たしか、1994年くらいだと記憶していますが、全員にパソコンが支給され、「メール」なるものを仕事で使い始めました。それまで、離れている相手とのコミュニケ-ションには、電話かfaxだけでしたが、新たに一つの強力なコミュニケーションツールが手に入ったのです。

(これは、いい時代になったぞ……)

メールだと、人とのコミュニケーションが簡単に始められます。たとえば電話だと、「いま、お時間よろしいでしょうか?」と同意を取ることがまず必要。

しかしメールは安心です。自分から発信しておけば、相手はどこかで必ず見てくれるのです。ということで、私のコミュニケーションは、どんどんメールに集中していきました。そして……徐々にトラブルが増えていったのです。

  • コミュニケーションが理由でトラブルになったことはありますか?(写真:マイナビニュース)

    コミュニケーションが理由でトラブルになったことはありますか?

メールは万能ではない

まず、送り相手から、いきなり激怒されたり、不機嫌になられたりすることが増えてきました。そして、30名にアンケートをメールしたら、期日に1通も戻ってこなかったのです。

なぜそんな不幸が自分に起きるのか? 当時の私は、「こんなに丁寧なメールなのに、なぜ怒るのか」「メールを打ったんだから、返すのが礼儀だろ!」とそのほとんどを相手のせいにしました。

しかし、メールは、私が思っていたような、万能のツールではなかったのです。まず、メールでは、「言語メッセージ」は届けられますが、「非言語メッセージ」は届けられません。

「申し訳ございません」と書いたからと言って、その人がどういう"気持ち"で言っているかまで、伝わる保証はないのです。「申し訳ございません」という言葉"だけ"だと、受け取り手が、「慇懃無礼だ」「開き直りだ」「形だけだ」と受け取ってしまうことも当然有りえるのです。

プライベートのメールやLINEなら、絵文字やスタンプで"気持ち"の部分も補えますが、ビジネスのメールではそれはできません。ちなみに、私はビジネスでも絵文字をOKにすれば良いと考えています。

メールの返信は必要?

また、私は「メールを送ったら、必ず見て、返信すべきだ」と信じていました。さて、その考えはどうでしょうか? 

「メール=eメール」とは何か、その正体を考えてみましょう。「Electronic mail」ですから、「電子郵便」、つまり、「電子で送れるようになった"郵便物"」のことです。つまりその本質は、手紙や年賀状、そしてダイレクトメールと同じ「郵便物」なのです。

では、郵便物は、送れば、必ず返事が来ることが保証されているものなのでしょうか? そんなことありませんよね。もし「そうだ」というなら、私は、マンションのポストに入ってくる不動産の売り込みチラシの担当者に、毎日返信しなければならなくなります。

コミュニケーションはツールを使い分ける

仕事ができる人は、「何を伝えるか」ということだけでなく、このメッセージは「どのツール」で相手に伝えるのが良いかを考え抜き、実行していました。

対面や電話であれば伝わったか、YesかNoか、相手の受け止め方をリアルタイムで確認しながら双方向のコミュニケーションができます。

逆に、対面は相手の「時間と空間」を拘束します。そして、電話は相手の時間を奪ったり、「言った、いや聞いてない」といったトラブルが起こったりします。

その点、メールは相手の空間と時間を拘束しません。そして記録に残るので安心です。しかし、対面はもちろん、電話でもある程度の「非言語メッセージ」がやりとりできますが、メールではできません。そして、既にご説明した通り、送ったからといって、必ず見て、返信してくれるものではないのです。

メールばかり、電話ばかり、会ってばかり、といった努力は、「しなくていい努力」です。それぞれのツールの強み、弱みを知った上で、相手と状況によって、その最高の組み合わせや使う順序を考え、実践することが大事だったのです。

執筆者プロフィール

堀田孝治(ほった・こうじ)
クリエイトJ株式会社代表取締役

1989年に味の素に入社。営業、マーケティング、"休職"、総務、人事、広告部マネージャーを経て2007年に企業研修講師として独立。2年目には170日/年の研修を行う人気講師になる。休職にまで至った20代の自分のような「しなくていい努力」を、これからの若手ビジネスパーソンがしないように、「7つの行動原則」を考案。オリジナルメソッドである「7つの行動原則」研修は大手企業を中心に多くの企業で採用され、現在ではのべ1万人以上が受講している。著書『入社3年目の心得』(総合法令出版)、『自分を仕事のプロフェッショナルに磨き上げる7つの行動原則』(総合法令出版)他。