「他の人と、同じことをやっても意味がない」
「自分ならではの個性をキャリアでも大事にしたい」

このように私は、「自分らしさ」や「個性」、「オリジナリティー」が大好きでした。逆に言えば、人と同じ、没個性のキャリアを積み重ねては危険だし、皆と同じでは良い評価もされず、人気のある本社マーケティング部門に異動するという希望もかなわないだろう、と考えていたのです。

そんな不安もあり、私は入社早々から「自分流」で勝負することを選択し、努力を開始しました。しかしこの努力も、「しなくていい努力」だったのです。

  • 人と違う仕事のやり方にとらわれていませんか?(写真:マイナビニュース)

    人と違う仕事のやり方にとらわれていませんか?

型を破った人だけが、「型破り」になれる

「型を守った人だけが、『型破り』になれる」
「型を守ったことのない自己流なんて、『型なし』である」

ある企業研修の冒頭に、総合商社の人事部長が若手社員に向けて伝えた言葉です。

日本には、古来から「守破離」という、実技力を高めるためのステップがあります。お茶の千利休が言ったとか、お能の世阿弥が言ったとか、諸説ありますが、芸事や武道はもちろん、いまではさまざまなスポーツの分野やビジネス界でも知られ、実践されています。

お茶とお能と武道とスポーツと仕事の共通点は、すべて「実技」だということ。「守」「破」「離」の三つのステップを順に踏んでいくことが、実技の上達には大切だというのです。

守破離を簡単に説明すると、

守……師の教えや流派の型を守って、それを数多く反復し、体得する
破……他流派の教えなども含め、自分独自の工夫をして、型を破る
離……さらに発展させ、自分の型を創り、離れる

となります。

つまり、自分流を確立したかったら、まずは、すでにある「型」をきちんと守れ、ということなのです。剣道でいえば、「上段の構え」といった型がその流派にはちゃんとあります。

入門初日から、自分のオリジナルの型で剣道をやる人なんて、単なる「型なし」です。まず、入門したら、その型で毎日何百本も素振りをし、それを何年も守り続けます。何年も型を守った人だけに、その型を破る、つまり「型破り」になる権利があるのです。

PDCAを回すことも型の一つ

では、仕事の「型」とはなんでしょうか? たとえば一番有名な仕事の型は、「PDCA」かもしれません。Plan(計画)して、Do(実行)して、Check(検証)して、Act(改善)する、このサイクルを回すと、生産性が高まりますよ、という一つの型です。

5W3H、QCD、ハーバード流交渉術……、他にもたくさん型はあります。そして、もう一つの型は、「師匠」です。

お茶なら千利休を、お能なら観阿弥から学び、まずは真似れば良いのです。ニューヨーク・ヤンキースの田中投手は、東北楽天ゴールデンイーグルス時代にダルビッシュ選手にストレートの投げ方を教わったそうです。

「学ぶ」の語源は真似る(まねる)

あの「お笑いの天才」と言われるダウンタウンの松本さんも、最初は浜田さんと一緒に、「紳助竜介(島田紳助さんと松本竜介さんがやっていた漫才コンビ)」の漫才のコピーを、公園で一所懸命に繰り返したとTVで言っていました。

木村拓哉さんも、キング&プリンスの平野くんも、先輩の歌と踊りのコピーから始め、先輩のライブのバックダンサーをやり、そうやって守り、破り、離れることを通して、個性のあるトップアイドルへとステップアップしてきたのだと思います。

そうです。「学ぶ」という言葉の語源は、「真似る」だったのです。

それなのに、なんでもいきなり自己流でやろうとするという「しなくていい努力」をした私は……、30歳の時、絵にかいたような「型なしビジネスマン」になっていたのです。