商談力、プレゼン力、ディベート力、ファシリテーション力……。20代の私は、コミュニケーション能力とは、こうした力のことだと思っていました。

私は営業職だったので、とにかく「商談力」を磨かなければ、と気負っていました。商談がうまい先輩にも同行させてもらい、一流の商談を見させてもらいました。

そして私は、担当である大手の外食企業の窓口担当者に通い詰め、何度も何度も商談を重ねました。最初は名刺交換ですらぎこちなかった私の商談力も、場数を踏むことによって、徐々に高まっていきます。

しかし、私の売り上げは、どんどん下降していったのです。

  • 何度商談しても、結果が出ずに困ったことはありますか?(写真:マイナビニュース)

    何度商談しても、結果が出ずに困ったことはありますか?

「何を言うか」よりも「誰に言うか」が大事

「ダメな営業って、『ネズミの回訪』なんだよな」

あるとき、上司が、私にボソッとつぶやきました。続けて、

「ネズミを迷路に入れると、ずっと同じルートしか通らないんだって。それと同じで、ダメな営業って、いつも同じ人にしか会いに行かないんだよな」

と私の目を見て言ってくれました。ところが、残念極まりないのですが、そのメッセージが自分に向けられたものだと、気付きませんでした。

担当者とどれだけ懇意になっても、どんなにキレキレの商談をしても、その人がキーパーソンでなかったらその努力は報われません。たとえば自分が足しげく通っている「仕入部」ではなく、実は「開発部」が力を持っていて、そこがメニューから使う食材まで、すべてを決めてしまっているのかもしれないのです。

もしそうなら、開発部を相手に商談をしない限り、話は決して前には進みません。それなのに私は、「もっと自分の商談力を高めよう」とだけ考え、同じ担当者とばかり商談を繰り返すという、「しなくていい努力」を続けてしまうのです。

コミュニケーションでは、「何を言うか」はたしかに大事です。しかし、「誰に言うか」を間違っていたら、まったく意味がなくなってしまうのです。

どんなに信頼性の高い人が良い内容の提案をしても、言う相手を間違えていたら、絶対に成果は出ません。

良い舞台に立ちたければ自分で創る

コミュニケーション能力とは、「舞台の上での力」だけではなく、「効果的な舞台を創る力」がプラスされて成り立つもの。「商談力」が「舞台の上での力」だとすると、「アポを自分とれる力」が「舞台を創る力」です。

説明力が「舞台の上での力」だとすると、「不機嫌で忙しそうにしている上司に『いまお時間よろしいでしょうか?』と自分から行ける力」が「舞台を創る力」です。ファシリテーション力が「舞台の上での力」だとすると、「自分で会議を設定し、参加を招集できる力」が「舞台を創る力」です。

「窓口担当者」といった、いつも決まっているその舞台が、必ずしも良い舞台とは限りません。良い舞台は、待っていても与えられる保証は無く、立ちたかったら、自分で創らなければならないのです。

それなのに私は、舞台を創ることには完全に"受け身"でした。「与えられた」安全な舞台でしか、演じようとはしないのです。

優秀な営業の先輩の「行き先ボード」には、仕入部だけでなく、開発部、営業部、広報部……と、毎日違った行き先が書かれていました。

それを当時の私も見てはいたのですが、ただ見ていただけで、残念ながらそこから何も学ばなかったのでした。

執筆者プロフィール

堀田孝治(ほった・こうじ)
クリエイトJ株式会社代表取締役

1989年に味の素に入社。営業、マーケティング、"休職"、総務、人事、広告部マネージャーを経て2007年に企業研修講師として独立。2年目には170日/年の研修を行う人気講師になる。休職にまで至った20代の自分のような「しなくていい努力」を、これからの若手ビジネスパーソンがしないように、「7つの行動原則」を考案。オリジナルメソッドである「7つの行動原則」研修は大手企業を中心に多くの企業で採用され、現在ではのべ1万人以上が受講している。著書『入社3年目の心得』(総合法令出版)、『自分を仕事のプロフェッショナルに磨き上げる7つの行動原則』(総合法令出版)他。