サラリーマンが投資で自分の資産を守るには、世界情勢を理解することは大切です。この連載では、世界情勢を専門の研究者・ジャーナリストとして活躍するイルカくんに、投資をするうえで必要な政治リスクやリスクマネジメントについて解説してもらいます。

  • トランプ大統領は強がる姿勢を崩さず

トランプ大統領から「大統領の風格」が消えた

やっと米国大統領選挙で勝敗が決まった。今回の選挙は稀に見る接戦となり、ジョー・バイデン氏が7,400万票、ドナルド・トランプ大統領が7,100万票を獲得し、前者に軍配が上がった。

副大統領となるカマラ・ハリス氏とともにデラウェア州で勝利宣言を行ったバイデン氏は、もう既に"大統領!"という風格だった。一方、トランプ大統領は趣味のゴルフを2日間続けるなど、世間の目から逃げ出したい感じだ。

自身は「まだ諦めない!」、「法廷で戦う!」などと強がる姿勢を見せているが、妻のメラニア氏や娘婿のジャレッド・クシュナー氏からは、「もういい加減にしなさい!」、「お父さん! もう負けを認めましょうよ!」みたいな感じで説得されているという。既にトランプ大統領からは「米国大統領の風格」は剥ぎ取られ、どこにでもいる頑固ジジーの様相しか見えない。

そのような中、バイデン氏は来年1月の政権発足に向けて既に動き出している。バイデン政権のビジョンや方向性、対日政策ではっきりしないことは多いが、今の段階で日本にはどんな影響が考えられるのだろうか。

トランプ大統領に悩んだ4年間

まず、金融や株価変動においてだが、トランプ政権時の4年間と比べて安定する可能性が高い。日本を含め国際社会は、トランプ大統領が次に何をするか分からないという不透明さに悩まされ続けてきた。

2017年、北朝鮮の金正恩氏を"ロケットマン"などと挑発し、本当に両国の戦争が始まるのか? と一時緊張が高まった。また、今年1月の米イラン危機によって株価変動は大きな影響を受けたことは記憶に新しい。そういったトランプ大統領の1つひとつの行動に、筆者を含めた投資家や株主たちはいつもヒヤヒヤしてきた。

また、米中貿易摩擦も大きな要因となったが、バイデン政権においては政治的理由で意図的な関税を突然掛けたりするケースはなくなるとみられ、我々の悩みの種は少なくなるだろう。

バイデン政権日本の関係

そして、平和と安全保障の問題だが、安倍元首相とトランプ大統領がゴルフ友達として仲が良かったことから、バイデン氏になって日米同盟が変わるのではないかと心配する声も聞こえる。だが、これについては心配する必要はあまりない。

今の菅首相は安倍路線を基本的に継承しており、バイデン氏とトランプ大統領は性格もビジョンも真反対のように見えるが、日本との関係を重視する姿勢は同じである。両者とも中国に対しては厳しく対応する姿勢で、日本との良好な関係を望んでいる。

また、トランプ大統領は日本に駐留する米軍の費用について、「もっと日本は費用を出せ」と圧力を掛けてきたが、バイデン氏がそのようなプレッシャーを掛けてくることはなさそうだ。

しかし、バイデン氏が勝利して新しい米国に移るとしても、トランプ政権下で激しくなった人種や宗教間の衝突、分断というものは簡単にはなくならない。

バイデン氏は「米国は世界と協力していく」と宣言しているが、混乱が続く国内事情の影響を受けて、日本との関係をうまく処理できなくなる可能性も否定はできないだろう。