「セールスなんですけど、商談で主導権を握っている手ごたえがありません」 「強い想いを持っているんですけど、相手を説得した感触が得られないんです。なかなか自信が持てません」 「一生懸命に話しているんですけど、なんかスルーされている感じがするんですよね」――こんなご相談をよく頂きます。

人を説得できない大きな原因は、社内も社外も公の場でも、ワンパターンで話していることです。

  • 商談で相手を説得した感触を得られていますか?(写真:マイナビニュース)

    商談で相手を説得した感触を得られていますか?

ワンパターン化していませんか

具体的な例から見てみましょう。

代理店営業のヤマダさんは、A社さんに自社商品を取り扱ってもらえるように交渉中です。でもなかなか苦戦しているようです。

「そうですか……。弊社製品をお取り扱いいただけないということですね。(ライバルの)B社さんにはお取り扱いいただいているんですけれども……。はい? まったくおっしゃるとおりですね。B社さんはB社さん、御社は御社ですよね。承知致しました」

ビジネスパーソンが必ず仕事で使わなければならないのが、「言葉」です。仕事は必ず言葉を使うことで進んでいきます。

代理店営業のヤマダさんも言葉で交渉しています。しかしこのようにワンパターンで話していると、なかなか主導権を取ることができません。

次に同じ状況で交渉している、スズキさんの話し方を見てみましょう。

「え? 弊社製品を取り扱わないんですか?もったいないなぁ。実にもったいない。(ライバルの)B社さんは、既に弊社製品を販売していて、大口のお客さんをバンバン開拓しているんです。御社にもビジネスを拡大していただきたいと思っているんですけどね。もったいないなぁ」

スズキさんの場合、ヤマダさんの話し方と比べて、丁寧さはやや下がっていますが、説得力が増したように感じませんか?

場の空気を作るコードスイッチ

ビジネスでは、相手をリスペクトし、丁寧な言葉で話すことは基本中の基本。一方で、物事の流れは「空気」で左右されます。

たとえば何度も打ち合わせを重ねて作った企画が、ある空気で突然ひっくり返されたり、粘り強く説得しても全く手応えがなかったのにちょっとした空気がきっかけに承認されたり、という経験をされた方も多いのではないでしょうか。

主導権を握って相手を説得するには、場の空気を作り出すことが必要です。空気は読むものではなく、主導権を握る側が「作るもの」です。

そして空気を作るために有効なテクニックが、「コードスイッチ」。スズキさんが使っているのが、このコード・スイッチです。ちょっとした言葉遣いの違いですが、大きな差を生み出します。

コードスイッチとは

多くの人たちは、普段は「です・ます」で話します。そこに「だ・である」または「体言止め」(名詞や代名詞で終わる言い方)を混ぜて話す言葉使いが、コードスイッチです。コードスイッチを使うことで説得力が上がり、空気を作り出すことができます。

社内や社外でリーダーシップを発揮し、説得力が高い人はコードスイッチを使っていることが多いのです。

例えば、新規事業担当者なら、こんな話し方です。

「よろしいですか。今回の新規事業は、なんとしてでも成功させなくてはいけない。わかりますか。我が社の社運をかけているんです。このままでは、我が社の将来はない」

硬さと柔らかさ、間接的と直接的といった、メリハリのある言語表現をすることです。このような話し方は、話し手の揺るぎない気持ちが伝わり、人に迷いを与えません。

さらにコードスイッチは、話し手のステイタス、言い換えれば「品格」や「地位の高さ」を上げてくれます。ビジネスでステイタスを上げられれば、相手よりも「位置どり」を高く取ることができ、優位にビジネスを進めることができます。

コードスイッチをうまく使うリーダー

小泉進次郎議員の説得力が高いのも、コードスイッチを使っているからです。

「厳しくても、ビシビシ本音を使えていかなきゃ。そうすれば努力の方向性が分かるからです。何を努力したらいいか分からない人がいっぱいいるから」
出典:2015年9月14日「世界にも通用する究極のお土産〜『新しい東北』の挑戦〜」

柳井正さんもコードスイッチを用いています。

「これまでのアパレルの小売業から情報製造小売業に変わる。そういうことです。お客様、お客様、お客様。お客様と我々。お客様に最高のサービスを提供する。世界とつながる。そういう風にしていくということです」
出典:2017年3月16日「UNIQLO CITY TOKYO "Great Hall"」

このようにリーダーシップがある人は、コードスイッチを使っています。コードスイッチを使うことで、仕事にかける強い気持ちがより相手に伝わるようになるのです。もしあなたも自分の仕事にかける「強い想い」を持っていたら、ぜひこのコードスイッチを使ってみてください。

コードスイッチは、ちょっとした言葉遣いの違いです。コードスイッチを使うことで、あなたの強い想いがほとばしるように相手に伝わり、場の空気を作ることができるはずです。

執筆者プロフィール : 永井千佳(ながいちか)

広報・IR・リスクの専門メディア月刊「広報会議」では、2014年から経営トップ「プレゼン力診断」を毎号連載中。さらに、NHK総合、週刊誌「AERA」、文化放送、J-WAVE、TOKYO FM、雑誌「プレジデント」、日経産業新聞など、さまざまなメディアでも活動が取り上げられている。主な著書に、『DVD付 リーダーは低い声で話せ』(KADOKAWA 中経出版)がある。