対中関係の変化

まず、現在の国際情勢がある。バイデン政権になって以降、米国と欧州との関係改善もあり、中国との関係が、「米中対立」から「米国を中心とする先進民主主義VS中国」の構図に変化している。

要は、バイデン政権は友好国や同盟国と協力しながら中国に対抗していきたいということで、当然米国の同盟、友好国である日本は何かしらの影響を受ける可能性が必然的に生じる。

一方、日本にとっては中国が依然として最大の貿易相手であることから、中国に展開する日本企業の間では貿易摩擦(輸出入制限や関税引き上げ、不買運動など)に巻き込まれることへの懸念が拡がっている。

ちなみに、2010年に尖閣諸島で起こった中国漁船衝突事件の際、中国は日本に対してレアアースの輸出制限に打って出たことがある。

また、これは反外国制裁法そのものに関係するが、"中国が不当な外国から制裁や内政干渉を受けた"場合とは何が該当するか、具体的に書かれていない。

要は、制裁や内政干渉にあたるかを決定するのはあくまでも中国側であり、何もよく分からないまま、突然報復措置を受ける恐れがあるのだ。

いつ、どこで、何が報復対象となるかがはっきりせず、例えば、欧米と中国との対立が激しくなっているなか、突然中国側が反外国制裁法に基づいて輸出入禁止の措置を講じてくる可能性もある。

日本政府の本音

さらに、"第3国への制裁も可能"と明記されていることがある。日本企業の間では、政治と経済は別物として考えたいという心理がどうしても働くが、第3国への制裁も可能と明記されていることは、それだけ経済摩擦が拡大する恐れがあることを意味する。

日本政府の本音は、"米国との関係が第一だが、経済的には中国との良好な関係も維持したい"であるが、バイデン政権がお友達と一緒に中国に対抗したいという中では、いつ日本が"第3国"になるかは考えておく必要があろう。

上述したように、何が"外国からの不当な制裁"や"第3国"になるかを決定するのはあくまでも習政権であり、それについて日本はどうしようもないのだ。現在の対立がこのまま続けば、"日本はやっぱり米国の味方だ"と中国側に判断される可能性は十分にある。

企業人も他人事と言えない

以上は、政治的な話である。しかし、政治的な話でもその影響を受けるのは経済アクター、要は企業である。若い世代の中では、軍事的な戦争は対岸の火事と思う人が大半だろう。確かに、米中の間で軍事的戦争に発展する可能性はかなり低い。

しかし、その分、争いの舞台は経済領域に変化している。最近は経済戦争という言葉も頻繁に聞かれるが、企業人は今回の反外国制裁法の行方を注視していく必要がある。