自分の意見を通すためには……議論に勝てなければいけないな!
皆さんはこう考えたことがありませんか? 入社してすぐに「それは、なぜ?」「どうして、そう言えるの?」などと、上司の質問攻めにあった私は、
(やはりこの会社では「ロジック」が最重要なんだ。ロジックを磨き、議論に勝つヤツだけが成功できるのだ!)
と確信したのです。
議論で勝つことでコミュニケーションが悪化
おかげさまで、私にはもともと論理的思考力の素養が備わっていたようです。上司からも、お前は意外と論理的だよな、などと言ってもらえるようになりました。
(よし! ロジックを俺の最大の武器にしていこう!)
私は自分の論理的思考力を磨くことに最大の力を注ぎます。そして、そのロジックで常に相手に議論で勝つことを心がけ実践します。
努力の結果、他部署との打ち合わせでも先輩である相手を論理で言い負かすまでに成長しました。
商談でも、お客様の反論に対し理路整然と切り返すことができるようになりました。
(よし、これで成果が出るぞ!)
しかし、他部署は協力してくれないしお客様からは受注できません。
「議論には勝つ」という努力を重ねたのに、むしろコミュニケーションは悪化し、ますます業務は停滞するようになったのです。
商談に勝ったら、商売には負けていた
優秀な営業の先輩から、そのコツをヒアリングしてくるという研修があり、私は事務局としてそのヒアリングに立ち会いました。その中で、優秀な先輩営業の一人が「商談に勝つやつは、商売には負ける」とつぶやいたのです。私はその言葉を聞いて、ハンマーで頭を殴られたような衝撃を受けました。
そして、その先輩は「絶対にやってはいけないのは、商談相手を論破すること。なぜなら、お客様は『自分を一番勝たせてくれる人』にだけ発注するのです。だから『お客様がいかに勝っているか』を営業は話せば良いのです」と話を続けたのです。
仕事は「相手を勝たせた人」だけが勝てる競技
もちろん、ビジネスにおいて論理的であることはとても大事です。しかし「論破する」「言い負かす」方向で、つまり「自分が勝って、相手が負ける」ようにロジックを駆使しても絶対に成果は出ないのです。
ビジネスは、お客様を、相手を勝たせた人だけが結果的に勝てる競技だからです。ロジックは大事です。が、何より大事なのはそれを使う「ベクトル」だったのです。そして、これはなにも営業に限った話ではありません。
・自分を言い負かす相手に他部署の人は付いてくるか?
・自分を常に負かそうとする先輩に、後輩は付いていこうと思うか?
・論戦をふっかけ、言い負かす部下を上司は助けてくれるか?
それなのに20代の私は、ますますロジックを磨き、相手を言い負かせて……と、「しなくていい努力」を続けてしまったのです。
執筆者プロフィール
堀田孝治(ほった・こうじ)
クリエイトJ株式会社代表取締役
![]() |
1989年に味の素に入社。営業、マーケティング、"休職"、総務、人事、広告部マネージャーを経て2007年に企業研修講師として独立。2年目には170日/年の研修を行う人気講師になる。休職にまで至った20代の自分のような「しなくていい努力」を、これからの若手ビジネスパーソンがしないように、「7つの行動原則」を考案。オリジナルメソッドである「7つの行動原則」研修は大手企業を中心に多くの企業で採用され、現在ではのべ1万人以上が受講している。著書『入社3年目の心得』(総合法令出版)、『自分を仕事のプロフェッショナルに磨き上げる7つの行動原則』(総合法令出版)他。