マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話します。今回は、米大統領選挙について語っていただきます。


第1回ディベートは非難の応酬!?

9月29日、大統領候補による1回目のディベート(TV討論)が行われました。約90分にわたって、コロナ対策、経済、人種差別、選挙の正当性、最高裁判事などのテーマについて、討論が行われました。

ただ、両者は、政策を議論したというよりも、お互いを激しく非難。バイデン氏はトランプ大統領を「歴史上最悪の大統領」と呼び、トランプ大統領はバイデンを「47年間、ワシントンで何もしなかった」と批判しました。

事前に予想されたことですが、とりわけトランプ大統領の発言には意図的な事実の歪曲やデタラメが散りばめられていました。また、バイデン氏や司会者の話を途中で遮ったり、時間をオーバーして話し続けたりするなど、相当に行儀が悪かったようです。

多くのメディアがディベートを「mess(酷かった)」と形容しました。司会者は鋭いインタビュアーとして定評があるだけに、その彼が手を焼いたことで残り2回のディベートも「mess」になる可能性が高そうです。あまりの混乱のため、2回目からは形式が変更になることが発表されました。

ディベートの勝者は?

ディベート直後に行われたCBSニュースの世論調査では、ディベートでバイデン氏が優勢だったとの回答は48%で、トランプ優勢の41%を上回りました(互角10%)。同じくCNNテレビの調査ではバイデン優勢60%、トランプ優勢28%、互角5%でした。

世論調査の支持率でリードしているバイデン氏にしてみれば、ディベートで大勝ちする必要はなく、致命的なミスを避ければ良いだけかもしれません。もっとも、投票日までまだ1カ月あります。事態がどのように変化するか、予断を許しません。

バイデン氏のリードが縮小?

Real Clear Politicsの集計によると、ディベート前の9月15-28日に実施された12の世論調査では、いずれもバイデン氏がトランプ氏を支持率でリードしています。ただ、リードの平均は6.1%で、7月下旬の10%前後から縮小しています。

大統領選の結果判明は

大統領選の結果は、早ければ投票日の深夜か翌日早朝(日本時間の4日昼過ぎ)に判明します。ただ、今回の選挙は「コロナ」の影響で郵便での投票が増えるため、開票結果の判明まで時間がかかるかもしれません。とりわけ、接戦となって残り1つないし数少ない州の結果によって決まるケースでは、1-2週間はどちらが勝利したのか判明しない可能性があります。

Bloombergによれば、ぺンシルべニア、ウィスコンシン、ミシガンなどの接戦州で開票結果の判明まで時間がかかりそうです。これらの州では郵便投票の開票を11月3日の午前7時(=投票所のオープン)まで行わないことになっています。また、ペンシルべニアは投票日の3日後まで郵便投票を受け付けるようです。

6月の予備選ではペンシルベニアの開票結果の判明まで3週間かかったとのこと。大統領選では投票数が2倍になると予想されており、様々な対策が取られるとしても、やはり時間がかかりそうです。

2000年の経験

2000年の大統領選、ブッシュ・ジュニア対ゴアのケースでは、フロリダの結果が確定してゴア氏が敗北を認めたのは12月13日、投票日から1カ月以上も後のことでした。フロリダで再集計によって両者の得票数が約500票の差まで接近。しかし、再集計に時間がかかったため、選挙の責任者である州務長官(共和党)が再集計の中止を決定。最高裁が再集計の中止を正当(合憲)と判断したことで、選挙結果が確定したのでした。

最悪のシナリオとは

大統領選の開票結果の判明が遅れれば、それだけ先行きの不透明感が高まり、金融市場は不安定になりそうです。ただ、最悪のシナリオとは、開票結果の判明が遅れることではなく、判明した結果を敗者が受け入れず、法廷闘争に持ち込もうとするケースでしょう。

その場合は不透明感が高まるだけでなく、米国の民主主義が根底から揺るがされることになりかねません。事実、トランプ大統領は1回目のディベートでも、依然として「郵便投票では不正が行われる」と主張、「最後は最高裁が判断する」としています。

トランプ大統領は故ギンズバーグ最高裁判事の後任に保守派のバレット氏を指名しました。上院の承認が得られれば、最高裁は保守派6人とリベラル派3人の構成となるので、トランプ陣営に有利な判断を下す可能性は否定できません。また、最終決定が下されるまで何カ月も正式な大統領が不在の状態が続くなら、一般市民にとっても、金融市場にとっても、悪夢でしかないでしょう。