マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、米大統領選挙について語っていただきます。


  • 最高裁の保守化は大統領選挙の行方にも影響を与える可能性が……

4年間で3人目の最高裁判事指名

米大統領選の投票日を8日後に控えた10月26日、上院はトランプ大統領が最高裁判事に指名したバレット氏を承認しました。その結果、最高裁判事の構成は保守6人、リベラル3人となり、保守に大きく傾くことになりました。バレット氏はトランプ政権の3人目の指名です。オバマ政権は8年間で2人指名、その前のブッシュ(ジュニア)政権の8年間でも2人指名だったので、トランプ政権4年で3人目というのはかなり高頻度と言えるでしょう。トランプ大統領は強運の持ち主なのでしょう。

最高裁保守化の影響

さて、最高裁の保守化によって影響が出そうなのが、オバマケア(ACA, Affordable Care Act)、人工中絶、人権などです。オバマケアに関して11月10日に議会で修正・廃止に向けた公聴会が予定されています。最高裁判事の構成変化がたちまちにして、国民皆保険を目指してオバマ政権下で成立したオバマケアに影響する可能性もあります。

そして、大統領選挙の行方にも影響を与える可能性があります。投票で敗れた陣営が結果を不服として法廷闘争に持ち込めば、その判断は最高裁に委ねられるからです。

2000年ブッシュ・ジュニアvsゴア

最高裁が大きな役割を果たしたのが、2000年ジョージ・ブッシュ・ジュニア(共和党)対アル・ゴア(民主党)の選挙です。両者の選挙人獲得数が拮抗したまま、最終決着はフロリダ州に持ち込まれました。投票日の翌日11月8日にブッシュ氏の勝利が発表されましたが、あまりに僅差だったため、州の規定に従ってゴア陣営が再集計を要求。

フロリダ州の選挙責任者であるハリス州務長官(共和党)は、再集計の途中ながら11月26日にブッシュ氏の勝利を認定しました。これに対してゴア陣営が再集計の再開を求めて訴訟を起こし、12月7日に州最高裁が再開を指示しました。

最高裁がブッシュ勝利を確定

しかし、今度はブッシュ陣営が連邦最高裁に再集計の差し止めを請求。選挙人を確定する期日にあたる12月12日、連邦最高裁は再集計を禁じるとともに11月26日のハリス州務長官のブッシュ勝利認定を確定させました。その結果、投票日から35日後の12月13日、ゴア氏は「最高裁判決に同意できないが、(国家を分断させないために)受け入れる」として敗北宣言をし、ブッシュ氏の勝利が確定しました。

結局、フロリダ州の得票数は、ブッシュ氏291万2,790票、ゴア氏291万2,253票。わずか537票、得票率では0.01%の差でした。同州の選挙人数(当時)は25人。最終的にブッシュ氏の獲得選挙人数は271人、ゴア氏は同267人だったので、わずか537票差がひっくり返っていれば、「ゴア大統領」が誕生するところでした。

バレット判事はどう行動するか

最高裁判事の任期は終身であり、いかにトランプ大統領に指名されたとはいえ、バレット判事(48歳)が自身の信条や信念を曲げてまでトランプ政権に有利な判断を下すとは考えにくいでしょう。それでも、同氏が承認されれば、最高裁判事の構成は保守に傾き、米国が抱える社会・経済的な問題に影響を与えるのは間違いなさそうです。

法廷詰め込み戦術

民主党が政権を取れば、最高裁判事の定員を増やしてリベラル派を送り込む「法廷に詰め込む(Pack the Court)」戦術をとるとの見方もあります。バイデン候補はトランプ大統領とのディベート(TV討論会)でそうした戦術を否定しませんでした。果たして事態はどう展開するでしょうか。