「他の人にはニコニコ話す上司が、私に話すときは厳しい」 「皆と同じような成果なのに、なぜか自分にだけは厳しいフィードバック」。若手のビジネスパーソンに悩みや不満を聞いていると、このように「自分にだけ厳しくされているようで、納得がいかない」という声をよく聞きます。

もちろんこのような場合、機嫌が悪かったり、好き嫌いで人と接していたりと相手側に問題があるケースも実際には多いでしょう。しかしその「相手の厳しい対応」が〝自分にだけ″よく起きるのだとしたら、それは要注意です。

今回はかつての私のような「しなくていい努力」をしないために、自分にだけなぜこのようなことが起きるのか、そしてどのように対応していけばいいのかを考えていきたいと思います。

  • 自分だけ厳しく言われると感じたことはありますか?(写真:マイナビニュース)

    自分だけ厳しく言われると感じたことはありますか?

自分の問題だと疑ってみる

私自身20代の時に「自分にだけ厳しくされた」という経験があります。私にだけ厳しく接してくる相手は……主に上司でした。

一人の上司だけが私に厳しくするのではなく、上司が代わっても、異動しても、その状況がほとんど変わらないのです。相手が代わっても自分にだけ同じことが起き続けるのであれば、確率的には「自分の側に問題がある」可能性の方が圧倒的に高いですよね。

しかし20代の私はずっと上司の方が悪いのだと信じ込み、自分の側の問題を見ようとはしませんでした。これがまず最大の問題だったと痛感しています。では、なぜ、どの上司も私に厳しかったのでしょうか。

実は最も大きい原因の一つが私の拙い「非言語コミュニケーション力」にあったのです。

非言語コミュニケーション力の大切さ

コミュニケーション力には言葉や文字といった「言語力」と服装・髪形・表情・うなずき・あいづち・声の大きさなどの「非言語力」の二つがあります。

しかし20代の私は「非言語力」に対する意識がとても低く、つまり言葉と文字さえちゃんとしていればそれで良いのだと思って、コミュニケーションをしていたのです。

たしかに学校のペーパーテストは言語力だけで勝負できます。答案用紙にきちんとした「言語」が書ければ、笑顔で書いても仏頂面で書いても、同じ点数がもらえます。

しかし仕事はそうはいきません。

そうです……私の「悪い非言語」が上司の態度を厳しくさせていたのです。具体的にいえば、私はいつも怒ったような、すねたような表情で上司に報告をしていました。

同じ「ありがとうございました」という言葉でも、笑顔で深々とお辞儀をして言うのと、目を合わさず、すねたような顔で小さな声で言うのとでは当然相手には違ったメッセージになります。

さて、そんな私に上司はニコニコできるでしょうか? 皆さんもニコニコ笑っている店員さんと、にこりともせず、すねた表情をしている店員さんとでは普通に対応を変えていると思います。

上司と先生は違う

では私はなぜそんな非言語で対応してしまったのでしょうか? 非言語の重要性を知らなかったのがやはり一番の問題でしたが、その奥には上司に対して学校の先生に対するような「甘え」があったのだと思います。

学校の先生は笑顔の生徒にもふてくされた生徒にも同じように笑顔で接してくれますよね。(むしろ、ふてくされた子供に対しての方がより笑顔だったりします)

それはなぜかというと、ある意味生徒は先生にとってお客様だからです。では部下は上司にとって「お客様」なのでしょうか? 残念ながら、先生と違って上司は部下から授業料などもらっていません。ですから態度が良い部下と悪い部下では対応が違ってきて当たり前なのです。

上司が厳しく接することは悪いこと?

上司が厳しく接してくる理由が実は別にもう一つありました。ある時、酔った勢いで上司に「なんで自分にだけ厳しいのか?」と訴えてしまいました。そんな私に対する上司の答えは……

「君には特に期待しているから」

という私の想定外の考えてもいなかったものでした。その上司は私が一人前のビジネス―パーソンになれるかどうか、ここが大事なタイミングだと考え、特に私に対しては厳しく接していたのです。

「褒められているうちはお客さん、厳しくされて一人前、何も言われなくなって独り立ち」

その上司はきょとんとする私にそう言いました。


もし、ずっと上司がニコニコと優しかったら……それは、ひょっとしたら危険信号なのかもしれません。

執筆者プロフィール

堀田孝治(ほった・こうじ)
クリエイトJ株式会社代表取締役

1989年に味の素に入社。営業、マーケティング、"休職"、総務、人事、広告部マネージャーを経て2007年に企業研修講師として独立。2年目には170日/年の研修を行う人気講師になる。休職にまで至った20代の自分のような「しなくていい努力」を、これからの若手ビジネスパーソンがしないように、「7つの行動原則」を考案。オリジナルメソッドである「7つの行動原則」研修は大手企業を中心に多くの企業で採用され、現在ではのべ1万人以上が受講している。著書『入社3年目の心得』(総合法令出版)、『自分を仕事のプロフェッショナルに磨き上げる7つの行動原則』(総合法令出版)他。